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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第一章『転性編』
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第四話『料理』

「さて、せっかくリリーが我が家で暮らす事になったんじゃ。退院祝いも兼ねて何かご馳走でも食べに行くとするかのぅ」

 その後、家の中の案内を終えた婆ちゃんがそう切り出してくる。


 家の中の生活空間はあまり多くなかった。

 部屋自体は多いのだが、ほとんどが空き部屋だったり婆ちゃんの研究施設であったりと、もはや研究所に居住スペースが備えられているくらいな感じであった。


 研究施設の立ち入りは特に禁止はされていないが、触れると危険な物とかも多いので、好んで出入りをしたり、むやみやたらに物に触れない方が吉だと言われる。

 変な物触れて怪我したり病気にはなりたくないので、入室自体あまりしたいとは思わなかった。



「リリーは何か食べたい物はあるか?」

「え?ラーメン、とかかな…?」


 元々の俺の好物はラーメンであったので、咄嗟に答えたのはそれだった。


「なんじゃ、普通は寿司とか言わんか?」

「俺、寿司とか食べれない…」

 生魚全般苦手である。

 まず食感がダメだし、食感を無視して無理矢理飲み込んでも、気持ち悪くなって吐いてしまうかお腹を壊す。

 そんな苦手な食べ物を好んで食べようとは思わない。


「むぅ、じゃあ高級フレンチにでもするか?知り合いがレストランを経営しとるでの」

「高級路線から外れようよ。普通に家で栄養バランスのとれた食事にちょっとだけ好物を多めにした料理作るとかで良いよ」


 からあげとか多めだったら嬉しい。


「ワシは料理などできん!」

「天才なんでしょ!?」

「天才でも料理はできん!」


 一応訂正をしておくと、料理は全くできない事はないけど、あまりしようとは思わないそうだ。

 完璧なレシピが用意されていれば、そのレシピ通りには作れる。だけど、ほとんどのレシピが「小さじ何杯」や「弱火で何分」などといった曖昧な表記をしているせいで、完璧を求める主義の婆ちゃんにとっては「キチンと何グラム単位、どの温度で何分、とはっきりと表記せんか!」と、憤っているらしい。

 だから今までほとんどが外食だったそうだ。


「あ~も~…じゃあ、俺が作るよ」

「む?リリーは料理できるのか?」

「少しくらいならね」


 そりゃ母親と比べたら作れるレパートリーは少ないけど、家でよく手伝いとかしていたからそれなりに料理は作れる腕前である。

 それを話すと、婆ちゃんは「おぉ…可愛い孫娘の手料理が食べれる日が来るとは…」と感動をしていた。

 あんまり期待されると困るな…。



 とりあえず、台所に移動をして冷蔵庫やシンクの下などを確認する。

「何で調味料が塩と醤油しかないんだよ…」

「それだけあれば充分じゃろ」

 全然充分じゃないよ。マヨネーズや料理酒とか酢とかみりんとか、足りない物が多すぎる。


 それでいて、大きな冷蔵庫の中はほとんど空っぽだった。

 本当に自炊しない人なんだなぁ…。

 とりあえず、買い物に行こう。



 婆ちゃんの車に乗せてもらって、俺は家から一番近い食品を売ってる店へと向かう。

 そこはスーパーマーケットではなく、ディスカウントショップだった。


「ん~…調味料とかはここで買うのも良いけど、生鮮品を買うならやっぱスーパーの方が良いかな」

 でも、家からそこそこ近い位置にディスカウントショップがあるのは大きなメリットだな。

 自転車も売ってるから、今度買いに来ようかな?


 結局ディスカウントショップでは何も買わずにスーパーへと移動をする。

 スーパーマーケットも家からあまり離れてない位置にあったので、買い物で不便をするという事はなさそうだった。


「婆ちゃんは嫌いな食べ物とかある?」

 ショッピングカートを押しながら、隣を歩く婆ちゃんに質問をする。

「そうじゃの。フォアグラはあまり好きでないな」

「うん、聞いた俺がバカだった」


 フォアグラがあんまり好きじゃないのに、フランス料理食べに行こうとかよく言えたもんだな…。

 まあ、食べたくなかったら食べなきゃいいだけの話か。

 俺はフォアグラなんて食べた事ないけど。


 それからは俺が選んだ食材が食べれるか食べれないかの質問に変えていき、俺は買い物カゴに食材を入れていく。

 冷蔵庫の中になくて、今後必要そうな物も一緒に買っていったので、かなりの量となった。


「それ全部を今日食べるのか?」

「流石に今日全部使ったりはしないよ。今後の分。明日の朝ごはんとかだってあるし」

 これからお世話になるのだから、せめて家事は俺が引き受けよう。特に料理。



 それから家へと戻り、俺はほとんど空っぽだった冷蔵庫の中を補充していく。

 冷蔵庫の中に物を入れ終わると、冷蔵庫から「ブーン」という音が少しだけ強くなった気がした。

 なんとなく、冷蔵庫がようやく本来の役割を果たす事ができた、と喜んでいる気がしなくもなかった。


 シンクの下や棚に各種調味料や香辛料を置いていき、俺は料理にとりかかる。

 家に帰ってから「やば!食器とかあるのかな!?」と買ってこなかった事に焦ったが、食器類は何気に高級そうな物が揃っていたので一安心だった。



 身長はもちろんだが、手の大きさなども今までと違うので、最初は悪戦苦闘の連続だった。

 コンロはガスじゃなくてIHだったから婆ちゃんに使い方を教わるまで全くわからなかった。

 これは慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。

 包丁を扱っている時なんか、婆ちゃんは俺の後ろでハラハラと見守っていたくらいである。


 踏み台を何度も昇降し、せかせかと動きながら調理を進める。

 それから少し時間はかかったけど、俺は無事に料理を完成させた。

 この日のメニューは、リリーの退院祝いも兼ねて少しだけ贅沢をさせてもらったメニューだ。

 と、言っても、それは俺にとっての贅沢であり、婆ちゃんにとってはあまり贅沢ではないかもしれないけど。


「おぉ!美味そうじゃの」

 並べられた料理に婆ちゃんは嬉しそうに笑う。


 シンプルに塩胡椒のみで味付けされた牛フィレ肉のステーキに、小さなメークインと一口サイズにカットした人参を炒めた物を横に添えたメインディッシュの皿。

 キャベツの千切りに薄切りした胡瓜と食べやすいサイズにカットしたトマトを乗せたサラダ。

 あと、メインに牛肉があるけど、俺自身が食べたかったから作った鶏のからあげ。

 それにわかめと玉ねぎのスープ。そして白米。


 まあまあ豪華な食事なんじゃないだろうか?


 婆ちゃんはそこに高級そうな赤ワインを並べ、おもむろにスマホで写真を撮っていた。

 そんな撮るようなメニューじゃないと思うけどなぁ…。


「ふふ、孫が初めて作ってくれた手料理…。こんなに嬉しい事はないのぅ」

 その目には涙が浮かんでいる。

 その言葉を聞いて、俺もちょっと泣きそうになった。


「あ、そういえば俺もスマホ欲しいな」

 話題逸らしついでに婆ちゃんが使っているのを見て、ふとそう呟く。

「あぁ、パソコンと違ってスマホは自分で選んだ方が良いと思うての。明日、買いに行こうか」

「うん、ありがと」


 そして俺と婆ちゃんは手を併せて「いただきます」の言葉の後に料理を食べ始める。

「んー!美味しいではないか。リリーは料理の才能があるのう!」

 一口食べただけで婆ちゃんがメチャクチャ褒めてくる。

「ちょっと奮発して素材が良いのを買ったからだよ」

 素直にありがとうと言えなかった俺はそうやって気恥ずかしさを誤魔化した。


「謙遜するでない。特にこのからあげはよく味が染み込んどいて美味いぞ」

「か、からあげはちょっとだけ自信ある、かも…」

 時間があればもっと味を染み込ませて美味しく仕上げる事もできたんだけど、下味付けの時点で「この配分は完璧すぎる!」と、我ながら良い下味付けができたと思っていたので、からあげを褒められたのは素直に嬉しかった。


「はっはっは。耳まで赤うして、リリーはやっぱり可愛いのう!」

 婆ちゃんは上機嫌に笑う。

 こうして、家族と食卓を囲む事自体が婆ちゃんにとっては五年ぶりなんだ。

 それだけで婆ちゃんにとっては最高の調味料になっているんだろう。


 その後、俺と婆ちゃんは会話を交えながら、家族団欒を満喫したのだった。




 ちなみに、婆ちゃんがスマホで撮った写真をSNSに『孫娘が初めて作ってくれた手料理』と、投稿をしたところバズったそうであり、『お孫さんを僕にください』などと言ったコメントが大量に発生したそうな。

次回更新予定:本日午後16時。



・裏設定

花蓮の家:オール電化住宅



・嘘次回予告


花蓮の研究、それはウイルスに侵された人間をゾンビにしてしまう恐ろしいウイルスの研究だった。

真実を知ったリリーは、花蓮の研究を阻止と脱出の計画を図る。

しかし、全ては花蓮の手の平の上だった。


ウイルスに侵されてしまったリリーは、ゾンビとなって街を彷徨い、生者に襲い掛かる。

リリーに噛まれた者もウイルスに感染してしまい、ゾンビとなってしまう。

恐ろしきパンデミック、人々はこの地獄から生還する事ができるのか!?


次回、ゾンビハザード第五話『感染拡大』

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