第三十九話『解けるわだかまり』
大学を卒業し、待ちかねた日がやってきた。
今日は、わたしと椿の結婚式である。
「うぅ…緊張するなぁ…」
式場の控え室で椿がうろうろと歩きまわっていて落ち着きがなかった。
まあ、気持ちはわからないでもない。わたしも緊張しているし。
緊張はしているけど、それ以上に嬉しさが込み上げている。
今日というこの日を過ぎれば、わたし達は夫婦になるのだから嬉しくないわけがない。
椿が婿入りをするので、わたしの名字は変わらない。
椿の名字が橘になるのだ。
招待客はこんな感じになっている。
わたしの招待客は、まずはわたしの…『俺』の両親である。
これは絶対に外せない。
だって、事情を知らないとは言っても、わたしの晴れ姿を見せられるチャンスなのだから。
他には中学と高校の友達、それと大学でできた数少ない友人二名。
高校の男子バスケ部顧問の先生に、バイト先の人達である。
バイト先の人達の中には、来たくても店を休業するわけにはいかないので参加できない人達がいる。
参加できなかった人達は、皆参加したかったと悲しんでいた。
中学と高校の友達は、かなりの人数が来てくれた。
わたしが結婚する事を知っている友達もいたけれど、招待状が届いてわたしが結婚すると知って驚いていた人達の方が多い。
そして、その驚いた人達のほとんどが、「だから言ったでしょ?こうやって彼氏も作らないし一生結婚しないとか言ってた人に限って、ある日突然しれっと結婚するんだから」って言っていたのには、苦笑しかできなかった。
確かに言ってたなぁ…。
それと、高校の男子バスケ部顧問の先生には、代表スピーチをお願いした。
半年程前に高校に伺い、先生にお願いをしていたのだ。
わたしと椿が揃って先生にお願いをしに行った時の先生の驚きの表情ときたら…。
まあ、そりゃ驚くよね。
教え子が、それも本来であれば接点のないはずの二人が結婚をすると報告に来たのだから。
この時、椿は先生に土下座で謝罪をしていた。
バスケ部を潰す原因を作ってしまった事に対して、それと、不貞腐れて先生の言葉にも耳を傾けずにいた事を。
先生は目に涙を溜めながら椿を赦し、同時に当時の椿に対して何もできなかった自分を赦してほしいと謝罪をしていた。
二人は抱き合いながら、目に涙を溜めながらお互いを赦しあった。
わたしとしても、憧れである二人のわだかまりがなくなって嬉しく思う。
先生の代表スピーチは、椿と『俺』、その時のバスケ部員の話題、そしてそのバスケ部が廃部になってしまった事を話し、そして続いてわたしが入学をしてきて、バスケの1on1をして、再びバスケ部を作り直した事が題材となっていた。
バスケ部が廃部になってしまった原因の人物、新たにバスケ部を立ち上げようと考えなおすきっかけとなった人物。
それらの先生にとって思い入れ深い人物が、こうして巡り合って結婚する事になった事を話し、最後に涙を流しながら大きな声で、わたし達の門出を祝ってくれるという良いスピーチをしてくれた。
…まあ、椿にはちょっと耳の痛いスピーチだったかもしれないけどね。
椿の招待客は、会社の上司や同僚となっていた。
それ以外は、呼びたくても呼べない、連絡のつけようのない人達ばかりだったからだ。
それでも、会社の人達を招待できるほど、自信を取り戻せていたのは良かったと思う。
もしも、あの借金だらけの時のままの椿であれば、連絡がすぐに取れるはずの人達にも関わらず、招待できなかっただろうからね。
椿の会社の上司や同僚とはわたしは何度か会った事がある。
椿の飲み会にわたしも誘われた事もあったし、何度か家にも招待した事があるからだ。
最初は椿はいじられまくった。
そりゃもういじられまくっていた。
椿の身長は百九十二センチメートルで、わたしの身長は百三十九センチメートルと、かなりの身長差がある。
ロリコン疑惑をかけられていじられまくったのだ。
まあ、わたしの見た目って良くても中学生、普通で小学生にしか見えないもんね。
わたしが『俺』の時に知っていた椿の女性の好みは、確か巨乳のお姉さんがタイプだったはずである。
椿の好みが変わっていなかったら、巨乳という事以外はわたしは対象外であるはずだ。
だから、椿は元からロリコンなのではなく、わたし限定でのロリコンなのである。
まあ、性格上ではわたしは結構包容力のあるお姉さん的な感じにはなれてるとは思うけど。やっぱり見た目がね…。
でも、会社の人達も、わたしの対応や物腰を見て、次第に椿をいじるのはやめていった。
むしろ、椿に対して「人を見かけで判断せずに、本当に良い女性を見つけたな」と、褒めたり羨ましがったりしていたくらいである。
なんとも、親しみやすく温かい会社の人達なんだろう。
椿が苦しんでいる時に、椿を迎え入れてくれて、その後も優しく見守っていてくれただけの事はある。
あとは、お婆ちゃんが病院でのわたしの知り合いを呼んでくれた。
わたしが目覚めたばかりの頃、リハビリを懸命に手伝ってくれた看護婦さんとか、あんまり喋ってはないけど、そこそこ顔見知りの人達を呼んでくれたのだ。
そして、お婆ちゃんがわたし達の結婚式に招待してくれたのは、それだけではなかった。
「椿…」
控え室のドアがノックされ、お婆ちゃんと共に入ってきた人物…それは…。
「と、父さん…母さん…!!」
椿の両親であった。
わたしも驚いた。
お婆ちゃんが椿の両親と一緒に控え室にやってきたのかも驚いたけど、それ以上にどうやって椿の両親を見つけだしたのか。
あとで聞いた話だと、知り合いの探偵と共に探し当てたのだという。
凄いよね。探偵に任せたんじゃなくて、自分も一緒に探して探し当てたってところが。
そして椿の両親と会って、勘当した後の椿の事を説明し、結婚式を挙げる事になったから、せめてこの日だけでも見にきてやってくれないかと説得をしたらしい。
最初はもちろん渋ってはいたそうだが、お婆ちゃんの話を聞く内に、椿が改心して人生をやり直している事を理解し、椿に会いたくなった。
しかし、次第に追い出してしまった罪悪感から、やはり会えないとも思ってしまったらしい。
でも、晴れの日くらいはそのわだかまりを忘れ、ただ祝ってあげて欲しいとお婆ちゃんが説得してくれた甲斐あって、来てくれたようだった。
「父さん!母さん!あの時は、本当にすいませんでした!!」
椿は、これから披露宴に出る為の汚してはいけないタキシードであるにも関わらず、涙を零しながら自分の両親に勢いよく土下座をして謝罪をした。
「あの時の俺は、本当にどうしようもない愚かな人間でした…!働いてお金を稼ぐのだって、こんなに大変だとは思ってもいませんでした…!本当に、迷惑ばかりかけてしまって、ごめんなさい!!」
椿が謝罪をし、それを椿の父親が「わかってくれたのならそれでいい…それよりもせっかくのタキシードが汚れてしまう。立ち上がりなさい」と言ってくれる。
立ち上がった椿は、少しだけ遠慮した距離をおいて、今度は謝罪ではない別の言葉を両親へと向ける。
「そして…来てくれてありがとうございます…。今日は、俺とリリーの晴れ姿、見て行ってください」
お礼を言って、深々とお辞儀をした椿に、椿の両親は椿が遠慮して近寄らなかった距離を縮め、椿を抱きしめた。
「おめでとう…!おめでとう、椿!幸せに、幸せになるんだぞっ!!」
「…っ!! はいっ!!」
この日、椿は追い出されてしまったその日からのわだかまりがなくなり、両親と和解した。
わたしとしても、椿の両親と挨拶できないまま結婚するのは少し心にしこりを残してしまう気分だったから、こうして椿の両親を連れてきてくれたお婆ちゃんには感謝だ。
「はじめまして。椿の妻になります、リリーです。今日は、存分に楽しんでいってください」
「はじめまして、リリーさん。…椿の事、よろしくお願いしますね」
「はい!」
丁度そこで、とうとうわたしがウェディングドレスを着る時間がやってくる。
椿を椿の両親と共にこの控え室に残し、わたしは式場のスタッフとお婆ちゃんと共にわたしの着るウェディングドレスがある部屋へと向かう。
まだまだメイクの技術が足りないわたしでは到底できないような綺麗なメイクが施され、わたしは純白のウェディングドレスを身に纏う。
その姿は、見る者誰しもを魅了した。
『天より舞い降りし花嫁』とか、呼ばれてたのには苦笑しかできなかった。
まだ、わたしの天使の称号シリーズって増えるんだね。今回は天使はなくて、天より舞い降りし、だけど。
こうして、わたしと椿の結婚式は盛大に執り行われ、今まで残してしまっていたわだかまりをほぼ全て取り除いた。
今日、この日、わたしと椿は夫婦となり、新たな人生を歩み始めたのだった。
・次回更新予定:明日。
・天使の称号シリーズ
恋の天使
男よりも男前な天使
ボクに舞い降りた天使
料理上手な天使
紺色スク水の天使
勝利の天使
(胸が)大天使
天使のパティシエ
天使の応援団長
天使の歌声
純白の天使
大食いの天使
クラシカルメイド服の似合う天使
天より舞い降りし花嫁(NEW)
・嘘次回予告
遂に結婚をしたリリーと椿。
これから二人の甘い時間が始まるかと思いきや、突如としてリリーと椿は異世界へと飛ばされてしまう。
異世界でリリーが得たスキルは『時間凍結できるスキル』、椿が得たスキルは『時間を巻き戻すスキル』であった。
時間を操る二人は、チート能力を駆使して異世界で新婚生活を贈る。
次回、Re:リーと始める異世界新婚生活 第四十話『真似コンティ』




