第三十五話『彼女として』
わたしは大学での数少ない友人に、椿から告白された直後の行動を打ち明けた。
当然、友達は驚く。
そして、告白と同時に肉体関係を持つなんてけしからん!と言って興奮しながらメモを取っていた。
「…だから、告白の本当の返事を返したのは、今朝…。『今日から恋人で良いんだよね』って言われたから、『昨日から恋人だよ』って返事を返したの」
「うわぁ!うわぁ!何その展開!」
友達のメモ帳にペンを走らせる手は止まらない。
「それで!相手は何歳!?」
「に、二十九歳…」
「結構年上なんだね!顔は?イケメン?」
「顔はわたしはカッコイイ方だとは思ってるけど、イケメンかって言われたらそこまでイケメンってわけじゃないかな?」
関係ないけど、最近はテレビでもなんでも、イケメンのレベルって低くなってる気がする。
別にイケメンでもなんでもない人が、『イケメン俳優』とか『イケメンアイドル』とか言われてるのを観ると、「そんなにイケメンには見えないけどなぁ?」って疑問に思ったりもしている。
「八歳も年上でそこまでイケメンじゃないなら…お金持ちとかなの?」
「いや、貧乏だよ。借金してたくらいだし」
むしろ現在進行形でわたしに借金しているし。
ちなみに、椿は最近になってわたしにお金を返し始めた。
ある程度余裕が出てきたみたいである。
お金を返し始めた時に、「いつか食費もきちんと返すから」って言われたけど、食費に関してはわたしが好きでやってる事だから、気にしなくても良いんだけどなぁ。
「え?何?リリーって、もしかしてダメ男に引っかかるタイプだったの?」
「そんな事はないよ…椿が相手だったからこそであって、椿じゃなかったらダメ男なんてお断りだよ…」
うっかり椿の名前を出してしまって、友達が「なるほど、椿という名前なのか」とメモを走らせていた。
「それで、その椿さんとの出会いは…?」
「まだ質問攻め続くの!?」
それからも友達による質問攻めは続いた。
ようやく質問攻めが終わった後、わたしは友達にある相談を持ちかけた。
「ねぇ、ちょっとお願いしたい事あるんだけど…」
「ん?なになに?良いネタ提供してもらった代わりに、私にできる事なら何でも叶えるよ!」
ん?今、なんでもって言ったよね?
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
一旦言葉を区切ると、友達がごくりと喉を鳴らした。
一体どんなお願いをされるのかと緊張してしまったのだろうか?
大丈夫だよ、全然難しいお願いじゃないから。
「わたしに、化粧を…メイクの仕方を教えてほしいんだけど…」
一応、高校の時に友達にはある程度は教わったけど、それ以降はあまり真剣にメイクの勉強はしていなかった。
わたしは、素で可愛いし、色白なので下手に化粧をすると子供が背伸びをして化粧をしたようにしか見えないのである。
特に、口紅なんかはあまり色の濃いものを使うと唇だけがやたらと目立ってしまう。
だからわたしは化粧を苦手としていたし、必要ないとも感じていた。
でも、今は違う。
今よりももっと綺麗に、可愛くなって、椿にもっと愛されたい。
その為には、苦手な化粧を得意にしなければならないのだ。
こんな事なら、高校の時にもっと真剣にメイクの勉強をしておくんだったと後悔している。
「なんだ、そんな事か。いいよ、ばっちりリリーに似合うメイクを教えてあげる」
「ありがと」
「ついでに、リリー用に作ったコスプレ衣装があるんだけど、着てみない?」
「それは遠慮しておくよ」
ぁ、でもコスプレしたら椿は喜んでくれたりするかな?
転性前の『俺』の時は、もしも彼女ができたら彼女にナース服とかバニー服のコスプレをしてもらいたいって妄想をしていた事もあったし、そういうシチュエーションに憧れたりもしていた。椿ももしかしたらそういうの好きかもしれない。
またもや椿の事を考えて、ニヤニヤと笑っていたみたいで、友達が「はいはい、ごちそうさま」と言って呆れていた。
その日の講義が全て終わった後、わたしはどうしようかと迷っていた。
昨日、お祝いのご馳走をして、その残りは椿の家の冷蔵庫に入っている。
わたしが行かなくても、椿はその中から自由に食べるからわたしが今日椿の家に行く必要は全くもってないのだ。
でも…。
「会いたい…」
わたしは、椿に会いに行きたかった。椿とイチャイチャしたかった。
今まで椿の家に行く時は、必ず何かしらの理由があった。
大体はご飯を作りに、それ以外では掃除で。
でも、今日は掃除も終わっているしご飯も作り置きがある。
椿の家に行く理由が本当にない。
ただ会いたかっただけで行くのは、迷惑じゃないだろうか。
重い女って思われたりしないだろうか。
色々と考え込んでしまって、頭がぐるぐるとなっていた。
「そんなに考え込まなくても、恋人同士なんでしょ?それも昨日からの付き合いたての」
「あれ!?もしかして、声に出てた!?」
恥ずかしい事を聞かれてしまった。
「むしろ、椿さんは喜ぶと思うけどなぁ。リリーみたいに可愛い子が会いたいってだけで来てくれるのは」
「そ、そうかな…?」
「そうだよ」
友達に後押しされて、わたしは一瞬で椿に会いに行く決心をした。
でも、今日はバイトがあるから、バイトが終わった後になるけどね。
一度家に帰り、お婆ちゃん用に作っていた作り置きのご飯を食べる。
お婆ちゃんは今日も帰ってこないから…。
「椿の家…泊まっちゃおうかな…?」
ボソリと呟いた。
次の瞬間には、わたしはハンドバッグに替えの下着を詰め込んでいた。
今日はなんだか無意識な行動多いな。
バイトが終わり、わたしはなるべく急いで椿の家に向かう。
一分でも早く椿に会いたかったからだ。
でも、途中である物を買いにコンビニに立ち寄る。
買うのは少し恥ずかしかったけど、これは確実にあった方が良いと思ったからだ。
そして、椿の家に到着し、合鍵で鍵を開ける。
「え?リリー?」
丁度、お風呂上がりの椿がダイニングキッチンに立っていた。
「えへへ、会いたくなっちゃって、来ちゃった」
わたしはそのまま椿の家へと上がりこむ。
「うわぁ!嬉しいよ!ご飯は昨日の残りがあったから、今日は来ないんだろうなぁ…って思ってたんだけど、まさか来てくれるなんて!」
椿は嬉しそうに笑う。
ここまで喜んでくれるとは思わなかった。あの時のわたしの来ても良いかどうか悩んでいたのは一体…。
「ご飯はもう食べた?」
「あぁ、さっき風呂に入る前に食べた」
まあ、昨日の残りだから、レンジでチンするだけだもんね。
準備にはさほど時間はかからなかったはずだ。
「お風呂のお湯って抜いちゃった?来る時に体冷えちゃったから、温まりたくて…」
今の季節は十二月なので、外を自転車で移動するとかなりの勢いで体が冷えてしまう。
「ぁ~…ごめん。まさかリリーが来るとは思ってなかったから、普通に抜いちゃった」
まあ、しょうがないよね。
それに、わたしが椿の家のお風呂を入浴目的で使ったのって、昨日が初めてだったから椿もいつも通りにしてしまうよね。
「う~ん…。溜めなおすのは勿体ないから、ちょっとだけシャワー浴びさせてもらおうかな?」
「お湯に浸かってしっかり温まった方が良くない?…コタツくらいは買おうかなぁ」
椿がわたしの事を心配してくれているのがよくわかった。
でも、水道代だって勿体ないから、ここはシャワーで我慢だ。
まあ、あまり長い時間シャワーを使うようなら最初からお湯を溜めた方が実は安上がりだったって事もあるけどね。
それからわたしは少し温まる程度と身を清める程度にシャワーを浴びた。
「ふぅ、さっぱりした」
ほかほかまでとはいかないけど、冷え切った体が少し温まったのは感じられた。
わたしはそのまま椿のすぐ隣に腰かけ、椿の肩に自分の肩を寄せる。
椿はそっとわたしの肩を抱き寄せてくれた。
「あ、そうだ。…ねぇ、椿」
「ん?」
「買うの恥ずかしかったけど、これ…買ってきたんだ…」
ハンドバッグから、椿の家に来る前に寄ったコンビニで買った物を取り出す。
指サックのような形をした、もっと大きくて薄いゴム製品。装着する部位も、指ではなく別の部位。
昨日はわたしも椿も持ってなかったからしょうがないけど、これからは絶対に必需品である。
椿はそれを見て赤面する。
「椿が疲れてたら、また今度でも良いけど…?」
「疲れてない!」
この後、むちゃくちゃ(以下略)した。
メイクに関しても、愛し合う行動に関してもそうだけど、わたしは非常に勉強不足だ。
これからは、どちらも勉強して、もっと椿を喜ばせないといけないな。
・次回更新予定:本日中。
・嘘次回予告
人類が知らない間に宇宙で繰り広げられていた戦争。
とうとうその魔の手が地球へと襲い掛かる。
地球人は手を取り合い、侵略をしてきた宇宙人と戦う事を決意する。
そんな時、宇宙人の乗っていた巨大ロボットがリリーの目の前に墜落する。
リリーは巨大ロボットに乗り込み、侵略者達を迎撃し始めた。
次回、機動天使リリー 第三十六話『翔べリリー』




