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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
最終章『身も心も…編』
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第三十四話『自覚』

 小鳥の囀りで()()()は目を覚ました。

 目を開くと見えたのは、自室のベッドの天蓋の天井ではなく、椿の家の天井だった。

 そしてそのまま首を横に向けると、すーすーと寝息をたてて寝ている椿の顔が目の前にあった。


(あ…そっか。昨日、わたし…椿と…)

 ボッと顔が熱くなったのを感じた。


 椿を起こさないようにして布団から這い出る。

 わたしは一糸纏わぬ全裸でそのまま眠っていて、そのわたしの真横で眠っていた椿も、同じく一糸纏わぬ全裸であった。まあ、布団は羽織っていたから厳密には一糸纏わぬではないかもしれないけど。


 脱ぎ散らかされていた下着と服を静かに手に取り、わたしは椿の家の風呂場へと向かう。

 昨日、あれだけ汗をかいたのにそのまま寝てしまったから、シャワーを浴びたかったのだ。



 シャワーを浴び、下着を着用して服を着る。

 風呂場横にある洗面台の鏡を見て、どこか違和感を感じる。


 いつも鏡で見ているはずの、変わらぬはずの顔なのに、どうしてこんなにも違うように見えてしまうのか。

 それは、わたしが今までこの顔を『俺』として見ていたからであり、今のわたしは、自分が見ても女の顔をしていた。


 それを理解し、昨夜の事を思い出すと同時に、また顔が熱くなる。

 鏡を見ると、そこには茹ダコのように顔を真っ赤にしたわたし(リリー)が映っていた。



 多分、五分くらいはそこで悶えていたんだと思う。

 まさか、わたしと椿があんな事になるなんて思いもしなかったからだ。

 でも、わたしは椿の告白を拒否する事なく、更にはその後の椿の行動も受け入れた。


 それを思い出した瞬間、わたしは覚悟を決めた。

 いや、正しくは昨日の時点で覚悟が決まっていたのだ。


 今までのわたしは、ずっと(リリー)の体なのに、どこか男でいるようなつもりでいた。

 だから、心の声もずっと『俺』と言っていたし男口調だった。

 常日頃の行動も少し男っぽかった。


 体が女という事で、一応は女の子らしい行動をするようには心がけていたけれど、それはどこか演技くさかったと思う。

 それは、わたしが女である事を自覚してなかったからだ。

 でも、わたしは理解してしまった。自覚してしまった。


 わたしは、女の子なんだって。

 そして、椿に告白され、キスをされ…さらには…。


 思い出したらまた顔が熱くなった。

 わたしは、女である事を受け入れ、これから女の子として生きていく。

 そして、椿の傍にいたい…。


 そう思った瞬間、わたしは椿の事がたまらなく愛おしくなった。

 いや、これも昨日の時点で無自覚に感じていたのだと、今更ながらに思う。



 この後、わたしは二人分の朝食を作る。

 何気に、わたしが初めて椿に作った料理と同じメニューになってしまっていた。


 まだ寝ている椿の隣に座り、優しく揺り起こす。

「起きて、朝だよ」

「ん、んぅん…」

 結構難しい発音の唸り声をあげながら、椿は目を覚ます。


「リリー…おはよ」

 寝惚け眼をこすりながら、椿は優しい笑顔をして起き上がる。

 椿のそんな顔を見ると、愛おしさが溢れだしてきた。


「おはよ、椿。…ん」

 わたしは起き抜けの椿の頬にフレンチキスをする。

 瞬間、椿は目を見開いて驚いていた。


「ふふ、ご飯できてるけど、先にシャワー浴びてきたら?昨夜、沢山汗かいたんだし」

「ぇ?ぁ、うん。そうだね」


 椿も昨夜の事を思い出したのか、顔を真っ赤にしていた。

 可愛いなぁ~…。


「その間に、わたしはシーツを洗濯しちゃおうかな。汚れちゃってるし」

「え?洗濯しちゃうの…?なんか勿体ないなぁ…」

 椿が勿体ないと言ってるのは、シーツに残ってしまっているわたしが純潔であった証が消えてしまう事に対してである。

 わたしとしてはなるべく早く消したい!


「新しいシーツを買う事にして、その部分だけ切り取って記念に…」

「させないよ!?」


 なんだよ、記念って!流石に恥ずかしいよ!


 わたしは椿をさっさとお風呂場に押し込んで、シーツを少し乱暴に洗濯機の中に投げ入れる。

 早く消したい証だったからね、しょうがないよね。



 椿がシャワーを浴び終わって出てきたら、味噌汁を温めなおして朝食の準備をする。

 テーブルの上に並べられた二人分の料理。今までは気にしてなかったけど、使ってる食器が全部色違いなだけのペアになってるのが何気に嬉しく感じられた。


 朝食を食べ終わったら、椿は出社の準備。

 わたしは椿のお昼用のお弁当の準備だ。


 完成したお弁当の白ご飯の上には、桜でんぶでハートマークが作られていた。

 あれ…?これ作ったの、わたしだよね?完全に無意識で作っていた。


 恥ずかしさから、椿に見られないように急いで蓋を閉める。

 どうしよう…今からでもご飯詰めなおそうかな…?

 でも、これはわたしの気持ちがこもっているし…。


 色々と悩んだけど、これはそのまま渡す事にした。

 だって…。



「そういえば、さ…リリー」

「なぁに?」

「昨日、俺が告白をして、その後も拒否しなかったって事は…俺達、今日から恋人で良いって、事、だよな…?」


 朝食を食べている時に、椿がこんな事を言い出したのだ。

 それに対してのわたしの返事は…。


「違うよ」


 椿が絶望の表情をしていて、わたしは言葉選びを間違った事をすぐに反省する。

 わたしが言いたかったのはそうじゃない。


「ご、ごめんね!わたしが言いたいのは、訂正なの!」

「て、訂正…?」

「『今日から』じゃなくて、『昨日から』わたし達は恋人同士なのって言いたかったの!!」


 わたしは顔を真っ赤にしていたと思う。

 でも、昨日告白をされ、行動でその返事を返したのだから、昨日から恋人で間違いないはずなのだ。

 それを聞いた椿は、さっきの絶望顔からうってかわってパァと明るい笑顔を出していた。

 本当に、可愛いんだから…もう。



 まあ、そんなやり取りが朝食の場であったのだから、わたしが椿の彼女であって、その彼女であるわたしは椿の事、大好きですよ~ってアピールの為にも、ハートマークはそのままの方が良いと判断したのだ。

 そりゃ、やっぱりちょっと恥ずかしいけどね。

 ふふふ、もしも会社の人と一緒にご飯を食べたりするならば、この飯テロを喰らうがよいわ。ふはははは。


 …たまに男っぽくなっちゃうのはしょうがないよね。




▽▲▽▲▽



「リリー?リリーってば!」

「うぇ!?なに!?」


 急に名前を呼ばれてびっくりした。


「なに!?じゃないわよ。さっきから呼んでるのに、ずっと上の空で…たまににまにまと笑って気持ち悪いし…」

「気持ち悪いって酷いなぁ…って、さっきから呼んでた…?」

 全く気が付かなかった。


「さっきどころか、今日一日ずっと呼んでるのに、返事がないし、でも行動だけはしっかりしているから、無視されてるのかと思ったよ」

 そう言って、大学での数少ない友人は頬を膨らませる。


 わたしはと言えば…。


「あれ?そういえば、いつの間に大学に…?と、言うか、わたし、いつこのカレー頼んだの?」

 今、わたしは大学の学食でカレーを食べていた。みたいである。

 全く記憶にない。

 今朝、椿にお弁当を渡して、玄関を出る時に軽いキスをしてからの記憶がないんだけど…。


「呆れた…。何か今日はずっとぽけ~っとしてると思ったけど、そこまで無意識に行動していたら、ため息しか出ないわ…」

「ご、ごめんね…。…ぁ、思い出してきた…」


 記憶がないのは勘違いで、きちんと記憶はあった。

 今日は一日中、ずっと椿の事しか考えてなかった。


 おそらく、上の空だったわたしがたまににまにまと笑っていたのは、椿と愛し合っていたシーンを思い出していたからだろう。

 声に出ていなくてよかった…。


 そして、なんでカレーを食べてるのかというと、友達に誘われて学食に来た時に、今度椿にカレーでも作ろうかなぁって思っていながらだったから、無意識にカレーを注文してしまっていたようだ。

 そして、それを無意識に食べるという…。


「何か良い事でもあったの?ぁ、もしかして、彼氏でもできた?」

「うぇぇ!?なんでわかったの!?」

「え!?本当(マジ)なの!?」


 この時、やたらと周囲で椅子がガタガタと音を鳴らす。

 びっくりして周囲を見てみるが、そこにいる人達は皆目の前の人達と平然と会話をしていた。

 単純に、椅子に座り直すタイミングが皆たまたま被っただけなのかな?


「へぇ…あれだけ彼氏は作らないし、結婚もしないと言っていたリリーに彼氏ができたとはねぇ…」

 友達は興味深そうにわたしの方を覗き込んでくる。


「それで、いつ彼氏ができたの?」

「き、昨日…」

「どっちから告白?」

「か、彼の方から…」


 もしかして、質問攻めのパターンだろうか?


「どんな告白されて、なんて返事返したの?」

「ちょっと待って、その前にそのメモ帳とペンは何?」


 いつの間にか、友達はメモ帳とペンを持っていた。

 普通、必要のないこの場面で、メモ帳を開いてペンを持っているという事は、わたしのこの恋愛模様をメモする気だ。そして、それが漫画のネタに使えそうなら使う気なんでしょ!

 それをそのまま伝えると、友達は「はっはっは」と笑う。


「で、どんな告白されて、なんて返事返したの?」

「わたしの質問はスルー!?」


 図星なんだろうな。

 まあ、いいや…。


「普通に好きだって告白されただけだよ」

 少しだけ拗ねた態度で答える。

「ふむふむ、シンプルだね。それで、リリーはどう返したの?」

「………」


 告白された後の事を思い出して、わたしは顔を真っ赤にしてしまった。

 流石にこんなの話せるわけがないよ。


 答えたくなかったわたしは、逃げ出そうとした。しかし、友達にまわりこまれてしまって逃げだす事はできなかった。


「知らなかったの?魔王からは逃げられないんだよ?」

 この人は一体なんの話をしているのだろうか…。


 結局、わたしは友達にその時の事を根掘り葉掘り聞かれる事になってしまったので、せめて他に誰もいないような場所に移させてもらうことにしたのだった。

・次回更新予定:明日。



・嘘次回予告


リリーの友達の正体は世界征服を企む大魔王だった。

リリーは共に戦う仲間を集め、大魔王の討伐に挑む。


次回、リリーの大冒険 第三十五話『天使の挑戦』

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