第三十三話『お祝い、そして…』
それから更に半年ほどが過ぎたある日の事だった。
「ただいま!!」
「おかえり、どうしたの?凄く嬉しそうだけど?」
もはや当たり前のように、俺は椿の帰りを椿の家で出迎える。
この日の椿は、見るからに嬉しそうにしていた。
「やった!やったよリリー!この会社で働き始めて、初めて昇格する事になったんだ!上司にも最近本当によく頑張ってるねって褒められて…!」
「わぁ!おめでとう!!今日はもうご飯作っちゃってるから、明日、お祝いのメニューにするね」
こんなに嬉しそうな椿の顔を見るのは久しぶりだ。
俺も嬉しくなる。
「これも全部リリーのおかげだ!本当に、本当にありがとう!!」
そう言って、椿は感極まって俺に抱き付いてくる。
「そんな事ないよ、椿が頑張ったからだよ」
そんな椿を、俺は優しく抱き返した。
次の日、椿の仕事が休みで、更に俺も講義が午前中しかなかったので、婆ちゃんには悪いけど夕食の作り置きをしてから俺は椿の家へと向かった。
向かう前にスーパーでお祝い用の食材やケーキ屋に寄ってお祝いのケーキを購入してから椿の家へと向かう。
他のところでご馳走を食べるのだから、本当に婆ちゃんには申し訳ないとは思う。
そう思っていたら、椿の家に向かっている途中で婆ちゃんから謝罪の連絡が入った。
『急な仕事で家を空ける。帰りはおそらく明後日じゃ、せっかく作ってくれておいた夕食を食べれずにいてすまんのぅ…』
「ううん、大丈夫。お婆ちゃんもお仕事頑張ってね。今度、お婆ちゃんの好きな物作るから」
『ありがとう、リリー』
婆ちゃん、帰りは明後日になるのか。
じゃあ、作り置きしていたご飯は、明日の俺のご飯だな。
そして椿の家へと到着して、俺は椿に歓迎されて家の中へと入る。
ちなみに、壊れていたと思っていたインターホンは、椿が配線を抜いていたようであり、配線を繋いだら音が出るようになった。
まあ、今の俺は合鍵で勝手に入るから使ってないけど。
椿も一緒に料理を作るのを手伝ってくれて、俺達はお祝い用の料理を作る。
こうして肩を並べて料理を作るのも悪くないな。
俺は嬉しくなってついくすくすと笑ってしまう、そんな俺の様子に椿が首を傾げていた。
大学三年生という事は、今の俺は満二十一歳であり、とっくに成人している。
普段は滅多に飲まないけど、今日はお祝いという事でシャンパンも用意した。
こういう時くらい、お酒を飲んでも構わないだろう。
俺の見た目って小学生に近いから、買う時に絶対身分証必要なんだよね。
一応、運転免許も取得はしている。
ただ、運転をするにはいくつか補助用具を用意しないといけないから、教習所の教官も苦笑していたけどね。
しかも、せっかく取得したにも関わらず、それから一度も運転をしていないペーパードライバーという。
運転免許証が完全にただの身分証明証と化しているのってちょっと勿体ないよね。
中学の卒業温泉旅行に行った時に婆ちゃんが買った車があるから、使わせてもらおうかな?
婆ちゃんもあの車全然乗ってないし。と、言うかきちんと動くのだろうか。
シャンパンはあくまでも乾杯用の最初の一杯だけにした。
俺はアルコールに弱いわけではないが、めちゃくちゃ強いわけでもない。ある程度飲めば普通に酔う。
そして椿は明日は仕事なので、自ら控えるようにしていた。
その心がけは大事だね。酒は飲んでも飲まれるなってね。
それからは二人で楽しく美味しく食事をした。
俺だったら全部食べきれるけど、あえて普通に食べる分くらいまで抑えて、料理はある程度残した。
明日以降、椿に余韻を味わいつつ食べてもらいたいって思ったのだ。
食後は後片付けを終わらせた後、二人で談笑しつつ、風呂を沸かして交互に入浴をする。
今日は婆ちゃんがいないので、自宅で入るよりもこっちで入れさせてもらった方が良いと思って入らせてもらったのだ。
でも、替えの下着とかは持ってきてないから帰ったら履き替えないとな。
「ふ~…さっぱりした」
こういう狭い風呂に入るのは久しぶりだったけど、リリーの体であればしっかりと浸かれるから狭い風呂も悪くないなって思えた。
転性前の俺だったら、絶対に膝を曲げて入らなきゃいけなかっただろうな。
って、事は椿も毎日膝を曲げて入ってるんだろうなぁ…。椿は転性前の俺よりも身長高かったし。
「…リリー、ちょっと話があるんだけど…」
「ん?なぁに?」
椿に呼ばれて、俺は椿の対面にちょこんと座る。
「えっと…その…色々とありがとうな」
「どういたしまして」
やたらともじもじとしながらお礼を言われた。
でも、お礼を言われて悪い気はしないから、俺は笑顔で答える。
「それで、その…な…」
「…うん?」
どうしたのだろうか?椿の様子がちょっとだけおかしい。
でも、何か伝えたいみたいだから、椿が口を開くまで待つ事にするか。
「…リリーが、そんなつもりじゃないってのはわかってるんだけどさ…俺、もう我慢できないんだ」
え?なんだろう?何か椿に我慢させるような事させて苦しませてしまったんだろうか?
心配になった俺は少し不安げな表情を見せてしまった。
「リリーは、憧れだった俺に元気になってもらいたいだけの為に、色々と俺の世話をしてくれた。それは理解している。でも、あんなにいつも甲斐甲斐しく世話をしてもらって…惚れない男なんているわけないだろ!」
「…んん?」
どういう事だ?今、椿は何て言ったんだ?
「好きだ!リリー!俺と、付き合ってくれないか!」
「…えぇ!?」
びっくりした。
まさか、椿が俺に告白をしてくるなんて。
…いや、気持ちはわからんでもないか。小柄ではあるけど、美少女が常に世話をしてくれるようなこんな状況で、惚れるなって方が難しい。
でも、椿の期待には応えてあげたいけど…俺は元男であって、彼氏は作る気もないし、結婚だって…。
色々と考え込んでしまった。
椿は、俺からの返事のないこの沈黙に耐えられずに震えていた。
そして…。
「リリー…嫌だったら、はっきりと拒絶してくれて良いから…」
そう呟いて、椿は俺に顔を寄せてくる。
「え…?」
そして、椿は俺の首の後ろに手を回し、そっと俺の顔を引き寄せて…。
「…ん…」
俺と椿は唇を重ねた。
そんな事言われて、拒否も、拒絶も、できるわけないだろうが…。
俺は無抵抗のまま、椿に唇をなすがままにされる。
やがて俺の口内に椿の舌が入り込んできた。
頭がポヤーっとしてきた。
身体が熱い。キスって、こんなにも気持ち良いものだったのか…。
もっと…もっと気持ち良くなりたい…。
そんな一心で、俺は逆に椿の舌に自分の舌を絡ませる。
この熱いひとときを終わらせたくなくて、俺は椿の首の後ろに手を回して抱き付く。
クチュクチュと、舌と舌が絡む音だけが部屋の中に木霊する。
一体どれくらいの時間、俺は椿と唇を重ねていたのだろうか?
とても長く感じられる、そこまで長くはない時間が経過した頃、椿の手が俺の胸へと触れた。
「んん…!」
ビクリと反応してしまった。
今まで友達とかにあれだけ揉みくちゃにされていたはずなのに、椿に触られただけでまるで電気が走ったかのような感覚に襲われる。
椿は俺の反応を見ても止める事なく、その手を動かし続ける。
唇が離れた。
「やだぁ、もっとぉ…」
やめてほしくなかった俺は、ついそんな事を甘い声で口走ってしまう。
再度椿が俺にキスをしてくる。
そして、キスをしたまま俺の服のボタンに手をかけていく。
俺は無抵抗のまま、むしろ、椿が服を脱がせやすいように体勢を整えながら、椿のされるがままになる。
そして、椿が風呂に入っている間に俺が敷いていた布団に押し倒され…。
この日、わたしと椿は体を重ね、愛し合った。
・次回更新予定:本日中。
この回で第四章が終わりました、次の回から最終章に突入します。
・嘘次回予告
「うちも椿の事好いとーよ」
「なんで急に博多弁!?」
「うちの初期設定、博多弁やったとよ」
「そうだったの!?」
次回、博多弁のリリーは可愛いと思いませんか? 第三十四話『橘リリーはここにいる!』
・裏設定
初期設定で、主人公は元々福岡出身で中学の時に引っ越してきたって設定がありました。
そして、そのままリリーとなった後も博多弁を喋るって設定だったのですが…。
そんなん福岡の人やないとわかるわけなかろうもん!って事でリリーの博多弁設定はなくなりましたとさ。




