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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第四章『大学/再会編』
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第三十二話『椿の人生』

 それから二ヶ月くらいが過ぎた。

 椿から、少しずつではあるが話を聞く事ができた。


 まず、椿が両親に勘当されたと言っていた件についてだ。


 転性前の俺が死に、大会で暴力事件を起こした後の椿は、それはもう不貞腐れていたそうだ。

 停学処分になり、大学推薦の話もなくなり、バスケ部が廃部となり、何より一番心の支えとしていた親友を失った悲しみを少しでも忘れたいために、評判のよろしくない連中とつるんで現実逃避をするようにして遊んでいたのだという。


 心の支えである親友って言ってくれたのは嬉しかった。

 俺も、椿の事は親友だとは思っていたけど、心の支えまで行くかどうか思っていたかは難しいからな。


 高校は一応は卒業したみたいだった。

 でも、大学には行かず、だからといって就職もせずに毎日遊んでいたらしい。

 そして、悲しむ母親に対して暴言を吐いたりと、感心しない態度を取っていた事には反省をしていた。


 高校卒業からおよそ三年間、働きもせず家の金で遊んでいた椿は、ある日父親に「荷物をまとめろ」と言われたらしい。

 そして、連れてこられたのはこのボロアパート。


 椿の父親は「これが俺が自分の息子に与える最後の情けだ。これ以降はお前は赤の他人、二度と家の敷居を跨ぐ事は許さない」と言って、椿を追い出したらしい。

 一応、それなりの家具や家電、当面の生活費などは渡してくれていたそうだが、ずっと何もしてこなかった椿がいきなり何かできる訳がなく、すぐにその生活費を食いつぶしてしまったらしい。


 生活費がなくなる直前にバイトを始めたが、バイト代が入るまでの間、食べる事もままならず、椿は実家に助けを求めに向かったらしい。

 しかし、そこには両親は住んでおらず、全く見知らぬ他人が住んでいた。


 椿の両親は、本当に椿を見捨てたのだ。

 電話番号も何もかも変わっていて、椿は両親と一切連絡が取れなくなったそうな。

 親戚の家に電話をしてみても、椿と名乗った瞬間に「ごめんね」と言われて電話を切られたそうである。

 どうやら、両親が手回しをしていたようである。



 椿は生活の苦しさから、消費者金融からお金を借りた。

 これが、椿から聞いた借金生活の始まりである。


 最初はほんのちょっと借りて、すぐに返したらもう使わないと思っていたそうだったようで、バイト代が入ったらすぐに返済をして、そこから数か月は使わなかったらしい。

 でも、やっぱりバイトだけじゃ暮らしていく事ができず、家賃や光熱費などを滞納し始めてしまった事により、また消費者金融からお金を借りてしまったそうな。


 初回は、食事代として少額を借りただけだったけど、家賃や光熱費となると数万はいってしまう。

 毎月少しずつ返済はしていたが、借金は一向に減らない。

 体調を崩しても、健康保険代も払っていなかったようで医療施設に行きたくても行く事ができずに自宅療養をするしかなく、バイトを休む。


 バイトを休んでしまったら、次の月のバイト代は普段よりも少なくなるのは当然の事だ。

 またもや家賃や光熱費が支払えずに更に借金を増やす。


 借金が増えれば、返済額も当然増えるという事であり、椿の生活は更に苦しくなっていく。

 そして、別の消費者金融で借金を返す為の借金をしてしまう。


 もっと苦しくなるのは目に見えているはずなのに、とにかく家賃を払えずに追い出されるのを防ぐ為の安易な発想だったそうな。

 それを繰り返して、借金の額と金融機関の数は増えていく。



 もう消費者金融からお金が借りられない状態になり、椿は更に焦った。

 バイトを増やしたところで、月のバイト代は微々たるもの。


 どこかに就職をしないと、バイトだけではやっていけないと遅すぎる判断をした椿は、必死で就職先を探したそうな。

 しかし、どこにいっても落とされる。

 当然と言えば当然である。


 一応、身なりは整えて面接などに挑んだそうだが、それでも椿の恰好はあまり褒められたものでもないし、日々の苦労から受け答えも自信のないものになっていたそうな。

 そりゃ、自分が面接官ならそんな人材を雇いたいとは思わないわな。


 それでも、椿は諦めずに面接に挑んだそうな。

 何社も落ち、それでもめげずに挑み、そして今の会社を見つけ出したのだと。



 その会社がブラック企業かどうかの確認もした。

 そんな椿を受け入れるくらいなので、もしかすると慢性的人手不足で安い賃金で扱き使う会社なのではないかと思ったのだ。


 でも、聞いた話だとそんな事はなかった。


 超絶ブラックと言うわけではないが、完全なホワイトと言うわけではない。

 ホワイト寄りのグレーな企業ってのが、俺と椿両方の見解だった。


 賃金は営業成績を上げて昇格すればそれなりの額になる。

 労働時間も朝の九時から夕方の六時までで(休憩一時間)、残業をした場合はしっかりと残業代も出る。

 休みも完全週休二日制で、長期休暇もきちんと与えられるし有給だって普通に取れるそうな。


 ここまで聞けば、十分ホワイト企業である。

 唯一の問題は、営業成績を上げない限りは昇格できずに賃金はあまり上がらないという事だ。

 椿は、見た目のみすぼらしさと、苦労からの自信のなさであまり成績が上げられずにいた。

 その結果、勤め始めて一年半ほど経つというのに未だに一番下のランクである。


 それでも、アルバイトを二つするよりも給料は良いし、その他福利厚生だってきちんとあるので、椿の生活は前よりも良くはなった。

 ただ、それでも借金の額が大きいせいで、毎月毎日苦労していたそうだ。


 同僚や上司は、成績を上げられない椿の事を決して見放そうとはしなかったそうだ。

 時に優しく、時に厳しく指導をし、椿を大事に育てあげようとしているようであり、椿も感謝しているようである。



 今はしっかりとご飯も食べて顔色も良くなっているし、身なりもきちんと整えたので、少しずつではあるが、営業成績が上げられるようになったそうな。

 成績が上げられるようになってくれば、椿だってどんどん自信がついてくる。


 二ヶ月程前の死人のような顔はもはや面影もなく、今は自信に満ち溢れて仕事が楽しいといった生き生きとした表情になっていた。

 上司や同僚も、そんな椿の変化に喜んでいるみたいで、前まではあまり誘う事のできなかった飲み会などにも誘うようになってくれたそうである。



 椿の俺への借金だけど、これは俺からある程度生活に余裕ができてから返し始めたら良いと提案をした。

 先立つお金は必要だし、ある程度貯金がないと不安だろう。

 それに上司や同僚との飲み会などといった付き合いは大事だ。

 特に、この会社の人達は椿を大事にしてくれてるようだからな、付き合いを蔑ろにはできない。


 まあ、流石に椿がお金を返さずに遊び惚けるような行動を取れば、流石に怒るつもりではあるが、今のところそういった行動は見られない。

 毎日規則正しい生活を送っている。




 そんな中、俺はと言うと…。


「はい、これ今日のお弁当」

「いつもありがとうな、リリー。助かるよ」


 もはや通い妻と化していた。


 最初の頃は、椿がいる時間帯だけ訪問をしていたのだが、ある時椿から家の合鍵をもらった。

 自分がいなくても、いつでも勝手に上がり込んでくれて良いとの事だったので、それからはかなりの頻度で、椿がいない時間帯でも椿の家に上がり込んで、家事などを行っている。


 自宅で起きたあとに、婆ちゃんの朝食を作って置いておき、椿の家へと向かう。

 そして椿の家で、椿の朝食と昼用の弁当を作って渡す。


 大学に行き、講義を受け、時間が空くようだったら椿の家に行って掃除だ。

 バイトがある日は自宅で婆ちゃんの夕食を作った後にバイトに行って、帰りに椿の家へ寄って夕飯を作る。

 バイトがない日は、婆ちゃんの夕食を作った後に椿の家へと行って、ちょっと手の込んだ料理を作ったり掃除をしたりして、椿の帰りを待つ。

 そして、後片付けなど全て済んだ後に帰宅をするという流れだ。


 椿ばっかり構って、婆ちゃんを放置するわけにはいかないので、たまに椿には作り置きをして数日は行かないというパターンもある。

 それでも、椿は大助かりしていると感謝をしてくれる。



 まあ、大体こんな感じだった。


 ずっと毎日つまらないと思っていた大学生活。

 それが、椿と再開してからが一変して毎日が楽しくなった。


 これからも、ずっとこんな日が続くと良いと思いながら、俺は毎日を過ごすのだった。

・次回更新予定:明日。



現在四十一話を執筆途中です。

思いのほか長文になって分ける事がなければ、本編は四十二話が最終話となりそうです。

そうなると、残すところあと十話となってしまいますね。

第四章『大学/再会編』も次の三十三話で終わり、三十四話から最終章となります。

最終話まで、是非、お付き合いいただければと思います。




・嘘次回予告


仕事の都合で転勤する事になった椿、その椿の送別会をリリーは執り行った。


「今日の送別会三人しかいませんけど、まあ…楽しんで」

「おいおいちょっと待ってくれ、どうして、俺の送別会が三人なんだ?」

「だって、本編中の名有りキャラってこれで全員だから」

「しかも、おぬしを抜いたら二人じゃな」


次回、ここのタイトルが思いつかない 第三十三話『そろそろネタ尽きそう』

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