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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第四章『大学/再会編』
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第二十八話『椿の家の惨状』

「まずはわたしの名前から、わたしの名前は橘 リリー。日本人とイギリス人のハーフです」

 ハーフである事はいらない説明かとは思ったけど、一応答えておいた。


 問題は、以降の説明だ。

 流石に椿の親友の俺が、リリーに転性をしたと説明できるわけがない。

 それに、信じてもらえるわけもない。

 仮に信じてもらえたとしても、絶対に内緒にしてもらわないと婆ちゃんが犯罪者になってしまう。


 だから、転性をした事は内緒だ。

 そうなると、何故、(リリー)が椿の事を知っているかになるが…。


 ここは、真実に嘘を混ぜよう。

 嘘だらけだと絶対に信じてもらないだろうし、真実の中に混ざった嘘は、嘘と見抜き難いからな。


「趣味はバスケットで、幼い頃からよくバスケの試合を見に行ってました」

 これはある意味真実だ。

 転性前の俺は、幼い頃からバスケが大好きで、よく試合を見に行っていたからな。


「ある時、わたしの観戦に行った試合で、椿さんの出ている試合を見た事がありました」

 まあ、同じコート内でな。

「一目でわたしは椿さんに憧れました。一緒にバスケをしている人達もとても輝いて見えて、わたしは椿さんの出る試合を毎回観戦しに行ってました」

 観戦というか、同じコート内で一緒に試合をしてたけどな。

 あと、椿に憧れていたのも本当だ。俺よりもバスケが上手かったしな。


「だから、俺を一方的に知っていたと…」

「そうです」


 椿が押し黙る。多分、本当かどうかを考えているんだろう。

 まあ、これはほとんど真実だし、探りを入れられてもパッと答える事ができるしその答えは変わらないから、問題はない。


「…とりあえずは、わかった。でも、それでなんで俺の家にご飯を作りに来る事になる?」

「それはさっきも言いましたが、一方的に知ってるだけの人とはいえ、わたしの憧れだった人がロクにご飯も食べずにやつれている姿を見て、心配になったからです」

 これも真実だから、何度聞かれてもすぐに答えられる。


 ただ、これはちょっと苦しい。

 俺は椿の事をよく知っているが、椿は(リリー)の事など何も知らない赤の他人なんだ。

 完全に拒絶をされ、その無理を押し通して家に行こうとした瞬間に俺はただの犯罪者(ストーカー)扱いになってしまう。

 だから、頼む…!拒絶しないでくれ!


 縋るような目で見てしまっていたのかもしれない。

 椿は諦めたように深いため息を吐いて、歩きはじめた。


「俺の家、古いアパートだし、掃除も全然してないから、メチャクチャ汚い事だけは先に言っておくからな…」

「わ、わかりました!」


 良かった!拒絶されなかった!

 これで、椿に栄養のある、美味しい食べ物を食べさせてあげる事ができる。


 その嬉しさから、つい俺は満面の笑みで歩き始めてしまっていた。

 俺はそんな事に気付かないし、その俺の様子を椿が怪訝そうな顔で見ていた事など、俺は気付く事もなかった。




 バイト先のスーパーから二十分ほど歩いた。

 そこそこな距離があるな。


 ここからだと、もっと近い位置にスーパーがあるはずだけど…。

 あぁ、あそこは確か夜の九時閉店だったか。

 だから、わざわざ少し離れた俺のバイトしてる二十四時間営業のスーパーに来たというわけね。

 お金もあんまりないみたいだから、コンビニは最初から除外したってところか。


 もし、あの時店長の頼みを聞かずに帰っていたら、俺は椿と再会する事もできなかったという事か。

 危なかった。



「着いたよ」

 そして椿が歩みを止める。

 目の前のアパートは、築何十年と経ってそうなかなりボロボロなアパートだった。

 家賃、超安そうだな…。


 椿が玄関の鍵を開けて中に入る。

 俺も、自転車を玄関脇に置いて荷物を持って中へ。



 家の中は酷い有様だった。

 ゴミが散乱し、何かが腐っているのか、酷い臭いがした。


 奥に見える部屋も、ゴミだらけなのが玄関から見て取れる。

 絶句して口を開けていると、椿が苦笑をする。


「だから言ったろ?メチャクチャ汚いって」

 ここまでとは思わなかった…。これ、近所からクレームとか入らないのか…?


 しかし、俺の知ってる椿は掃除もマメにするやつだったし、家はそこそこ裕福だったはずだ。

 それが、何故、こんな有様になっているのだろうか。


「君は昔、俺に憧れていたようだったけど、今はこれが現実だよ。幻滅しただろ?」

 遠回しに帰っていいよと言われてる気がした。

 でも、ここで帰っちゃいけない!


「幻滅はしてません。…ただ…」

「…ただ?」

「ここまで椿さんが苦しい生活をしていたのに、何も考えずにのほほんと暮らしていた自分が、許せなく感じます…」


 何が、きっと椿なら元気にやっているだろう。だよ!

 こんなに辛く苦しい生活を送っていたじゃないか!

 婆ちゃんのところで、お金にも困らず、毎日のんびりと過ごしていた自分が恥ずかしい。


「そこでなんで君が泣いてしまうのか、理解に苦しむけどね…」

 椿が苦笑しながら、足の踏み場もないゴミの上を歩いていく。


 俺も慌てて後を追って、家の中へと入る。

 悪臭がするが、我慢だ。


「ご飯を作ってくれるって言ってたけど、無理はしなくて良いから。カップ麺だって買ってきたんだし」

 そう言って、ビニール袋をガサガサと漁って中からカップ麺を出して適当に床に転がしていく。

 それって、ゴミに混ざっちゃわないか?


 そして椿は奥の部屋に入って、スーツの上着を脱いで床に投げ捨てる。

 あぁ!あんな事してたら、皺が寄っちゃってせっかくのスーツが台無しになっちゃうよ!

 もう完全に手遅れだけど。


 俺は慌ててスーツの上着を拾ってハンガーを探す。

 うん、ハンガーが見当たらない。


「もしかして、ハンガー探してる?ちょっと待って、確かこの辺に…あった」

 床のゴミの下を漁って、椿がハンガーを掘り出した。

 逆に凄いわ。なんでゴミの下にあるハンガーの位置がわかるんだよ。


 手渡されたハンガーを使い、俺はスーツをハンガーにかける。

 その際に、少しでも皺を失くす為にもピッピッと伸ばしてみた。

 効果はいまひとつのようだ。



 椿がおそらく万年床となっているであろう布団の上に腰かける。

 その間、こっちを見る事もしなかった。

 おそらく、勝手にしてくれって事だろう。


 だから、俺は勝手に料理を作る事にした。


 だが、まずは台所の片付けからだ…。

 おそらく、カップ麺を食べる為にガスコンロとヤカンだけはすぐに使えるようにしているのだろう。

 そこだけは剥き身の状態だった。


 だが、流し台や調理場などには、いつから洗っていないかわからない皿やまな板が放置されていて、その上には生ゴミが放置されている。

 これは酷い、酷すぎる…。

 こんな劣悪な環境じゃ、いるだけで不健康になってしまいそうだよ…。


 掃除するだけでも時間がかかりそうだ。

 明日の講義は昼からで助かったな…って、そうだ、婆ちゃんに帰りが遅くなる連絡入れておかないと。


 俺はスマホを取り出して、婆ちゃんに帰りが遅くなる連絡を入れる。

 すぐに了解の返事が返ってきた。



 それから俺は掃除を開始した。

 無駄に多いビニール袋に可燃性の物や非可燃性の物を分けて入れていく。


 ある程度片付いたところで、冷蔵庫を開けてみる。

 中に入っていたのは、賞味期限がかなり過ぎている物ばかりであった。

「うわぁ…勿体ないなぁ…」

 間違って口にしたら大変な事になる。だから、俺は冷蔵庫の中のほとんどの物を捨てた。


 あとでゴミ捨て用のビニール袋買ってこないとな。

 今は小分け状態で生ゴミが特に大量だから、とにかくまとめて早めに捨てないと。



 ゴミはある程度集め終わったので、次は食器洗いだな。


 いつから使ってないかわからない洗剤を使って、シンクの下にあった新品(おそらくかなり前からの放置品)のスポンジでお皿などを洗っていく。

 古いスポンジでシンクや調理場も洗い、少しでも清潔にしておく。

 もしも、ここに病原菌が溜まってたら大変だもんね。


 努力の甲斐あって、台所がまともに使えるようになった。

 ようやく、料理が作れそうである。



 この時、椿の様子を見てみたら椿は布団の上で横になって眠っていた。

 うん、料理ができるまで少しでも休んでてくれ。


 早く、昔の元気な椿に戻ってもらいたいものだ。

・次回更新予定:明日。



前話で『転生』ではなく『転性』という事に気付いた後は、各話の『転生』も修正してまわりました。

多分、抜けはないはず…。

書き溜め分もまだ『転生』のままになってるから、投稿時に気を付けないといけないですね。



・嘘次回予告


ゴミ屋敷と化している椿の家の惨状に、一人のリフォームの達人の匠が動き出した。

匠は「シュー…」と言う音の後に大爆発を起こし、更に現状を酷くしていく。


次回、悲劇的ビフォーアフター 第二十九話『襲撃クリーパー』

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