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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第四章『大学/再会編』
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第二十六話『アルバイト』

 大学生になった。

 全く未知の領域ではあるが、普通の人は二度目の人生など歩む事ないのだから、ようやく本当のリリーの物語が始まったってところか。


 中学や高校では、髪を染めてる人なんて滅多にいなかったから俺の金髪は目立ってた。

 でも、大学ともなると、髪を染めてる人は多い。むしろ、染めてない人の方が少ない。

 だから、俺の金髪は大学ではもはや目立たなくなっていた。


 更に、周りの女性は皆化粧をしている人が多い。

 化粧をすれば、見た目はかなり変わる。

 リリーは素で美少女だけど、ばっちりとメイクをした女性には敵わない。

 だから、俺の可愛さも大学内ではもはや霞んでしまっていた。


 俺も高校時代に友達から化粧の仕方とかは少しは教わったりしたけど、「素で可愛いのだから化粧してこれ以上美人にならないで!」と友達に言われたりもしたなぁ。

 元々が男で化粧に興味がなかったというのもあって、俺のメイク技術はかなり低い。

 だから、大学で俺が極端に目立つというのは少なくなるだろう。



 まあ、それでも可愛い事は可愛いし、天然モノの金髪って美しいからそれだけで寄ってくる人はそれなりにいた。

 身長の低さに目を瞑れば、スタイルは良いし何より巨乳だしね。


 でも、俺が全く気がない態度を取ると皆すぐに離れていく。

 この辺は中学や高校の時と違って、皆ドライだな。


 だから俺は大学内であまり友人と呼べる人は多くはない。

 まあ、別に友達を作る為に大学に行ってるわけでもないし、彼氏を作ろうとも思ってないから構わないんだけどさ。

 あれだけ中学と高校でちやほやされていたのに大学生ともなると見向きもされなくなるってのは逆に新鮮だな。



「いやぁ。大学って結構恐ろしいね」

「いきなり何を言ってるの?」


 学内でできた数少ない女友達にそう呟いたら訳がわからないといった顔をされた。

 まあ、突然そんな事言われてもそりゃ訳なんかわからないか。


「人付き合いが今までと違う事にちょっと恐ろしさを感じてね」

「あ~…まあ、大学生ともなると、もう大人の仲間入りだからね」


 ふむ、大人の仲間入りか…。

 リリーとしての肉体年齢は十八歳だけど、俺の精神年齢は二十六歳だ。

 とっくに大人である。


 でも、なんていうか、肉体年齢の方に精神年齢が引っ張られてしまっているというか、中学の時に、女の子らしく演じようとしたせいで、俺の精神年齢って何か低いような気がするんだよな。

 気のせいであると信じたい。


「それより、橘さんはサークルには入らないの?」

「ん~…家の事もあるし、サークルには入らないかな~」

 ちなみに目の前の友達は漫研に所属をしている。


 即売会とやらで俺にコスプレの売り子をさせてみたいと思って近寄ってきたようであり、最初に話しかけられた言葉は「コスプレに興味とかない?」だった。

 コスプレには興味はないけど、俺もそこそこ漫画やアニメは観るし、そこそこゲームもするから、会話が弾む友人の位置づけとなっている。

 それと履修科目も大体が被っていた為に学内ではいつも行動を共にしている。


 ちなみに、このサークルに入らないかという質問は、もうすでに五回目である。

 絵は描けなくても良いから、同じ漫研に所属してもらいたいと思って遠回しに勧誘をしてきているみたいだ。

 でも、悪いけどサークルには加入しない。





「…でも、そろそろ何かしないと、ただ大学に行って勉強するだけじゃなぁ…」

 夕飯の買い物中に、ふと呟いた。


 このまま何もせずにただ日々を過ごすよりも、何かを始めたいとは思っていた。

 でも、何かを始めると言っても何を始めれば良いのかがわからない。


「う~ん…もう大学生にもなったんだから、自分のこづかいくらいは自分で稼ごうかな」

 婆ちゃんはそんな事気にせずに通帳にお金を振り込んでくるけどね。


 しかし、アルバイトか。

 俺の通っていた高校は、アルバイトは絶対に禁止という訳ではなかったが、それは家庭の事情などのきちんとした理由がない限りは原則禁止という事であった。

 家が金持ちである俺には許可が下りるわけがないので、俺は高校に通いながらアルバイトをするというのは選択肢にもなかった。


 でも、今は大学生だ。

 アルバイトだってやろうと思えばなんだってできる。

 そろそろ、自立する為にも行動を起こす良いタイミングだろう。


「そうと決まったら、何のアルバイトが良いか色々調べなきゃなぁ」


 なるべくなら、時間の融通が効いて家から近いところが良いな。

 そう思いながら、レジで会計をしている時だった。


「…!? 店長さん、あの張り紙のアルバイト・パート募集ってまだやってますか!?」

 購入した品物をレジ袋などに入れるスペースの壁に、アルバイト募集の紙が貼ってあった。

 思い返してみると、もう何年もずっと貼ってあったような気もする。


 丁度、レジを担当していたのが店長だったので、俺はそのまま質問をしてみる事にした。

 このスーパーなら、家からも近いし募集内容の働く時間帯も丁度良い。


「まだ募集してるよ!もしかして、リリーちゃん、ウチに来てくれるのかい!?」

 店長は期待を込めた表情で逆に俺に質問をしてきた。


「はい。ここなら家からも近いですし、まだ募集してるのなら働きたいです」

「リリーちゃんなら大歓迎だよ!例え募集してなくても採用しちゃう!」


 面接不要でアルバイトに合格した。

 まあ、一応は履歴書とかは用意する必要はあったけど。



 銀行口座も新たに開設し、そこに給料を振り込んでもらう事にした。

 ついでに携帯料金の引き落とし口座も新しい通帳に変えて、俺は婆ちゃんがくれた通帳に次第に手を付けなくなっていった。


 転性前を含めても初めてのアルバイトだったが、もう六年間ほぼ毎日通っていたスーパーだ。

 バックヤードや端末機に関しては教わらないとわからなかったが、店内のどこにどのような商品が置いてあるかなどはもはや目を瞑ってても答えられるほどであり、俺は即戦力となった。


 基本的には、大学が終わった後に一度家に帰って、前日に購入していた材料で夕飯を作る。

 そして夕方からバイトに出かけ、夜の九時まで働き、バイトが終わった後に次の日の食材を購入してから帰宅というのが流れとして完成された。

 土日や祝日は、特に予定がなければ朝から夕方まで働いていたりもしていた。


 たまに何も予定がなくても休みにして、一日中婆ちゃんとのんびり過ごす日も忘れずにとっている。

 婆ちゃんは「ワシの事は気にせずに好きなように生きれば良いのに…ありがとう」と、嬉しそうにしていた。



 このスーパーでバイトを始めた事により、俺は今の人との交流の少なさから脱却した。

 家から近いスーパーという事は、同じ中学だった友達やその家族も近くに住んでいたりして、買い物をしに来る事があるのだ。


 バイトを始める前は、本当に稀に店内でバッタリ出会うくらいだったのが、バイトを始めたらかなりの頻度で会うようになったのだ。

 まあ、ずっと店内で働いてるからね。

 向こうから会いに来てくれれば、大体会えるようになったのだ。


 俺の働いてる時間を知ると、わざわざそれに合わせて買い物をしに来てくれるようになり、落ち着いている時にはちょっとだけ雑談をしたりもする。

 中には、俺が上がる時間を見計らって待っていてくれたりする友達も現れたりした。


 大学では友達が少ない俺だったが、昔の友達がこうして相手してくれるのがたまらなく嬉しかったりもした。



 バイト上がりの後、中学の時の友達と公園でジュースを飲みながら会話をする。

「え!?リリーちゃん、大学で友達いないの!?」

「一応、二人いるけど、中学や高校の時と違って、全然いないなぁ」

 中学ではあれだけ全校生徒から人気を集めていたので、友達は信じられないといった表情をしていた。


「じゃあ、彼氏とかはいないの?」

「昔言ってたでしょ。わたし、彼氏は一生作る気はないし、結婚をする気もないって」

「言ってたけど、本気とは思わないよぅ。勿体ないなぁ…」


 そうして、楽しい時間は過ぎていく。



 その日、帰宅した俺は、リビングにいた婆ちゃんに何となく聞いてみた。


「ねぇ、お婆ちゃん。ひ孫とかができたら、やっぱり嬉しい?」

「なんじゃ?デキたんか?いつの間にヤる事ヤっとたんじゃ?」

「デデデデ、デキてないし、ヤヤヤ、ヤってもないよ!!」

 想定してなかった返事に思わず動揺してしまった。


「そりゃ、確かにひ孫ができたら嬉しいがのぅ。じゃが、リリーよ。無理する事はないからな?おぬしはおぬしの好きなように生きると良い。ワシはこうしてリリーが笑顔で傍にいてくれるのが、何よりの幸せなのじゃから」

「…うん、ありがと」



 婆ちゃんにひ孫の顔は見せてあげる事はできないだろう。

 だったら、せめて孫の顔である(リリー)は、婆ちゃんの為に笑って過ごそう。

 それが婆ちゃんの幸せに繋がるのならば。

・次回更新予定:明日。



・裏設定

漫研所属の友達の名前:大手おおで まり



・嘘次回予告


リリーは漫研所属の友達に無理矢理コスプレをさせられてしまう。

あまりにも完成度の高く、似合い過ぎる恰好に友人はある台詞をリリーに言わせようとした。

恥ずかしい台詞でもないので、リリーはそのままその言葉を口にする。


次回、エンジェリックコスプレイヤー 第二十七話『春ですよ~』

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