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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第三章『高校生編』
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第二十五話『卒業』

 高校生活最後の冬休みが明け、俺達三年生は最後の追い込みをかけていた。


 結局、俺は家から一番近い大学を受験する事にした。

 中学の時同様に、成績も良かったので先生から「もっと上の大学を目指さないのか?」と言われたけど、あまり家から遠くなる大学は受けたくはなかった。

 惰性で選んだ感じは否めないが、理数系の集まる学部である事は調べてはついてるから、そこで勉強をすれば婆ちゃんが家でやってる研究の手伝いもできるかもしれないと考えての事だ。




 そういえば、冬休み中に少し面白かった出来事が一つあった。


 友達と一緒に街を歩いている時、アイドル事務所からアイドルにならないかと声をかけられたのだ。

 友達はすぐに「リリーちゃんなら人気アイドルになれるよ!」と乗り気で俺をアイドルにしようとしてきたが、俺はすぐに断った。


 その理由なのだが…。


「アイドルに求められる要素で重要な部分がわたしには欠けてるから」

 友達もスカウトマンも、一体何が欠けているのかがわからずに首を傾げていた。


 容姿が問題ないのはわかっている。でも…。

「アイドルって踊って()()でしょう?」

「踊って…歌…あ…」

 友達がすぐに察した。


 そして俺はスカウトマンに、俺が絶望的に歌が下手な事を話す。

 勿論、スカウトマンは「後から練習して上手くなれば良い」と、諦めない姿勢だった。


 そこで俺は街中であったが、自分の歌声を披露した。


 街往く人々が、青い顔をして過ぎ去っていく。

 俺の歌声って、声だけは天使のように綺麗なのに究極に音痴なせいで、『天使(ほろび)の歌声』とか言われてるんだよね。

 天使と書いて、ほろびと読む。

 どうやったらそんな不協和音が出せるのか、とか、テキスト読み上げソフトに歌わせた方がマシとか言われるレベルである。


 スカウトマンも、俺の歌声を聞いてアイドルにスカウトするのを諦めたレベルだ。

 これはどれだけ練習をしても一生直らないものだろう。


「グラビアアイドルとかだったらなれそうだけどね」

 ロリ巨乳であるから、需要はあるだろう。

 だが流石になりたくない。



 まあ、そんな感じでこの冬休み中にあった少し面白い出来事は終わったのだった。




 予備校とかにも通ってないので、この時期はほとんど学校が終わるとすぐに帰宅である。

 たまに後輩の為にもバスケ部に顔を出したりするのだが、流石に受験生という事で後輩にも先生にも心配されてしまい、あまりバスケはできずにはいた。ちょっと寂しい。


 友達もほとんどが予備校に通ったり受験勉強なりで遊ぶ事はできないので、俺も大人しく家で勉強をしたりお菓子作りに勤しんだりしていた。

 基本的には転性前に一度習った事を、転性してもう一度習い直すという復習をしていたのでわからない事はあまりない。

 それでもたまに理解に乏しい問題があったりもするが、婆ちゃんが丁寧にわかりやすく教えてくれた。

 流石自分で天才というだけはある。


 ある意味、俺が予備校に通わないのも、婆ちゃんという誰よりも頼りになる人が傍にいてくれたからだ。

 予備校の講師よりも絶対に婆ちゃんの方が丁寧でわかりやすいだろうしな。



 そして迎えた大学受験の日。

 特に緊張する事なく、俺は試験に臨む。


 時間のかかりそうな問題を見極めて後回しにし、まずはすぐに解ける問題から解いていく。

 まあ、誰もがやっている事だろうけどね。


 そして難問への挑戦。

 婆ちゃんが教えてくれていなかったら決して解けていなかったであろう問題も解き、見直しもしっかりと終えた俺は、流石に落ちる事はないだろうと確信をしていた。



 合格通知が簡易書留で届いた。

 合格するって確信はしていたけど、過信はできないからやっぱりちょっと不安だった、けど、これで一安心だ。


 婆ちゃんが合格祝いにどこかに食べに行こうかと誘ってくる。

 せっかくなので、今でもたまに婆ちゃんが食べに行っているフランス料理の店に連れていってもらい、テーブルマナーを教えてもらった。

 フランス料理って初めて食べたけど、どれも美味しかったな。

 でも、フォアグラだけはちょっと苦手だった。これは婆ちゃんからの遺伝だったりするんだろうか?



 そしてやってくる高校の卒業式。

 中学は二度卒業をしたけど、高校を卒業するのはこれが初めてだ。

 これから先は、本当に体験した事のない未知の領域だ…。

 楽しみと不安が押し寄せてくる。


 まあ、不安を全て取り除く事は不可能だけど、しっかり人生は楽しまないとな。




 卒業式の次の日、俺は友達に誘われてケーキバイキングに来ていた。


「んー!おいしー!」

 ケーキバイキングって良いよな。沢山の種類のケーキが食べ放題なんだから。


 皆は大体六、七個くらいを食べたらもう満足していたけど、俺はまだまだ食べ足りない。

「リリーちゃんって本当によく食べるよね」

「いつもあれだけ食べてるのに、全然太らないの羨ましい…」

 十三個目のケーキを頬張っている時にそんな事を言われる。


「そりゃ食べた分、しっかり運動してるからだよ。さすがにわたしも運動してなかったら凄く太ってたと思うけどなぁ」

 まあ、逆に運動してるからお腹が空いてしまってこれだけ食べてしまってるんだろうけど。


 筋トレは全くやっていないわけではないが、控えめである。

 でも、走り込みとか他の運動は毎日欠かさずにやっている。

 だから俺は持久力もそこそこある。


 陸上部には敵わなかったけど、高校の陸上競技会の長距離走でも大活躍をしたくらいだ。

 もちろん、長距離だけでなく短距離も得意でどちらにも参加していた。


 バスケをするにはどちらも必要だからね。

 シャトルランとか結構好きだったりした。



「とうとうわたし達も卒業しちゃったね~」

「今度から大学生かぁ…皆違う大学だから、中々遊ぶ機会とかないかもね」


 友達は皆しんみりとしていた。


「まあ、頻繁に会えなくなっても、今生の別れってわけじゃないんだから」

 もぐもぐと十八個目のケーキを食べながら俺は答える。

「なんかリリーちゃんのそういうところって、ほんと男っぽいよね…あと、飲み込んでから喋りなさい!」

「うぃ~」


 そうだよ。俺はもう転性前の友達とはもう何かきっかけがない限りは会う事もできないし遊ぶ事だってできないんだ。

 それに比べれば、少し会えなくなっても連絡が取り合えるというのは幸せな事なんだ。

 改めて、それを思い知らされた。

 ケーキを頬張りながらだけど…。


「…で、それでケーキ何個目?」

「二十一個目」


「…………はぁ…」

 皆が一斉に盛大なため息を吐いた。


「ん~…流石に甘い物食べ過ぎてちょっとしょっぱいものが欲しくなってきたなぁ」

「一応、パスタやスープならあったけど…?」

「よし、それ食べようっと」


 一旦ケーキを食べる手を止めて、パスタにうつった俺に友達は皆再度ため息を吐いていた。

「リリーちゃんって悩みとかなさそうだよね…」

「失敬な。悩みくらい沢山あるよ!」

 友達は「どんな悩みがあるの?」と聞いてくる。

 まあ、この流れでそう聞いてこない人はいないか。


「今後、自分はどんな人生を歩むんだろう?とか、このままで良いのだろうか?とか、今日の晩御飯の事とか」

「最後の悩みが余計すぎる!!」


 うん、自分でも言っておいて最後の悩みは余計すぎたと思った。

 でも、もう言ってしまったからしょうがないね。


「でも、それって人間誰しも悩む事だよね。それで悩まない人って、本気で夢を信じて追いかけられる人だろうし」

「まあ、そりゃあね…」

「だったら、悩んでてもしょうがないから、今できる事をやるだけ。とりあえず、わたしは食べる」


 現段階での自分の優先事項はとにかく食べる事だ。

 せっかくケーキバイキングに来ているんだからな!


「後の事は後で考えれば良いんだよ。その時の事はその時って言うでしょ?」

 パスタを食べ終わって、またもやケーキを食べるのに戻った俺に、皆が今日一番のため息を吐く。


「そうだね。一生会えなくなるわけじゃないもんね」


 そういえば、元々大学に入ったら中々遊べなくなるって話だったな。


「じゃあ、これからもちょくちょく連絡するから、きちんと返事返してよね!特にリリーちゃんは結構既読スルー多いし」

「前向きに検討します」

「それ、結局直さない人が言う台詞!!」


 そうして俺達は高校を卒業しても、変わらぬ関係を保ったままそれぞれの進路へと進む事になった。

・次回更新予定:本日中。



・裏設定

リリーは踊りに関してはそれなりに上手に踊れます。

リリーの通知表はほとんどが4か5に対し、音楽だけは1。

楽器で演奏するのも苦手(楽器を使う事ができても、音程を外しまくり)。



・次章予告


高校を卒業し、遂に完全に未知の領域である大学へと進学を果たしたリリー。

しかし、中学や高校の時とは違い、友人関係はあまりうまくいかない。

「大学ってあんまり楽しくないな…」

そう思うリリーの前に、ある人物が現れる。


次回、転生はできなかったけど転性はしました『大学/再会編』 第二十六話『アルバイト』



リリー「あれ!?何かまともに次章と次回予告してない!?」

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