第二十二話『英国風メイド喫茶』
サブタイトルを『学園祭でメイド喫茶②』から『英国風メイド喫茶』に変更しました。
学園祭で俺達のクラスがやる英国風メイド喫茶は、真剣な話し合いの結果、かなりまとまってきた。
メニューの価格設定も、それなりに良心価格となった。
普通の飲食店だと人件費がかかるけど、学校行事は生徒でやるから人件費はかからない。なので、ある程度売り上げを出せれば赤字回避は容易であるくらいの価格設定だ。
実はこの売り上げであるが、黒字化すれば一部は自分達のものにすることができるのである。
まず黒字化した時点で、かかった予算を全額返却しなければならない。まあ、これはしょうがないよね。
次に、予算を返却して残った売り上げの額によっては変動したりもするが、別の教室や部活が出店した赤字分の補填をしなければならない。
中には黒字化は絶対に無理だという完全にボランティア扱いの出店だってあるからね。しょうがないよね。
でも、大体残った売り上げの半分近くが自分達の懐に入る事になるのだ。
あとは、それを担任の先生がどう扱うかになるが、大体は打ち上げパーティーに使われる事になる。
流石にそこで先生が着服するという事はない。そんな事したら先生の信頼もガタ落ちだし、下手したら懲戒処分ものだしな。
だからこそ皆なるべく赤字は回避したいと考えているし、できれば多く黒字化させたいと思っているので、価格設定に関しては真剣に話し合っていた。
肝心のメニューだが、紅茶葉の種類は四種類。
まずは俺が一番好きなアールグレイ、そしてダージリンとアッサムとセイロンだ。
本当はもっと種類を増やしたいけど、あまり多すぎても来場者が迷ったり困ったりしてしまう。
なので、俺がお勧めする紅茶葉を絞りに絞って決めた四種であった。
これらをホットかアイスを選んで飲む事ができるので、メニュー的にこれで八種類。
そして、裏メニューとして、ブレンドも可能としている。
もちろん、転性前の俺みたいに紅茶が飲めない人だっているだろうから、その為にペットボトル飲料ではあるが、ジュースとコーヒーも用意はしておく。
あくまでも看板メニューは淹れたての紅茶というわけだ。
次に食べ物側のメニューだけど、これも四種類と少なめである。
スコーン、ソフトクッキー、カップケーキ、チョコレートの四種類だ。
ただし、あくまでも大区分としての四種類であって、例えばスコーンなんかはプレーンスコーン、クルミのスコーン、チョコチップスコーン、チーズスコーン、とスコーンだけで四種類用意している。
他のメニューもチョコレート以外は全部四種ずつ用意していて、その中から選んでもらうって寸法だ。
そして、可愛くラッピングしたお持ち帰り用も準備しておく。
実は、店内で食べてもらった後に、このお持ち帰り用を買ってもらうのを真の目的としていた。
店内で紅茶の味と香りを愉しみつつ、茶菓子を味わってもらい、そして気に入ったお菓子や気になるお菓子を買っていってもらおうという作戦で、売り上げを伸ばす算段だ。
接客に関してだが、これはよくあるメイドカフェみたいな接客ではなく、貴族家に仕えるメイドのような対応をするという事に決定した。
まず、普通だったら来場客に対してのお出迎えの挨拶は『おかえりなさいませ、ご主人様』であるが、その『ご主人様』というフレーズは無しにした。
では、何になったかといえば、男子に対しては『お坊ちゃま』で、女子に対しては『お嬢様』である。
二日目と三日目の一般入場も有りの日には、学生以外も来場する事もあるだろうから、『旦那様』や『奥方様』を使ったりもする。
そこは、相手の年齢に合わせての変化である。
『ご主人様』というフレーズを使うと、調子に乗り出す輩が出そうな気配を感じたので、禁止にしたのであった。
注文を受ける際には「本日の紅茶とお茶請けはどのようにいたしましょうか?」と言った感じで、注文をしてもらってただそれを受ける接客というよりも、本当にメイドにいつも用意してもらっているという雰囲気を楽しんでもらおうと思って変化させている。
まあ、それでも結局は注文してもらう事にはなるんだけどね。
ニュアンスの違いってやつなだけだ。
他にも色々と接客時の台詞などは気を付けて変化させていた。
お菓子は前日に家庭科室を使わせてもらって大量に準備しておくが、紅茶は淹れたてを味わってもらうために、その場で淹れる事になる。
せっかくだから、蒸らす様子なども見てもらいたいと思っていたので、目の前で淹れる事に決まった。
今は電気ケトルとかある時代だから便利だよね。
火を全く扱わないので、先生達も安心していた。
学園祭の準備が始まる前に、一度、俺はクラスの女子を集めて紅茶の淹れ方とお菓子の作り方をレクチャーした。
お菓子に関しては全部俺が作っても良いが、皆だって作ってみたいだろうと思っての事である。
ただ、紅茶に関してはお客さんの目の前で淹れる事になるのだから、練習をしてもらわなくてはならない。
まあ、中には慣れた手つきで紅茶を淹れてた女子もいたから教えるのには苦労はしなかった。
そして学園祭の本格的な準備が始まる。
女子は全員接客と紅茶の練習をする事になり、男子は部活をしていない者が雑用をしていた。
会場となる教室内の飾りつけや、テーブル代わりの机にかけるテーブルクロスの準備など、色々とやる事は多かったようで、男子は皆へとへとになっていた。
学園祭の前々日には、業者から衣装やお菓子を入れておく為の番重、その他の機材などが届いた。
この日からレンタル料金が発生する。学校行事という事で割引はされているが、それでもこのレンタル料を支払えるだけの売り上げを上げないと、ただ学校側から支給された予算を消費してしまうだけなので、頑張らないとな。
衣装合わせや機材の設営なども終わったので、男子を客に見立ててのリハーサルを行う。
練習の甲斐もあって、クラスの男子からは大絶賛であった。
そして迎えた学園祭当日。
初日はこの高校に通う学生のみの学園祭であったが、多くの来場客が来てくれた。
評判もかなり良く、見回りにきた先生からも「品の良いメイド喫茶だ」と、褒めてもらったくらいである。
かなり多くお菓子を作っていたのだけど、全部売り切れてしまった。
二日目と三日目には更に多く用意しておかないと。
まさか売り切れるとは思わなかった、余ったら食べようって思ってたのになぁ。
学園祭二日目。
この日から招待状を持った一般来場者がやってくる。
他校の生徒もやってくるのだから、荒れないように気を引き締めないとな。
そう思っていたのだけど、よく漫画やアニメであるようなトラブルなどは発生しなかった。
まあ、ガラの悪い客なんてそうそう来ないよな。
ただ、やたらと俺の連絡先を聞いてくる他校の生徒は多かった。
全て丁重にお断りさせてもらったけどね。
あと、中学時代の友達も来てくれたので、しっかりと楽しんでいってもらった。
俺も今度友達の通ってる高校の文化祭に招待されてるから行かないとな。
学園祭三日目。
「あ、待って!その人はわたしが…!」
いつ来るのだろうとそわそわして待っていたのだが、俺の目的の人物が来てくれた。
「おかえりなさいませ、奥方様」
カーテシーをして、俺は来てくれた花蓮婆ちゃんの接客を開始する。
「おぉ、リリーや。よく似合うておるぞ」
婆ちゃんも嬉しそうに笑っていた。
婆ちゃんを席へと案内し、メニュー表を見せる。
「本日の紅茶とお茶請けはどのようにいたしましょうか?」
「そうじゃの。ダージリンとアッサムのブレンド茶と、チョコチップスコーンにしようかの」
「かしこまりました。ブレンド茶はホットとアイス、どちらになさいますか?」
「ホットにしようかの」
その言葉を聞いて、俺はペコリと一礼をして、テーブルの横に設置されている台で紅茶を淹れ始める。
「ふむふむ、中々面白い趣向じゃの」
婆ちゃんは周囲を見渡して小声で呟く。
クラシカルメイド服を着た女子生徒が接客する姿に、いかがわしさなど微塵も感じられない。
皆、貴族家のメイドになりきった丁寧な対応をしていて、来場客もそれにつられて上品な振る舞いをしていた。
紅茶を淹れ、ケーキスタンドからチョコチップスコーンをトングで取って紙皿に置く。
婆ちゃんの目の前にそれらを並べ、俺はすぐそばに佇むようにして立つ。
婆ちゃんは元々上品に食事をする人物だったので、紅茶を飲む動作もスコーンを食べる仕草も、場の雰囲気に合った上品さを醸し出していた。
今、この瞬間を見ていた人達は、俺と婆ちゃんのその佇まいに見惚れてしまっていたと、後に語る。
「それでは、いってらっしゃいませ。奥方様」
深いお辞儀をして、俺は教室から出る婆ちゃんを見送る。
婆ちゃんは微笑んで教室を後にした。
その後は、すぐに俺も別の来場客の対応に走る。
指名などはできないので、俺に当たった人は本当に嬉しそうにしていた。
そして学園祭は後夜祭であるダンスパーティーで締めくくられ、終わりを迎える。
この年の俺の通う高校の学園祭売り上げと人気店トップは、どちらも俺達の教室だった。
例年にない程の売り上げを出していて、その評判は同じ日に文化祭をやっていた他校にまで広がってしまった程である。
そして、この翌年と翌々年にも、俺がいるクラスでは英国風メイド喫茶をするのが当然の流れになっていた事を、この時の俺は知らなかった。
・次回更新予定:明日。
・天使の称号シリーズ
恋の天使
男よりも男前な天使
ボクに舞い降りた天使
料理上手な天使
紺色スク水の天使
勝利の天使
(胸が)大天使
天使のパティシエ
天使の応援団長
天使の歌声
純白の天使
大食いの天使
クラシカルメイド服の似合う天使(NEW)
・嘘次回予告
メイド姿を披露したリリーは、学校中の生徒からモテまくってしまう。
男勝りな性格で、大食いである自分がモテるのはおかしい。
例え容姿が良かったとしても、それは周囲の人間がおかしいのではないのかと疑問に思い始める。
次回、私がモテるのはどう考えてもお前らがおかしい 第二十三話『どう考えても私はおかしくない』




