第二十一話『学園祭準備』
サブタイトルを『学園祭でメイド喫茶①』から『学園祭準備』に変更しました。
学園祭の季節がやってくる。
この日、五限目の授業は学園祭で自分達のクラスから何を出店するかの話し合いの時間となった。
学園祭実行委員の男女が黒板の前に立ち、クラスメイト達に何か良い案はないかとアンケートを取る。
「メイド喫茶なんてどうよ?」
よくあるクラスの中でもお調子者の男子が、メイド喫茶をやりたいと案を出す。
まあ、お決まりパターンだよね。
だが、こういうのって結局女子が嫌がって普通の喫茶になったり全く別のものになるのが通例だ。
そこでメイド喫茶が採用されるのは、あくまでも漫画やアニメの中だけの話であり、実際に学校の文化祭や学園祭でメイド喫茶をやっているとこなんて見た事もない。
そもそも、メイド喫茶なんて聞くだけでいかがわしそうなのを学校イベントで行おうとするなんて、学校側が許すわけないんだよなぁ。
ちなみに、転性前の俺が高校一年の時と二年の時にも、お調子者男子がメイド喫茶をやりたいと言い出してクラス中の女子から反感を買っていた。
だから普通の喫茶店にしようって話になったんだけど、やる事になったのは自分達が考えた俳句の展示であった。
飲食物を扱う出し物って結局三年生と体育会系の部活が優先的になるんだよなぁ。
一年生は基本的に文化的な展示物を出す事になる。これは毎年恒例の事である。
二年生からは、運が良ければ飲食物を扱う出し物に出来る事があるが、それでも学園祭などでの看板メニューである、焼きそば屋台やポップコーンや喫茶店などは全部三年生や体育会系の部活が扱う事になって、なんとも微妙なポジションの飲食物を扱う店になり、学園祭が終わった時には気分も沈んでいる事が多い。
三年生になって、ようやく自分達の番が回ってきたと思うからこそ、一年や二年には絶対譲らない。
同じ実行委員もそれをわかってるから、常に三年生が優先になるんだ。
文化系の部活は、その活動をそのまま披露できるから飲食物を扱う事は少ない。
だけど、体育会系の部活は何を出店すれば良いかがわからないし、売り上げの一部を部費に充てる事ができるので、是が非でも売り上げを伸ばす事ができる飲食系を選ぶ事になるんだ。
だから、今年は一年生である俺達がどれだけやりたい案を出しても、結局やりたくもない出し物を押し付けられる事になるのだから、と、俺は傍観を決め込んでいた。
しかし、なんだか様子がおかしな方向に向いている事に気付く。
「いいね!メイド喫茶!」「どんな衣装のメイド服が良いかな?」
「メニューは何にする?」「男子は執事でもやる?」
おぉ?なんで皆そんなにやる気満々になってるんだ?
女子達は嫌がる事なく、メイド喫茶に賛成の意見を出していた。
そして俺は気付く…。
全員、俺の方を見ている…。
これは、アレか…俺にメイド服を着せたい、見てみたいって事か…。
まあ、それで一致団結するのなら、甘んじてそれを受け入れる事にするか。
どうせ、メイド喫茶なんて案が通るわけないし、喫茶店という人気の出し物は三年生優先になるはずだし。
一度ここで自分達の案が通らないという事を体験しておくのも良いだろう。
人生そんなに甘くはないって事を、若いうちから学んでおくのも一種の勉強だ。
俺はすでに体験済みだから、これで案が通らなくても落胆する事はないしな。
それからは、せっかくだし俺も乗り気で案を出す事にした。
どうせ通らないってわかっているからこそ、やりたいように案を出してみるのも悪くはないと思ったのである。
今は、どんなメイド服が良いかの話し合いをしているところだった。
男子達は、露出多めの胸元が開いたミニスカメイド服が良いと盛り上がっている。
流石に、それを着る事になる女子は反対していた。…ただ、若干名残惜しそうに俺の方を見ながら反対するのやめてくれないかなぁ…。
「お前等、わかってないなぁ…」
俺が立ちあがってそう呟くと、全員の視線が一斉に集まった。
「リリーに似合うメイド服は、クラシカルメイド服に決まってるでしょうが!!」
そして、声高らかに宣言をした。
元々、メイド文化はイギリスが発祥である。ならば、イギリス人とのハーフであるリリーにクラシカルメイド服が似合わないわけがない。
クラス中が一斉にスマホでクラシカルメイド服を検索し始めた。
ちょっと怖いよね。現代社会に侵されすぎじゃないかって。
「良い!このメイド服良い!」「奥ゆかしさを感じるな!」
「リリーちゃんに良く似合いそう!」「ロングスカートも悪くないな…」
満場一致だった。
衣装となるメイド服は、そのまま俺の案が採用されてクラシカルメイド服で決定したので、今度は肝心の喫茶メニューを決める事となった。
まあ、喫茶というくらいだから、ケーキが主に案としてあがっている。でも、ケーキの用意って結構大変なんだよなぁ。
「あ、そうだ」
そこで俺はふと思いついたので挙手をした。
学園祭実行委員に名前を呼ばれ、俺は立ち上がる。
「せっかく、メイド服も英国風のクラシカルメイド服なんだから、英国風喫茶ってどうでしょう?メニューとしては、スコーンやソフトクッキー、カップケーキやチョコレートなどの、お持ち帰りも容易なメニューにして、飲み物は紅茶メインで」
食べ物はケーキ類で飲み物はコーヒーというのが普通だけど、そこを英国風にしてみる。
アフタヌーンティーってやつだな。
実は、俺はもう、紅茶なしでは生きていけない体になっている。
常に水筒に紅茶を入れて持ち歩いているくらいだ。紅茶が体から抜けきると、紅茶が飲みたくなってたまらなくなってくる。
いっそのこと、注射で血管に直接紅茶を流し込みたいとかって思った事もあるくらいだし。
そこまで紅茶にハマってしまっている俺だからこそ、美味しい紅茶だって研究し尽くしているし、紅茶に合うお菓子の作り方も完璧にマスターしていた。
英国風喫茶にすれば、全て俺が指導が可能である。
「それいいね!英国風メイド喫茶!」
クラス中が大賛成となった。
まあ…ここまで盛り上がっていて悪いけど、普通に無理だろうなぁ。
そう思っていた時期が俺にもありました。
次の日、教室に入ると、学園祭実行委員が頻りに興奮しながら「英国風メイド喫茶の案を勝ち取ってきた!」と、教室内で報告をしていた。
マジか。よくメイド喫茶なんて案が通ったな、しかも三年生や体育会系の部活が喫茶店の枠を譲ってくれるとは。
ホームルームの時に詳しい説明がされる。
勝ち取ってきたとは言っていたが、実際には各学年各教室の学園祭実行委員達と各部活の部長が、全員乗り気で俺達のクラスの英国風メイド喫茶を推してきたらしい。
こっそり聞いた話だと、全員、俺のメイド服姿を見てみたかったそうだ。
逆に凄いわ。なんで学校中で俺のメイド服姿を見る為に一致団結するんだよ!
それと、喫茶メニューの案も他の喫茶を出店する案と全く被らなかったので、別枠として喫茶店を出店しても問題がないと判断されたらしい。
競合する案がなければ、その案を出した者勝ちではあるよね。
これがもしケーキやコーヒーメインの喫茶店だったら、流石に同じ喫茶店の案を出してきた三年生が黙ってはいなかったか。
更に、いかがわしそうなメイド服ではなく、クラシカルメイド服というのも評価に繋がったらしい。
ブレザーの制服よりも、むしろ露出が抑えられているし、清楚さが感じられるのだと。
だから、先生からの許可も降りたそうな。
そういう事で、俺達のクラスは英国風メイド喫茶を学園祭でやる事に決定となった。
勿論、昨日の時点で万が一案が通った場合の為に、メイド服は予め調べておいた業者からレンタルをするという事やお菓子や紅茶の材料費、それらを含めた予算などもほとんど決定していた。
なるべく穴のないように企画書を作成して委員会に臨んでいたのも、案が通った要因でもあるかな。
理想ばかりを追い求めた行き当たりばったりな案だと、とてもじゃないが任せられないって不安に思うだろうしね。
あとは、紅茶の種類とお菓子の種類、そしてその価格を決めるだけだ。
ある程度は決めてはいたけど、あまり品数が多すぎても良くはないからね。
他にも衣装のレンタル業者に予約とかだってしないといけないから、皆との話し合いはこれからも必要である。
メイド服を着る事にはなってしまったけど、学園祭が楽しみだ。
・次回更新予定:本日中。
・嘘次回予告
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
リリーのメイド姿に、誰もが魅了される。
しかし、注文できるメニューはとんでもない物と化していた。
マーマイトのバタートースト
スターゲイジー・パイ
ハギス
フィッシュ・アンド・チップス
ウナギのゼリー寄せ
訪れた客達は悲鳴の声を挙げる。(フィッシュ・アンド・チップスは中でもかなりマシ)
次回、ご注文はうなぎですか? 第二十二話『他の国から見れば、日本料理も結構ゲテモノ』




