第十九話『初めてのビキニ』
女子高校生となって初めての夏がやってきた。
まあ、やる事は中学の時とあまり変わらないけどね。
そう思っていたのだが、夏休みに入ってすぐの事、同じクラスの男子からプールに遊びに行かないかという誘いの電話が入った。
婆ちゃんが泊まりで仕事に行く日があったので、その日なら一日中遊ぶ事ができるので俺は、この日なら良いよ、と返事をする。
電話越しに男子のテンションが上がっているのがわかった。
まあ、二人きりではないけどね。
次の日に、同じ中学からの入学者である友達と水着を買いに行く事にした。
中学の時に着ていた水着はもう入らないのだ。特に胸が苦しい。
男だったら、そうそう海パンのサイズなんて変わる事はないから、新しいのを買う必要なんてないんだけど、女ってこういう時に大変だよね。
いつもお疲れ様です。…まあ、今は自分もなんだけど…。
「リリーちゃん!この水着着てみてよ!」
「えぇ…これってビキニタイプじゃん…。わたし、ワンピースタイプかタンキニにしようと思ってたんだけど」
友達が見せてきた水着は、ピンク色の可愛らしいビキニであった。
いや、可愛いのは認めるんだけど、ビキニはちょっと勇気がいるなぁ。
しかも、これって三角ビキニじゃん。
俺はあまり煽情的なビキニは着たくなかったから、ワンピースタイプかタンキニを集中的に選んで探していた。特にタンキニを。
タンキニって良いよね。普通の服みたいに見える水着だからあまり露出が多くない。
それでいて、結構可愛いデザインが多いんだよ。
俺が特に多く選んでいるのは、普通のワンピースに見えるちょっとフリルが多めのタンキニだ。
しかし、俺が選んでいた水着は全て友達に没収され、代わりにそのピンク色の三角ビキニを手渡される。
「とりあえず、着てみてよ!絶対リリーちゃんに似合うから!」
「うぇへぇ…」
変な声が出た。
せめてフリル付きのビキニにしてほしかったなぁ…。
しょうがないので、試着室に入って友達の選んだビキニを試着する。
「うっわ…可愛い…」
試着室内にある姿見で、俺は思わずリリーのそのビキニ姿に見惚れてしまった。
身長の低さとは裏腹に大きな胸、それがビキニによって強調されている。
しかも、リリーの肌はかなり色白なのでビキニのピンク色はかなり目立つ色合いだ。
こんなの俺がリリーとは別人で、プールとかで見かけたら思わず声をかけたくなるレベルだよ。
「リリーちゃん、着替え終わった?」
試着室の外から声をかけられる。
ずっと姿見でリリーの姿に見惚れていた俺は思わずビクッと驚いてしまった。
「う、うん。着替えたよ」
試着室を開いて友達に姿を見せる。
友達は俺の姿を見た瞬間に「ほぅ…」と頬を赤く染めて甘い吐息を吐いた。
「すっごい似合ってる。リリーちゃん、それにしなよ?」
「似合ってるのは嬉しいんだけど…露出多すぎじゃない?もっと露出抑えた水着が欲しいんだけど」
一応はキープして他の水着を探す事にする。
しかし、その後に選んだ物は全部あまりピンとこなかった。
結局、俺は友達の選んだピンクのビキニを買う事にした。
あまりにも似合い過ぎていた為に、他の水着はいまいちに感じてしまったからだ。
まあ、友達の顔を立てるのも悪くはない。友達も喜んでいるので俺も嬉しく感じる。
数日後、集合場所である駅を降りて俺と同じ地元に住む友達はクラスメイトの待つ場所へと移動をした。
すでに他のメンバーは全員揃っていた、どうやら俺達が最後みたいだ。
「ごめん、お待たせ」
集合時間の十分前ではあるが、自分達が最後だった為に少し小走りで合流して軽く謝罪をする。
普通だったら、そこで「全然待ってないよ」とか「今来たとこ」とか色々あるんだろうけど、不思議な事に誰も何も言ってこなかった。
どうしたのだろうと首を傾げて様子を見ると、全員俺を凝視して惚けていた。
「天使だ…純白の、天使だ…」「なんて神々しい…」
「パイスラがやばい…」「いいなぁ…化粧してなくてこの可愛さはズルい」
全員が何か呟いてた。
すると俺と一緒に来ていた友達は、全員の肩をぽんぽんと叩いていき。
「わかる、わたしも中学の時からずっと思ってた」
と、だけ呟いて皆と並んで俺の方を拝み始めた。
俺の今の恰好は、真っ白なワンピースに白色のおしゃれな帽子を被っている。
水着や替えの下着、タオル、貴重品類を入れているショルダーバッグを肩から下げているので、ショルダーバッグの紐が胸を更に強調させている恰好だ。
この恰好は少し狙ってやってみた。
可愛らしいフリルの付いた真っ白なワンピースって、これもある意味童貞を殺す服だよね。
肩や腋が出ているにも関わらず清楚感溢れているし、涼し気である。
そんな服装を、普段から天使と言われている自分がやってみたらどうなるか。
もはや神格化されてしまう勢いである。
まあ、ここまで拝まれるほどとは思わなかったけど。
そんな事もあったけど、今日プールに遊びに行くメンバーが俺も含めて六人全員揃ったので、俺達は電車に乗ってプールのある大型レジャー施設へと移動を開始した。
集合する前の電車でもそうだったけど、電車内でやたらと色んな人からの視線が俺に集まっていたような気がする。
いや、これは気のせいではないな…。スーツ姿の社会人にも凝視されてしまっていたし。
プールに到着し、一旦男子と別れて更衣室へ。
もはや一般の人がいても慣れたもので、俺は何も気にせずに女子更衣室で着替えをする。
まあ、美人で巨乳の人がいたら、ちょっとそっちの方を盗み見してしまうけどね。
着替えと日焼け止めクリームを塗り終わった後、更衣室を出て男子達の待つ場所へ。
「お待たせ。…どうかな…?」
少しもじもじとしながら男子達に水着姿を披露する。
男子達は頬を赤くしてまじまじと俺を見つめていた。
「そんなに見つめられると、ちょっと照れちゃうよ」
「と、言うか男子…わたし達の方もちゃんと見てよ…」
男の視線を全部俺が独り占めしていたので、友達女子二人が頬を膨らませて男子達に怒りの言葉をぶつける。
友達も可愛いんだけど、リリーは格が違うからな。
その後、男子達は俺達の水着姿を褒めてくれる。
もちろん、友達の女子の事も褒めていた。けど、友達はちょっと不貞腐れていた。
始めは少し浅めのプールで水かけなどをして遊び、次に流れるプールをのんびりと浮輪で浮かんで一周する。
その後、ウォータースライダーで遊んだ時、俺はお約束のトラブルを発生させてしまい、周囲にいた男性陣が外人四コマのような反応を見せていた。
まあ、これくらいはサービスって事で。
…でも、やっぱりビキニは恥ずかしいな。
昼頃になり、テーブルが埋まり始めていたので昼食を食べる為に女子は場所取りで、男子は買い出しに分かれて行動をした時だった。
「君たち可愛いね。一緒に遊ばない?」
もはやテンプレートと言っても過言ではない展開がやってきた。
髪を金や茶髪に染めて少し浅黒いほどに日焼けをした大学生らしき男グループが、俺達に声をかけてきた。
「俺達も三人だし、君たちも三人だから丁度良いよね」
そして、何か勝手に話を進めていく。
「結構です。わたし達には皆連れがいるので」
ツンとした態度を取って、俺はナンパをしてきた大学生をあしらおうとする。
が、大学生達はめげずにアプローチをかけてきた。
「いいじゃん、そいつらなんて放っておいて、俺達と遊ぼうぜ」
「嫌です。お断りです。あっちに行ってください」
はっきりと拒絶の態度を出す。
こういうのは、トラブルを避けようと遠回しに断ろうとするから、相手も遠慮していると勘違いしたり、押せば通ると思って強気に出てくるんだ。だったら、初めから取りつく島もない態度を取っておけば、引き下がるだろう。
これが漫画やアニメの中だったら、そこから「そんな誘ってるような水着着てるんだから、実は期待してるんだろ?」とか「調子乗んなよ」とか言ってきて無理矢理連れ去ろうとする展開とかあるんだろうけど、流石に現実でそんな事やってたら色々と軽犯罪だもんね。
そんな展開が許されるのは、漫画やアニメの中だけの話だ。
その効果は抜群で、男達はすごすごと下がっていく。
まあ、ナンパ如きで犯罪者になんてなりたくないもんな。
次、別の人に向かって頑張れ、貴殿の今後の活躍をお祈り申し上げます。
「リリーちゃん凄いね…よく、あんなにはっきりと断れるね」
「手を掴まれたりして無理矢理引っ張られたりしないか心配だったよ」
友達の一人が、まさに漫画やアニメの展開を不安視していたようだった。
「ああいうのははっきりと断った方がトラブルが起きにくいからね。それに、連れ去り展開とか現実でやったら犯罪だよ。手を掴まれた時点で大声で叫べば、監視員だってやって来てくれるし」
それに周囲には大勢のプール利用者がいるんだ。
ほとんどの人がトラブルを避けようと見て見ぬフリをするだろうけど、それでもこれだけの大人数の目の前で連れ去り展開なんて普通はできるもんじゃない。
その後、男子達が戻ってきて、その時の顛末を聞く。
男子はすぐに「くそ…俺の彼女になんのようですか…って言いたかった…」と、悔しがっていた。
いや、確かにその困っている女の子を助けるテンプレ展開もお約束だけど、そうそう現実にそんな事は起きないからね、夢ばっか見ていちゃ駄目だよ。
その後は特にトラブルもなく、皆で楽しんで遊び、夕方にファミレスで食事をしてから解散となった。
男子がカラオケに行かないか?と誘ってきたりもしたのだが、女子が「リリーちゃんとカラオケに行くのはやめておいた方がいいよ…」と、げんなりしながら答えるのであった。
・次回更新予定:本日中。
・裏設定
一緒に遊びに行った中学の友達:黒木 百合
クラスメイトの女子の名前:岩下 梅
クラスメイトの男子の名前:榎 敏行
クラスメイトの男子の名前:野原 玄田
クラスメイトの男子の名前:藤木 勝秀
・嘘次回予告
今回はお休み




