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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第三章『高校生編』
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第十八話『ディフェンスの甘さに定評のあるリリー』

「リリーちゃんってさ、ガードが甘いよね」

 弁当を食べ終わった後の昼休み中、一緒に雑談をしていたクラスメイトが急に話題を変える。

 ガードが甘いと言われたので、俺はサッとファイティングポーズをとった。


「ちがう…そうじゃない…」

「そう?しっかり腋もしめてきちんとしたポーズが取れてると思うんだけど」

「そう言う意味で言ったんじゃないよ!?」


 どういう意味なのだろうか?

 そもそも、突然ガードが甘いと言われても、俺も友達も格闘家ではないし、普段から戦っているわけでもない。

 まあ、スポーツでなくて普段から戦ってる人達がいたらちょっと怖いよね。

 どんなストリートファイターだよって。


「わたしが言ってるガードが甘いってのは、普段のリリーちゃんの行動の事だよ!」

「でも、わたしは別に普段から戦ってないよ?」

「戦いから離れて!?」


 完全にボケとツッコミになっていたようだった。

 他のクラスメイトも苦笑している。


「例えば…リリーちゃん、ちょっと座ってみて」

 言われるがままに座ってみる。

「あ~…うん。今は普通に座ったから問題ないけど、普段は男子のいるところでもスカートの中とか見えてるんだよね…」

「あぁ、そういう意味のガードが甘い、ね」

 ようやく理解できた。でも…。


「皆だってたまにパンツとか見えてる時あるじゃない?」

「それは周囲に男子がいない時だけだよ」

 言われてみれば、友達がスカートの中が見えるような座り方をしている時って、男子がいない時だな。


「でも、リリーちゃんは男子がいてもいなくても、しょっちゅうスカートの中が見えてるし、シャツのボタンだってたまに開いてるからブラや谷間が見えてるんだよ…って、もしかして自慢か!?」

 急に友達に頭を両手で鷲掴みにされる。

 自慢じゃないよ…蒸れて暑いからたまにボタン外しているだけだよ…。


「ガードが甘いっていうよりも、何か男っぽいよね」

 ギクリッ!


「あ~、わかる!リリーちゃんって無理して女の子っぽい事してるような感じがするよね」

 ギクギクゥッ!!


 だってしょうがないじゃん!元は男なんだよ?

 冷や汗をかいていたら別の教室から遊びに来ていた同中学の友達が更に追い打ちをかける。

「リリーちゃんが転入してきた時なんて、常に男のような喋り方だったよ。会話するのも男子とばっかりだったし」

 あ、あの時は退院明けでまだ全然女の子の事を何も知らなかったから…。


 これでもだいぶお淑やかにはなっている。…ハズだ。

 心の声は相変わらず男口調だけど、普段の口調はきちんと女の子っぽい喋り方をするように気を付けている。

 テンション上がったりした時には男口調になってしまう時もあるけど。


「えぇ!?意外!リリーちゃんって、良いところのお嬢様ってイメージがあったのに」

「家はビックリするくらい大きいよ。一緒に住んでるお婆ちゃんも気品溢れる人で、とても素敵な人。…でも、肝心のリリーちゃんは、何か男っぽい」


「ご飯食べる時も大口開けて食べるし、男子よりも大食いだよね」

「この前も、スピード出してて、スマホいじりながら運転してるトラックに向かって『おいゴルァ!降りろ!免許持ってんのか!』って叫んでたよ」

「うーわー…それは酷い」


 しょうがないだろ!俺にとってトラックは天敵だ!自分の仇だ!


「胸やスタイルは文句のつけようがないのに…身長は低いけど」

「と、言うかこの胸は反則じゃない?ちょっと揉ませてよ」


 そして俺の許可を取る前に胸を揉み始める友達。


「うわぁ…このボリュームはやばい。食べた栄養は全部ここにいってるのね」

「それ、前にも言われた事あるなぁ…」


「タピオカチャレンジしてみてよ」

「前にやらされたよ。普通にできた」

 ぁ、何かタピオカの話してたら転性前に飲んだ事あるタピオカ入りココナッツミルクが飲みたくなってきた。

 もちろん、ミルクティーの方も好きだけどね。


 それからは代わる代わる皆俺の胸を揉んでいく。

 まあ、この胸は確かにやばいよな。俺も風呂に入ってる時によく揉んでるし。

 …転性前の男の時に、こんな胸を揉んでみたかった…。



「うわ、何か女子が凄い事してる…」

「いいなぁ…」


 教室にいた男子が、この光景を羨ましそうに見つめていた。

 気持ちはわかる!クラスメイトの女子の、それも巨乳を揉んでみたい気持ちは痛いほどにわかるぞ!


「頼んだら俺達にも揉ませてくれねぇかなぁ…」

「流石に無理だろ?」

 他の男子達もこの光景を見て、そんな事を言っている。


「構わないよ?揉む?」

 高校生男子の願いを叶えてあげるのも悪くないだろう。

 そう思って、俺は男子達に近寄って胸を突き出したのだが…。


 スパーンと頭を後ろから叩かれる。


「だからリリーちゃんはガードが甘いって言ってるじゃない!!」

「今のは不意打ちだよね!?」

「そっちのガードじゃない!」


 いや、わかってるけどさ…。

 俺も前まで男子高校生だったわけで、目の前にいる男子達の気持ちが痛いほどに理解できるんだよ。

 だったら、胸を揉ませるくらいの願いは叶えてあげても良いんじゃないかって思ったんだ。

 それ以上の事は流石にお断りだけど。


「ほら、見なさいよ。男子達が困惑してるじゃない!」

 男子達の方を見てみると、確かに困惑していた。

 でも、あの目には期待もこもっているように見えた。だが、すまない。どうやらその期待には応えられそうにもないみたいだ。


 その後、俺は女友達から怒られる。

 胸を人に気安く揉ませたら駄目だと。


 でも、さっきまで君たちも俺の胸を散々揉んでくれていたよな?

 それを言うと、「女同士なら問題ないの!」と言われてしまった。何それズルい。




 それから数日後の事だった。


「ヌードデッサンのモデル?」

 友達と一緒にお弁当を食べていたら、美術部に入部をした男子から話しかけられた。

 お願いがあるという事で、話を聞いてみると、俺にヌードデッサンのモデルをしてほしいとの事らしい。


「まあ、写真じゃないなら良いかな?」

 今の世の中は、デジタルタトゥーという消したくても消せないデータがある。

 もしもスマホなどでヌード写真を撮られた場合は拡散されてしまって消す事は不可能になる。

 でも、絵であるならば別に問題はない。


 もしも、その絵をインターネット上に公開したとしても、モデルになったのは自分であってもそれはあくまでも絵なのである。

 だったら、引き受けても良いと思ったのである。


 俺にお願いをしてきた美術部男子は、流石に断られると思っていたのだろう、物凄く驚いていた。

「い、良いの!?」

「良いよ。その代わり、ちゃんと顧問の先生に許可を得て、顧問の先生立ち合いの下、行ってね?」

 これは当然の約束である。


 これでホイホイついて行って、ヌードデッサンと称した別の目的を持った男達に囲まれる事になったらたまったもんじゃない。

 それに、美術部顧問は女性教諭である。グルになって俺を襲うって事はないだろう。


「本当に良いの?リリーちゃん?」

 心配になった友達が声をかけてくる。

「芸術の為なら一肌でも二肌でも脱いでも構わないよ。文字通りね」

 俺の言葉に、美術部男子は感動をしていた。


 そしてすぐに先生に報告と許可を貰いに行こうと駆け出していく。



「た、橘さん!?ヌードデッサンの話は本当なのですか!?」

 丁度お弁当を食べ終わった直後だった。

 美術部顧問の先生が俺のところに事実確認にやってきた。

「えぇ、本当です。さっきも言ったのですが、芸術の為ならば一肌でも二肌でも脱ぎますよ」

 先生もその言葉に感動をしていた。


「本当は断るつもりでいたのですが、橘さんの覚悟に感動しました!是非、ご協力をお願いします!」

 先生も、先生である前に一人の芸術家だったみたいだ。

 本当は先生として生徒をヌードデッサンのモデルにするなんて良くないと考えていたようであるが、それ以上に芸術家魂に火をつけてしまったらしい。


 あとは先生とヌードデッサンを行う日程を相談しあう。

 流石に頼まれたその当日に、というわけにはいかない。俺にも予定が…まあ、夕飯の買い出しくらいしかないや。


 そして日程を決め、先生が教室を出ていく。



 この日、美術部の先生の下に、大勢の男子生徒が入部届を持ってきたらしい。

 そして、それが不純な動機である事にすぐに気付いた先生は、我に返ってすぐにヌードデッサンを中止にするのであった。

・次回更新予定:明日。



・裏設定

リリーの胸はこの時点でFカップ。

サブタイトルを「なんでも言うことを聞いてくれるリリーちゃん」とどっちにしようか迷った結果、ディフェンスの甘さに、を取りました。



・嘘次回予告


ヌードデッサンのモデルを引き受け、美術室に向かったリリー。

美術室にはギラついた目でリリーを見る男達が集まっていた。

気味の悪い笑い声を出す男達、傍観する先生。

「やめて…!わたしに乱暴する気でしょう?薄い本みたいに!」

リリーは必死に抵抗しようとする。

リリーの運命は如何に!?


次回、薄い本が厚くなる展開 第十九話『しねーよ。とっとと入れ!』

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