第十四話『消えた男子バスケ部』
桜が満開の季節、俺は人生二度目の高校入学を果たした。
もはやお馴染みの、一度目は男子の制服で、二度目は女子の制服で、である。
ちなみに、この高校の制服は男女ともにブレザーだ。
何気にこの高校の女子のブレザーって可愛いんだよな。制服目当てで入学する女子も少なくない。
「では、出席番号順に自己紹介をしてもらおう」
入学式の後、これから自分が通う教室へと移動をして、まずは担任の先生の挨拶と自己紹介を聞き、その後は俺達生徒の自己紹介の時間となった。
ウチの中学からも見知った顔が何人か入学していたのを見かけたけど、残念ながら同じクラスにはなれなかったので、このクラスには知り合いは誰もいない。
自分よりも前の人達の自己紹介を聞いていき、俺の番が回ってくる。
自己紹介をする為に立ち上がると、今まで以上に教室内が静かになった気がした。
「橘 リリーです。日本人とイギリス人のハーフです。趣味は料理とお菓子作りです。皆さん、これからどうぞよろしくお願いします」
ここで宇宙人・未来人・異世界人・超能力者を求める発言をしても良かったが、滑った時が目もあてられないので、無難な自己紹介にしておいた。
それでも、リリーという美少女の自己紹介は拍手喝采という大成功を迎える。
「え~ん…リリーちゃんと同じクラスになりたかったよぅ…」
同じ中学からの入学者である友達が、別のクラスから遊びに来た。
「まあまあ、それでも同じ学校なんだから、別の学校に入学した他の人よりかはマシでしょ?ほら、入学初日から同じクラスメイトになった人達を放っておくと、友達できないよ。帰りは一緒なんだから、それまでは同じクラスの人と仲良くなってきなさい!」
そう言って、俺は中学の時からの付き合いの友達を教室から押し出す。
「うぇ~ん!リリーちゃんの意地悪ぅ~!」
ウソ泣きをしながら、友達は自分の教室へと帰っていった。
その後は新入生同士による友人作りの集まりになる。
美少女な上にクラスの中で唯一の金髪で目立つ俺は、当然、注目の的になっていてクラスメイトの誰よりも多く話しかけられた。
「橘さんはどの中学から来たの?」「どの辺に住んでるの?」「好きな食べ物は?」
「恋人はいるの?」「部活は何に入るの?」「リリーちゃんって呼んで良い?」 などなど。
当たり障りのない質問が多く、俺は質問に答えたあとに逆にその人の事を知る為にも質問をし返す。
そうして、俺は二度目の高校入学初日を終える。
帰りの電車では、同じ中学の友達と一緒だった。
まあ、同じ地域から来てるから当然だよね。これからも通学は一緒になりそうである。
「…同じ制服を着てるはずなのに、落差を感じるのは気のせい?」
「わたしが金髪だからじゃない?」
「いや、髪の色じゃない…これは…やっぱり、胸だ!」
胸囲の落差社会というやつか。
俺の胸の成長はまるで留まる事を知らないのか、すでにEカップの域まで達していた。
でも、友達は皆羨ましがるけど、胸が大きいと重いし足元は見えないしで結構大変なんだよ。
男の時は高身長を羨ましがられていたけど、女の時には胸の大きさを羨ましがられる事になるとは…。
でも、どちらもあまり大きすぎても良いってもんじゃない。何事もほどほどが一番だ。
ちなみに、身長や体型に関しては相変わらず小柄ではあるけれど、昔みたいにメチャクチャ小さいわけではない。
中学の間に結構伸びて、卒業前に保健室で身長を測った時は百三十八センチメートルあった。
一年間に十センチメートルずつ伸びてるな…ちょっとびっくりだよ。
この数日後にあった身体測定で、更に一センチメートル伸びて百三十九センチメートルになっていた、が、それ以降は俺の身長は打ち止めとなった。
せめて百四十センチメートルは欲しかったなぁ…あと一センチなのに。
部活紹介が始まった。
学校の体育館で、それぞれの部活動が新入生を勧誘するためのアピールタイムだ。
俺は家事もしなくてはならないし、何より自宅から高校まで一時間はかかる道のりなので、中学と同じように部活には入らずに帰宅部と決めている。
それでも、この部活紹介は少し楽しみであった。
俺が男の時の男子バスケ部の部活紹介は、体育館でやるというアドバンテージもあり、少しだけ派手なドリブルとダンクシュートをするというアクションを行った。
今年の男子バスケ部はどんな部活紹介を見せてくれるだろうか!
わくわくしながら待っていたのだが、一向に男子バスケ部の出番はやってこない。
おかしいな?ここはバスケの強豪校だから、いつも始めらへんに紹介をしていたはずなのだが?
首を捻っていると、とうとう最後の部活動の紹介が終えてしまう。
え?終わった!?ちょっと待って!?男子バスケ部はどうした!?
部活紹介が終わって、放課後になると同時に俺は職員室へと駆け込んだ。
「失礼します!」
職員室に入るなり、俺は目的の先生の姿を探す。
(いた!)
探していた先生を見つけ、俺は先生のそばまで歩みよる。
「君は…新入生か…?」
俺が隣に立った事により、顔を上げた先生は俺がすぐに新入生だと気づく。
「初めまして、橘 リリーです。今日は先生に聞きたい事がありまして来ました」
「俺に聞きたい事?何かな?」
「…男子、バスケ部について、です」
てっきり授業の事についてだと思っていたのだろうか、先生は俺が口にしたワードを聞くと一瞬だけ顔を強張らせた。
「男子バスケ部?そんな部はこの学校にはないし、俺に聞かれても私は何も知らないな…」
「嘘だっ!!先生が知らない訳ないでしょう!」
恍けた態度を取る先生に向かって俺は思わず声を荒げる。
その俺の声に、職員室内は少しざわつく。
「橘、といったか?少し場所を変えようか」
そう言って、先生は席を立って職員室を出ようとしたので、俺はあとについていった。
移動先は生徒指導室だった。
「職員室であんな大きな声を出して先生を嘘つき呼ばわりするとは感心しないな」
「大きな声を出した事については申し訳ございません」
そこは素直に謝る。
「わざわざ『大きな声を出した事については』とあえて言う事は、あくまでも君は先生を嘘つき呼ばわりするのだね?」
「だってそうじゃないですか?」
俺は知っている。知らないはずがない。
「だって、先生は男子バスケ部の顧問の先生なのだから」
転勤していなかったのか、俺が男の時の男子バスケ部で顧問をしていた先生の姿を、俺は入学式の時に確認していたのだった。
その俺の言葉に、先生は再度顔を強張らせる。
「…俺が男子バスケ部の顧問をしていた事を知ってる生徒が入学してくるとはな…」
観念したかのような表情をして、先生は座っていた椅子にもたれかかる。
「それで、男子バスケ部の何が聞きたいんだって?」
「聞きたい事はいくつかあります。最初に、何故、男子バスケ部がないのですか?顧問の先生がいて、バスケの強豪校であるこの高校に、何故、男子バスケ部が…」
「…はぁ。最初の質問でほとんど核心を突いてくる質問だな」
先生はため息を吐く。
「質問には答える。が、先に俺の質問に答えてくれないか?橘はどこまで知っている?」
どこまで?どういう事だ?
「その質問の意味はよくわかりませんが、わたしが知っているのは、この高校がバスケの強豪校である事、先生がそのバスケ部の顧問をしているという事です」
俺の答えに、先生は「ほとんど何も知らない、という事か…」と窓の外を眺めた。
・次回更新予定:明日。
・裏設定
バスケ部顧問の先生の名前:楠木 桂
同じ中学からの入学者:黒木 百合
・嘘次回予告
消えてしまった男子バスケ部。
過去に起きた血に塗れた惨劇。
隠し事をする先生に、リリーは疑心暗鬼に陥ってしまう。
そして、繰り返されてしまう惨劇…。
次回、たちばなの泣く頃に 第十五話『目隠し編』




