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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第二章『中学生編』
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第十二話『二度目の中学卒業』

 今年の体育祭も、俺が応援団長を務めた。

 二年連続で女の子が応援団長をするのは異例だったのだが、この翌年からはこの流れが当たり前となり、中学校内のアイドル的存在の女の子が応援団長を務めるのが伝統となってしまったようである。



 そしてやってきたリベンジの季節、学校のプール開き!

 今年は去年と違ってそこそこ脂肪もついてるし(特に胸)、筋肉量も少しは抑えめになっているので、問題なく浮けるはずである。

 それでも過信はしてはいけないので、最初は泳げない組へと参加をしてしっかりと泳ぐ練習をした。


「去年は泳げなかったのに…泳ぐ練習する暇もなかったのにもう泳げるようになってる…」

 同じクラスになった去年の事を知っている友達が悔しそうに呟く。

「やっぱり胸か!この胸が浮袋の役割を果たしているんでしょ!?」

 そう叫ばれて水着の上から胸をわしづかみにされる。まあ、あながち間違いではないな…。


「あ~ぁ…リリーちゃんはすぐに苦手な事も克服しちゃうから、優越感にも浸る事ができないよ」

「そんな事ないよ。未だに歌は音痴みたいなんだし」


 実は俺は非常に音痴である。


 自分ではきちんと音程をとって歌えているつもりなのだが、他の皆から聴けばとてつもなく音程を外していて、聴くにも耐えられないらしい。

 だから、毎年合唱コンクールの時期や卒業式の歌の練習の時にはバケツを頭に被って練習するスタイルとなっていて、結局本番では最終的に口パクとなる。


 ちなみに、男の時には別に音痴などといった事は一度も言われた事はなかったので、どうやらリリー自体が音痴みたいだった。

 今となってはそう信じたいだけだけど…。



 水泳の授業が終わる十分前になると、自由に泳いで良い自由時間がやってきたので、俺はゆったりと背面に浮かんで、水に浮かぶ事のできる喜びを噛みしめた。

 そして、それを男子達が「二つの山が浮いてる…」と眺めていて、自由時間終了後のプールからしばらく上がる事ができなくなっていたとか。




 期末テストを終えた後、夏休みに突入した。

 男子・女子、両方のバスケ部の大会前最後の追い込みの練習を手伝い、女子は予選は通過できたものの本戦一回戦目で敗退。男子はなんと全国大会優勝を果たした。

 すぐにバスケ部男子達から連絡がひっきりなしに届き、俺は自分の事のように喜ぶ。


 羨ましいな。俺もあの事故がなかったら全国を目指してたんだけどな…。

 そういえば、俺が死亡してしまった年のインターハイの結果はどうなったんだろうか?

 ウチの高校はバスケの強豪校だ、まだ一度も全国制覇は果たしていないものの、優勝候補の一角を担っているほどの実力である。


 パソコンを起動して、俺が死亡した年の高校バスケ全国大会の結果を検索する。

 何度トーナメントを確認しても、俺の高校は本戦に出場すらできていなかった…。

 やっぱり、俺が死んでしまった事による精神的ダメージが大きく、試合に集中できなかったのだろうか。

 予選何回戦で敗退したかはとてもじゃないが調べられなかった。



 気を取り直して、俺は優勝を果たした男子バスケ部と、健闘した女子バスケ部を労う為に全員を自宅に招いてバーベキュー大会を開いた。

 ついでにクラスの友達と、クラスは変わってしまったけど何度も遊ぶ仲の友達も誘ったので大人数となってしまい、広いはずの庭はこの時ばかりは少し狭く思えた。

 婆ちゃんも、滅多に使う事のなかった自宅の庭が有効活用できていた事を喜んでいて、更に「こんなに大勢の友達がおるとは、リリーは流石じゃのう」と褒めちぎっていた。


 ちなみに、庭に関しては婆ちゃんが雇った業者が手入れをしている。

 流石に家以上に広い庭を俺一人じゃ手入れできないからね。


 この日のバーベキュー大会は大変盛り上がり、初めてウチに来た人達も最初は驚いていたけどしっかり楽しんでくれて、遊びに来てくれた友達の内の数人がウチに泊まる事になった。

 修学旅行ですでに裸の付き合いをした仲である。もはや俺は慣れてしまったので一緒に風呂に入ったりもした。

 その時に、友達にあちこちを揉みくちゃにされたのは言うまでもない。




 夏休みが明け、俺達三年生は本格的な受験活動に乗り出した。

 進路がまだ決まってない者は、友人や先生、そして家族と相談して進路を考える。

 進路を決めた者は、その進路へと目指す為の努力をする。


 ウチの中学の男子バスケ部三年生は、あちこちの高校からスポーツ推薦の話が持ち上がっているようだ。特に部長に関しては特待生の話まで出ているようである。

 そりゃ、全国大会優勝を果たしたのだから当然だろうな。

 アイツ等の今のレベルなら、どんな強豪校へ行っても問題ないだろう。高校でも全国を目指して頑張ってほしいものだ。


 俺はと言えば、すでに新年度が始まった時から決めていた、男の時に通っていた高校への進学である。

 もちろん、先生には「橘の成績ならもっと上の進学校にだって入れるのだから、考え直してみないか?」と、何度も言われ続けている。

 そりゃ、成績優秀者には進学校に進んでもらって、そこから更に名門大学とかに進学してほしいって考えるわな。


 でも、もう決めた事だ。俺の考えは変わらない。

 三者面談でも、先生は婆ちゃんを説得しようとしていたけど、婆ちゃんも「リリーが決めた事ならワシは何も言うまい」と、俺の背中を後押ししてくれた。

 まあ、変な言い方にはなるけど、滑り止めとして先生の進んで欲しいと思っていた高校を受験しようとは思っている。

 普通、俺の行こうとしている高校の方が滑り止めなんだけどね。



 季節は流れ、合間のイベントではしばし受験戦争の事を忘れて友達とはしゃいだりした。

 特に、ウチでハロウィンパーティーを開いた時なんかは、婆ちゃんがどこからかリリーに着せてみたい衣装を大量に準備していて、俺は婆ちゃんと友達の手によって色んなコスプレをさせられたりした。


 冬休みに入る直前には、まるで再熱したかのように同級生・下級生を含めた沢山の男子から告白をされたりもした。

 どうも皆、クリスマスを俺と恋人として過ごしたかったようである。

 だが、残念。俺は誰とも付き合う気はないし、クリスマスはすでに女友達と一緒にクリスマスパーティーをする約束をしているのだ。

 そのクリスマスパーティーは、リリーである俺の誕生日パーティーも一緒に兼ねていて、皆で一緒にケーキを焼く約束をしているので今から非常に楽しみである。


 転入をしたばかりの頃は、俺はあまり友達を家へ招待しようとは考えていなかった。

 金持ちだとわかると、それに群がる奴らだっていると思っていたから。


 でも、考えすぎだったようだ。

 中学生は世間一般ではまだ子供である。

 子供はお金での付き合いなんかより、普通に一緒にいて楽しい人と遊びたがるものだ。

 中にはお金の付き合いが大事だという子供もいるだろうけど、俺の周りの人間は、皆そんな打算的な付き合いではなく、俺と言う人間とお金など関係のない付き合いをしてくれた。

 これからも長く良い付き合いをしていきたいものだ。


 まあ、高校生以降になったら流石に打算的な付き合いをしだす奴らも増えるだろうから、家に招待する時には気を付けないといけないな。



 クリスマス兼誕生日パーティーで、ケーキ以外の料理も皆で一緒に楽しく作った。

 昔は料理する事に対して苦手意識を持っていた友達だったが、皆、何度も俺と一緒に料理を作った事によって、それなりに料理が上手になっていて、今では家で手伝いなんかもしているらしい。

 皆、良いお嫁さんになりそうだ。



 そんな友達に、大晦日に年越しを一緒に過ごさないかと誘われたりもしたけど、俺は婆ちゃんと一緒にいる事を優先した。

 婆ちゃんと二人きりで、年越しソバでも食べながらのんびりと過ごしたいと思ったのだ。


 婆ちゃんは自分の事は気にせずに、友達と過ごせば良いと言ってくれたけど、俺は婆ちゃんと過ごしたかったんだ。

 それを少し恥ずかしがりながら伝えると、婆ちゃんは凄く喜んでくれた。

 その笑顔を見ていると、俺も嬉しくなる。



 年が明け、三学期が始まると三年生は受験前最後の追い上げだ。

 連日、学校の図書室は三年生で一杯となり、皆一生懸命に勉強に励む。

 俺も楽勝で受かるだろうけど、きちんと毎日受験勉強はしている。慢心はいけない。


 そしてやってきた入試の日。

 なんで、入試シーズンってこんなに雪が降る日が多いんだろうね?

 どの地域も雪が降ってるという報道が流れている気がするよ。

 その入試前後の週には全く雪が降らない週があるというのに。


 滑り止めはもちろん、目的の高校にも受かる事ができた。

 先生は最後に「本当にそっちの高校で良いんだな?」と念を押してきた。

 俺は迷わずに「はい!」と元気良く答える。

 すると、先生も吹っ切れた表情をして「合格おめでとう」と祝ってくれた。



 そうしてやってくる、普通はやってくることのない人生二度目の中学の卒業式…。

 一度目は学ランを着た男子生徒であったが、二度目はセーラー服を着た女子生徒である。

 何だか感慨深い。


 歌を歌う時は結局最後まで口パクだった。卒業してしまう悲しみとは別の哀しみが込み上げる。


 卒業証書を貰い、中学最後のホームルームを受ける。

 先生は泣いて俺達を見送ってくれた。俺達は泣いたり笑ったりして見送られた。


 卒業式とホームルームが終了して、校庭へ出ると、俺は物凄い人数に囲まれた。


「リリー先輩!スカーフを是非わたくしに下さい!」

「ダメよ!リリー先輩からスカーフを貰うのはわたしよ!」

「スカーフは無理でも、制服のボタンを…!!」


 凄い人気だな…もしかするとこれ下級生のほぼ全員がいるんじゃないだろうか…。って、何気に同級生も混じってやがる。

 改めてみると、ほんとリリーの人気は凄いな。流石美少女なだけはある。


「皆、ごめんけど、スカーフもボタンも誰にも渡さないよ」

 誰か一人にあげれば、他の人だって尚更欲しがってしまう。でも、数に限りがあるものに関しては受け取れなかった者にとっては不公平に感じてしまう。

 ならば俺は最初から誰にも渡さない選択肢を取る。そうすれば、全員平等だ。


 と、言うか君たち、あそこには俺と同じく卒業を迎えた男子がいるんだぞ?その中に憧れの先輩とかいないのか?第二ボタン貰いに行かなくても良いのか?

 しかし、ここにいる者達は全員俺のファンらしく、誰も移動はしなかった。


 こんな事になるなら、バレンタインチョコのように、何か全員に配る事のできる記念品でも用意しておけば良かったな。もう今更だけど。

 代わりに、俺は全員と握手をする事になった。


 リリーとの握手会となった時には、統率の取れた動きで下級生達が二列に並び、交互に握手をして離れていく。

 何気にその整列を取り仕切る者もいて、『リリーちゃんファンクラブ』なる物がこっそりと存在していた事を、卒業と同時に知る。



 握手会も終えて、友達から「お疲れ様」と労いの声をかけられる。

 どうやら待ってくれていたみたいだ。


 それからは少しだけ友達と会話と遊ぶ約束をした後、婆ちゃんと一緒に家へと帰った。


「こうして孫娘の卒業式も見れるようになるとはの…おぬしには感謝しかない」

 どれくらいぶりだろうか、婆ちゃんは俺の事をリリーではなく、男の時の俺扱いをする。

「何言ってるの。家族でしょ?わたしだって、お婆ちゃんに感謝してもしたりないくらいなんだから」

 その言葉に婆ちゃんは目頭を押さえる。


 これからも長生きして、過ごせなかった家族との時間を取り戻してほしいものだ。

・次回更新予定:明日。



・天使の称号シリーズ

恋の天使

男よりも男前な天使

ボクに舞い降りた天使

料理上手な天使

紺色スク水の天使

勝利の天使

(胸が)大天使

天使のパティシエ

天使の応援団長(NEW)

天使ほろびの歌声(NEW)



・嘘次回予告


富、名声、力、この学校の全てを手に入れた女、大天使ゴールドヘアー。

彼女の去り際に放った一言は人々を奮い立たせた。

「わたしのスカーフか?欲しけりゃくれてやる!探せ!この学校のどこかに隠してきた!」

生徒達は、スカーフを求め、校舎を駆け巡る。

世はまさに、大捜索時代!


次回、つなぎ服(ワンピース) 第十三話『ワンピースは和製英語で、英語ではワンピースドレスらしいです』

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