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転生はできなかったけど転性はしました  作者: 紅葵
第一章『転性編』
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第一話『転性』

 トラックに轢かれた。

 それも盛大に。


 出オチ間が半端ないかもしれないが、変えようのない事実だ。

 ってか、トラックの運ちゃんもきちんと巻き込み確認くらいしようぜ、高校三年生の俺だって知ってる車を運転する時の常識だぜ。

 あんな大型トラックがスピードも緩めずに思い切り左折して突っ込んできたら、そりゃもう俺も盛大に吹っ飛ぶわ。ってか、現在進行形で今吹っ飛んでるわ。


 あ~…こりゃ…死んだな。

 死にたくねぇなぁ…でも、死ぬんだろうなぁ…。



 トラックに轢かれて死ぬんだったら、ワンチャン異世界転生とかあるかもな。

 ほら、昔から異世界転生する黄金パターンといえば、転生トラックに轢かれるかブラック企業に勤めてて過労死するか、神様のミスや陰謀で奇怪な死に方したりするのが通例だし。


 んで、ブラック企業過労死は乙女ゲーム世界の悪役令嬢に。神様のミスや陰謀、そしてトラックによる死亡は剣と魔法のファンタジーってのが相場が決まってる。

 悪役令嬢パターンは、ゲーム知識と現代知識チート。ファンタジー世界は主人公だけが持つ特殊(チート)能力(スキル)

 そこで無双展開するのがお決まりですよね。

 高校生の自分じゃ現代知識チートは知識が足りなすぎるから、自分としての一押しはファンタジー世界でチート能力による無双展開だ。


 完全に生まれ変わってからのリスタートも良いけれど、この身体のまま異世界転生させてくれる方が嬉しいな。

 何て言ったって母さんがお腹を痛めてまで産んでくれた体だもんな。

 ただ、その場合だと身分の証明とかが出来ないから最初は苦労しそうだなぁ…言語だって自動翻訳スキルみたいなのがきちんと付与されてたら良いんだけど…。



 ………何を下らない事考えてるんだか…まあ、現実逃避もこれくらいか。

 多分、周囲の人達から見たら今のこの人身事故は瞬きをする一瞬の出来事なんだろうな。

 ただ、今の俺には物凄く、周囲の流れる時間が遅く感じる。

 今までの記憶が走馬灯のように流れるって事はなかった。これから俺はどうなるんだろうって言う考えしか思い浮かばない。

 どうなるんだろうっていうか、確実に死ぬんだろうけど。


 だから、異世界転生したいななんて都合の良い現実逃避をしていた。

 でも、もう地面も目前だ。現実逃避の時間はおしまいだ。

 父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください。



 勢いよく地面に叩きつけられたその瞬間、俺の意識は一瞬にしてブラックアウトした。




 ◇◆◇◆◇◆




 水中から水面へと浮かび上がるようにして、俺の意識は浮上する。


(…生きてる、のか?)


 ゆっくりと目を開けようとするが、眩い光が目に飛び込んできた為に一瞬にして目を閉じてしまう。

 再度、ほんの少しずつ光に慣らしながら目を開くと、見えたのは真っ白な天井である。


(うん、病院の天井だろうね)


 お決まりのネタは使わない。もはや使い古されたネタだろうから。

 しかも、微妙に視線をずらせば見える点滴の管。

 これは間違いなく病院だろう。


(って、事は異世界転生とかそういうのはしなくて、普通に生きていたって事か)

 あとは五体満足である事を祈るのみだ…。


 そう思って体を動かそうと思ったが、全然動かない。

 無理に動かそうとすれば、長座体前屈でこれ以上は曲がらないって状態で更に背中を強く押された時に発生する痛みが体全体に広がる。

 いくらなんでも痛すぎだろう。って事は相当やばい重症だって事なのか…。


 動かなければ痛みは発生しないけど、状況確認できないのは辛すぎる。

 あと声を出そうかと思ったけど、喉がカラカラってのもあるせいかほとんど呼吸に近い掠れた声しか出てこない。

 動けないプラス声が出ない。…しょうがない、看護婦さんが来るのを待つとするか。


 どれくらい待つ事になるのかはわからないけど、点滴の交換とかだってあるんだし半日以内には来るだろう。

 今まで入院とかした事ないし、全くこういう知識はないけど…流石に何日も放置はされないだろうからね。



 それから一時間くらい経過した頃だろうか、病室のスライドドアが静かに開く音がした。


「む、目を覚ましておったか」


 女性の声がした。看護婦さんかな?

 でも普通「む、目を覚ましておったか」はないだろうよ…。

 ゆっくりと声のする方へと視線を向けようとする。

 しかし、その声の主はギリギリの視界外となっていて、ぼんやりとしか見る事はできなかった。


「意識ははっきりしてそうじゃな」


 なんかやたらとババア臭い喋り方する人だな。看護婦じゃないのか?

 そう思っていたら、視界に少し白髪が混じっている背中まで伸ばされたウェーブのかかった茶髪の、白衣の女性が飛び込んできた。

 見た目は四十歳くらいかな?でも、顔の皺とかを見るともう少し歳食ってるのかも。流石に口には出さないけど。…まあ、今は声も出ないから出せないけど。


「ふむ、その様子じゃ体も動かないし声も出ない感じか。とりあえず、診察するが構わんな?」

 そう言って、女性は首にかかっていた聴診器を耳に嵌め、俺が着ていると思われる病人服をはだけさせる。


 しばらくは成すがままにされる。

 聴診器を胸に当てられたり、口を無理矢理あけられて中を見られたり、目に光を当てられた時には眩しかったけど我慢。

 しばらくの間は白衣の女性のカルテに診察経過を書き込む音だけが病室内に響く。


「…よし、では意識が戻ったばかりで大変だとは思うが、今からいくつか質問をする。『はい』ならギュッとする瞬きを一回、『いいえ』ならパチパチと連続で瞬きをしてくれ」


 なるほど、頷く事も声を出す事もできないから代わりの対応って事か。

 とりあえず、『はい』を選択する為にもギュッと目を瞑って瞬きをした。

 その様子に少しだけ満足したのか白衣の女性は少しだけ微笑んで、カルテを捲る。


 それからの質問は、全て『はい』で答えられるものであった。

 俺の名前や生年月日、性別や住所、家族構成などなど。全てが一致している質問である。


「ふむ、記憶等にも問題はなさそうじゃな…」

 あぁ、なるほど。事故後の記憶障害とかがないかを調べていたのか。

 なんの為に今更な質問をしているのかと思っていたよ。


 それからしばらくの間、何故か無言の時が過ぎる。

 白衣の女性は何故か気まずそうな表情をしていて、何かを言おうと口を開こうとしては口を閉じる。

 一体どうしたのだろうか?

 もしかして、俺の体は事故の後遺症でズタズタになっていて意識は回復したけどこのまま一生寝たきり状態になっているとか怖い事実を告げようとしているんじゃないだろうか。


「……………」

 怖いから何か言ってくれ。

 目でそう訴えかけていたら、観念したかのようにして女性は口を開く。


「交通事故に遭った事は覚えておるか?」

『ギュッ』

「即死していてもおかしくはない事故じゃった。じゃが、おぬしは辛うじて生きておった」

『………』

「しかし、それも時間の問題じゃった…。どれだけ手を尽くしても、おぬしの体はどれだけ時間をかけても元には戻せないほど酷い損傷であった」


 …物凄く怖い事実を告げられそうになって、思わず涙で視界がにじんできた。


「生きておったのが奇跡じゃったが、最善を尽くしてもおぬしに待っておるのは死という運命のみじゃった」

『………?』

 だったら何故俺は今、生きている?


「今から鏡でおぬしの姿を見せる。驚くなというのは無理があるじゃろうが、なるべく驚かずに見ておくれ」

 そう言って、女性は少し大きめの手鏡を俺の顔の前に出した。


(…え?なに…なんだ、これ…?)

 思わず驚きで目を見開いてしまう。



 鏡に反射された俺の姿は、『金髪碧眼の幼い少女』であった。

次回更新予定:本日午前6時。


・裏設定

主人公の名前:ひいらぎ みのる

その他キャラの名称:出てくる登場人物の名字か名前のどちらかには、必ず『木・花・草』関係の名称が付いている。



サブタイトルを修正『転生』→『転性』



10/1

前書きの削除。

元々前書きにあった文章はこちら↓



メインで執筆してる小説の更新をサボって書いちゃいました。

まだ途中までしか書けてないですが、本編は大体40話前後となる短い話です。


ストーリー上あまり関係のない話は大幅カットしたので、一気に季節が飛んだりもします。

その分、さくさくと早い展開でストーリーが進むので、ある意味読みやすいとは思います。


また、登場人物の名前などに関しては、メインキャラクターとなる三人以外の名前は、唯一の例外を除いて本編中には出てきません。

あとがきの裏設定に名前を載せるので、脳内保管でお願いします。


本編が全て書き終わった後は一旦完結としますが、カットした書きたかった話などを少し休んだ後に番外編として投稿していく予定です(実は本編よりも多くなる可能性大)。

その番外編では、本編中に明かされていなかったキャラ達の名称がしれっと出てくる事になります。



また、この小説は一人称視点で進む事になります。

基本的には主人公視点となりますが、別の登場人物に視点が切り替わる時にはサブタイトルに『〇〇視点』と加えます。


完結までの短い間、お付き合いよろしくお願いします。

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