表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小四郎の剣  作者: 文福 春太
7/210

指導

 次の稽古日、小四郎は道場に着くと行き成り道場主の宗平から奥へと呼ばれた。

「実は困ったことが起こっての」と宗平が言い、続けて

「一人の門弟の父親が、お前が指導することに異を(とな)えてきたのじゃ。

 無論、(わし)

 『入門し立て、と云っても同門の弟分に当たる高橋五郎兵衛の道場で鍛えられ、当道場においても門弟の中では一、二を争う剣術の腕である』

 と申したのじゃが、中々納得してもらえんかった」


 小四郎にとって、いくら年少者相手とは言え、師範代のごとき役割は新参者(しんざんもの)として荷が重かった。

そこで、これ幸いと

「無理からぬことと思います。

 出来ればこの役は辞退したいのですが」と言った。

「まあ、そう言うな。

 あとは(わし)に任せてくれ」


 稽古が始まる前、宗平は年少者を集めて言った。

「お前たちは基本が十分とは言えない。

 そこを小四郎に鍛えてもらった方が良いのだが、それでも(なお)

 『上級者に交じって稽古したい』

 という者があればそれを許す。

 希望する者は申し出よ」

三名の門弟がそれに応じた。


 後で分かったことだが、およそ半年後に若君付きの小姓が何人か選定されることになっており、その内の一人は剣術の腕が重視されるというのだ。

条件として、それぞれの家の跡継ぎ、という一項がある。

小四郎も年齢的には当てはまるのだが、篠田家の跡継ぎは兄の大三郎である。

そのため選考の対象にはならない。


 何故このような条件があるかと言えば、藩の財政状況があまり(かんば)しくないからである。

新しく家を興すことは財政的に非常に難しい。

若君の小姓を勤めた者が、その任を解かれた時、藩のどこにも居場所がない、というのは聞こえが悪い。

家の跡継ぎならば当主を隠居させ、(しか)るべき役職に就かせることが出来るのだ。


 上級組に移った三人は(いず)れも家の跡継ぎだった。

小四郎もこの後おいおい分かるのだが、剣のみで身を立てることが非常に難しい時代に入っていたのである。


 小四郎の稽古は五郎兵衛を反面教師としていた。

竹刀の握り方から教えたし、足(さば)きは自分の(はかま)(すそ)(まく)り上げて、十分に両足の動きが見えるようにした。

試合稽古(げいこ)では、負けた方にはどこが悪かったのかを指摘し、勝った方には良かった点を()める。

ただ、一人の者が勝ち続けると、全員の前で勝ち続けている者の難点を示し、そこを突かせるようにした。

すると勝ち続けていた者は面白いように負けていく。

それを繰り返して行く内に全体の腕が上がって行ったのだが、小四郎も含めて門弟達にその自覚は全く無かった。


 小四郎が指導して半年程が過ぎた頃、小四郎は道場主の宗平に、年少組の一人が道場を辞めることになった、と告げられた。

若君の小姓に選ばれて江戸に向かうのだ、と云う。

確かに小四郎が教えた中では上位にいたが、まだ粗削(あらけず)りで、もう少し鍛えたかった、というのが正直なところである。


 宗平は『良く鍛えてくれた』と小四郎を(ねぎら)い、続けて

「改めて基本がいかに大事かを門弟達に言いたいのだが、先に上級者たちと稽古をしてきた三人の年少者がそちらに戻りたいと言ったら受け入れてくれるか?」と小四郎に問うた。

是非(ぜひ)もありません。

 喜んで迎え入れましょう」


 結果的に三人は戻って来なかった。

宗平は上級者達に基本の大切さを()き、小四郎が基本の修得に成果を上げている(むね)を告げた。

そして小四郎の教えを受けるものを(つの)ったのだが、手を()げたのは横川和馬(かずま)ただ一人だった。

だが、宗平は

「和馬、お前の基本は大丈夫だ」と言って、それを許さなかった。

横川和馬は上級者の中でも五本の指に入る。

小四郎や、小四郎を揶揄(やゆ)した沢田清之進には及ばないが、それなりに精彩(せいさい)を放つ存在だったのだ。

宗平としては、かつて上級組に移ってきた三人に希望してもらいたかったのだが、和馬以外は誰も興味を示さなかった。


 結局今迄通りだった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ