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小四郎の剣  作者: 文福 春太
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道場破りⅠ

 入れ替え戦が始まって約一月(ひとつき)

入れ替えも順位の変動も無かった。

小四郎は、上位陣はともかく、

下位陣の覇気(はき)の無さに手を焼いている。


そこへ久し振りの他流試合申込者が現れた。

それも二名である。

武者修行の者達ではない。

単なる腕試しのようであった。


相手は

「一手ご教示願いたい。」

と言ってはいるが、口上通りに受け取る者はいない。

特に年嵩(としかさ)の方の武士は落ち着き払い、

自信に満ち(あふ)れているようであった。


先ず、小四郎と若い方の武士が立ち合い、

小四郎は軽くこれを(しりぞ)けた。

次は年嵩(としかさ)の方の武士と、だ。


その年嵩(としかさ)の武士が

「貴殿は今の対戦で疲れておられよう。

 もう一方(ひとかた)の師範代の方と立ち合わせて頂きたい。」

と注文を付けてきた。


「申し訳御座らんが、

 当道場の決まりなので、ご容赦(ようしゃ)願いたい。」


相手は少しムッとした表情で

渋々これに従った。

師範代二人で相手を疲れさせ、

しかる後に道場主が立ち合う積もりだ、

と思ったようだ。


小四郎は、ただ和馬に対戦させるために自分が勝って、

(のち)の主導権を取りたいだけなのである。

だが、相手の気分は害したようだ。

柔和(にゅうわ)な顔付きを一変(いっぺん)させて

小四郎を(にら)みつけている。


いざ立ち合いが始まると、

相手は一刀流にはない奇妙な構えを取った。

小四郎は迂闊(うかつ)に踏み込むことが出来ない。


あの竹刀がどのような動きをするのか確かめてみよう、

と小四郎は防御に気を配りながら一歩踏み出した。

仕留めるつもりは毛頭ない。

()くまでも相手の竹刀の動きを見極めたいだけだ。


だが、相手は気を取り直したかのように

構えを普通のものに戻した。

小四郎は少し気落ちしながらも

当初の仕掛けを実行する。

(ごう)かの打ち合いの末に

相手の打ち込みの隙を突いて一本を取った。


その後、青龍組は通常の稽古へと移る。

小四郎は二人を白虎組の稽古場へと導き、

和馬に年嵩(としかさ)の方の武士の相手を、

若い方の武士の相手には()之助を筆頭に

順位通りの順番で相手をするように指示した。


 小四郎は奥へと(おもむ)き、

美代へお茶の用意を頼む。その際、

「今日は二名で御座る。」

と付け加えることを忘れなかった。


その(あと)、急いで道場へと戻る。

年嵩(としかさ)の方の武士が和馬を相手に

例の構えを取っていないか気になったからだ。


だが、道場では普通の構えで和馬と対峙(たいじ)していた。

一方、若い方の武士はと言えば信太郎と立ち合っている。


()之助はどうした?

 勝ったのだろうか?』

と小四郎が思い集めていると、

和馬がどうやら奥儀の一つを仕掛ける動作を見せた。


小四郎は横目でチラと清之進を見るが、

こちらを気に留めている様子は無い。


和馬が正に仕留めようとした時、

相手の竹刀が素早く動く。

和馬は技の完遂(かんすい)を踏み(とど)まった。


小四郎はホッとする。

和馬への《受け》の稽古が活かされているようだった。


その直後、

「参った」と云う若い方の武士が発した言葉に

気を()がれた年嵩の武士の面を和馬が打った。


丁度そこへ美代の

「お茶の用意が出来ました。」

と云う声が届く。


小四郎は進み出て

「お二方(ふたかた)、お茶の用意が出来たようで御座る。

 防具を解かれよ。」

と声を掛けた。


ところが年嵩(としかさ)の方の武士が、

「今一手(ひとて)、横川殿に御教示(ごきょうじ)願いたい。」

と申し出てきたのだ。


小四郎としても、

例の構えが出るなら()てみたい、

と思っていたこともあり、

「お茶が()めてしまうが、(よろ)しいか?」

と念を押して、

「和馬、今一手(ひとて)、お相手(つかまつ)れ。

 蔵六、用意は出来ているか?」

と蔵六に若い方の武士の相手をさせる。


若い方の武士は、

『もう、やりたくない』

と云った風情(ふぜい)だったが、

小四郎は(なか)ば強引に蔵六と立ち合わせた。

白虎組の稽古に格好(かっこう)の相手と思ったからである。


が、若い方の武士は

「少し休ませて頂きたい。」

と腰を下ろしてしまった。

年嵩(としかさ)の武士は果敢に和馬を攻め立てている。

和馬は的確にそれを受け切った。


『ん? 和馬は受けの稽古に徹しているのか?』

小四郎は和馬が(わざ)

相手の隙を見逃しているように見える。


年嵩(としかさ)の武士の例の構えは依然として出てこない。

その内に蔵六の対戦が始まった。

小四郎は蔵六の左手が、軽く添える程度であるのを見て

『これは蔵六の勝ちのようだ。』と思う。


案の(じょう)、蔵六は難なく勝ってしまった。

和馬も受け切るのに()きたのか、

先程とは別の奥儀を繰り出し、

今度はそれを見事に決めてしまったのだ。

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