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scene1

 主に性別♂のティーンエージャーに向けて質問だ。大人の方は過去を振り返ってみてほしい。


 場所は自分の部屋。好きな子と二人っきり。時刻は夜の……十一時。ちなみに二人は幼馴染で十五歳。それで――長年抱き続けてきた想いを告白したその日の夜にこんなシチュエーションに陥ったら。


「――ねえ。私のこと抱きたいんでしょ?」


 ――どうする?


「セックス。したいんでしょ?」


 ――どうする?


「ねえ。……シて」


 そう言い寄られて、体をピッタリとくっつけられた上に、耳元でそうささやかれたら……どうする?


1、押し倒す。

2、紳士的にお断り。


 シンキングタイムは約5秒。


 ――多分、世界的に統計を取ったら99パーセントが1で占められると思う。もちろん俺も迷うことなく1を取る。十五歳で紳士を気取る馬鹿がいるなら、是非ともこの目で見てみたい。初めてのマスターベーション……オナニーのおかずに選んだのは彼女だった。俺の性は彼女と共に目を覚まし、以後、本やビデオを手に入れるまで、幾度となく妄想の中で俺は彼女を抱いている。彼女は俺の性の始まりでもあり、憧れといっても過言ではない存在だった。


 でも、その時俺は崩壊しそうになる理性を必死に押し留めることに固執した。別に、紳士ぶるつもりはなかったし「あんなこと」さえなかったら、俺はその場で彼女を押し倒すことに、間違いなく躊躇などしなかった。


 そんな俺の意志は、現実の前では脆く崩れ去って、簡単に誘惑に呑まれてしまう。でも、そんな俺を押し留めたのも、彼女自身だった。


 ――やがて、俺を残して、彼女は俺の部屋を出て行った。


(じゃあ、私の誘惑に負けてセックスしたら、あんたの負けね)


 彼女の残した言葉が脳裏によぎる。


(――ねえ。私のこと抱きたいんでしょ?)


(セックス。したいんでしょ?)


(ねえ。……シて)


 その夜、彼女の残り香の中で眠れぬ夜を過ごしたことは言うまでもなく。徹夜でオナニーに没頭し、妄想だけで七発発射の新記録樹立を達成して、俺は果てた。丸めたティッシュの散乱した部屋に漂う臭いの中で、朦朧もうろうとした意識に浮かんだのは、いんびに染まった彼女の表情だった。


 ――もう、勃起はしなかった。






 なぜこんなことになったのかを説明するには、あの夜の出来事を思い出さなければいけない。それは、悪夢と呼ぶにはあまりにもリアルで、現実と呼ぶにはあまりにも現実離れした、そんな曖昧な夜だった――。






          @@@   @@@






 その日の夜、俺は訳も分からないまま病院にいた。訳も分からないまま通された個室には、ベッドに寝かされた静流しずるがいて、静かに眠る静流を俺は訳も分からないまま眺めていた。それから通された別の個室で、白衣のよく似合う若いイケ面の先生は、神妙な顔をして「非常に申し上げにくいのですが」と切り出した。


 イケ面の説明は丁寧で分かりやすく、そこから割り出されたイケ面の見解には、もっともな説得力があった。確かに、衣服を裂かれ、暴行された上に静流の膣内から誰のものか分からない体液が残されていれば、その結果レイプされたと考えるのは妥当だ。


 烈火の如く怒り狂い、イケ面を罵倒する父さんのせいで、俺は取るべき行動を完全に見失った。ただ、その場にいるのは居心地が悪かったので、とりあえず部屋を出てから、俺は静流のいる個室へ向かった。


 死んだように眠る静流を前にすると、やっぱり、訳が分からなくなった。


 頭に巻かれた包帯。ガーゼを張られた唇の端。細い腕に通された点滴のチューブ。そのどれもが、まるで他人事だ。


 今朝、静流は意気揚々と家を出て行った。高校で初めてできた友達と遊びに行くのだと、前日に聞かされていた俺は、今日の昼食と夕食の心配をしながら、静流を笑顔で送り出したのだ。帰りは少し遅くなるかもしれないらしい。静流の言う友達の中に男友達が含まれているかという心配はしていたけど、帰りの夜道で何者かに襲われ、レイプされる心配などこれっぽっちもしていなかった。


 実感が湧かないのだ。こうして静流を前にしても、胸に残るのはまるで他人の不幸話を聞かされたようななんとも言えない痛ましさだけだ。それは、親身な感情とは程遠いものだった。

 静流の膣内に誰のものか分からない体液が残っていた。暴行された末、レイプされた。犯された。無理やり静流は見ず知らずの男に処女を奪われた。


 ……ナンダソレ?


 恐る恐る静流の頬に手を当ててみた。静流の体温が指先から掌に広がる。そのぬくもりが俺のぬくもりとなじむまでずっと、俺は意味もなくそのままでいた。






 その後、父さんは三十分ほど個室から出て来なかった。


 静流のいる個室から出て、暗い廊下の片隅に設置されたベンチに座りながら、俺はぼんやりと静流の眠る部屋のドアを見つめて時間を潰して、父さんを待った。ここから先は子供の俺が立ち入ってはいけない気がした。おそらく、父さんは今後のことを医師と話しているはずだ。どうすればいいのか、俺には見当もつかない。


 今はただ、自分の頭の中を整理することで精一杯だった。


 好きな子が知らない男に犯された。この事実は、俺の生きてきた十五年の人生の中で間違いなく最悪な出来事で、この時からもう、俺と静流の関係は狂いだしていたのだろう。


 その後、父さんは静流が目を覚ますまで病院で付き添うこととなり、俺は一人で病院から家に帰った。どうすればいいのか分からず、俺はただ、言われるままに行動した。


 明日は、学校が、あった。


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