第四話・時は流れて、15年後。
「……エールを頂けますか?」
僕はカウンターに座ってすぐ、忙しそうにツマミを拵えている店主らしき男性に声をかけた。 背後のテーブル席は満席に近く、非常に賑わっている。
「あいよ。 ……すまんが少し待ってもらえるかい。オーダーが立て込んじまっててな」
店主はこちらに視線をあげようともせず、ぶっきらぼうにそう言った。 こういった店に来るのも、ざっくばらんな対応をされるのも随分しばらく振りで、とても懐かしくて心地がよかった。 なんだか顔がにやけてしまう。
「全然構いませんよ、ゆっくりで」
「おう、すまんね。……お連れさんの方は何を?」
「俺はミルクをくれ、オヤジ」
僕の相棒がそう答えると、店主は作業の手を止め、眉を顰めて視線を上げた。
「ミルクだぁ? あのなぁ、ここはガキの来るところじゃねぇんだ……ぞ……? んん……? 」
僕たちの顔を交互に見て、目を大きく見開いた。 ぎょろぎょろと眼球を動かして魚のように口を開閉させている。
視線を斜め上に持って行ったので、何があるのかと思ったら、僕の絵だった。
見たこともない奇抜な帽子を被って、馬上で杖を振っているけれど、戦場でこんなシュチュエーションはありえない。 広告というのは不自然なくらい誇張しなきゃ効果が出ないのだろうか。 僕からすると不自然を通り越して、もはや滑稽だ。
「あなたは……もしかして……」
「すみませんマスター、お忍びで来ているのであまり大きな声で……」
僕は周囲を気にしながら、小声でマスターに語りかける。 人差し指を唇に当てて「内緒」のポーズを取ってみせた。
「あっ、えっ、左様でございますか、えっと……なるほど。 いやぁ、参りました。 あぁ、こりゃいけねぇ。 とんだご無礼を…… い、今すぐにエールとミルクをお持ちしますので!」
「いやいや、いいですよ本当に、待てますから! 」
「なぁに良いんです! あんな酔っ払いの、クソの役にも立たねぇボンクラどもはね、待たせておけば!」
瞬く間にエールとミルクが用意されて、テーブルに並んだ。 なんだか申し訳ない気持ちになりながらも有り難く好意を受け入れ、相棒とグラスを合わせる。
「そりゃ驚くわな、こんな辺境の田舎町にお前が現れたらよ。 ……下を向いて歩くよりも、仮面でも被っていた方が良いんじゃないか?」
美味そうにミルクを煽り、口周りに白い髭を携えた相棒が僕に顔を寄せて囁いた。
「またミルクが白髭になってるぞ。 子供みたいだから、気をつけた方がいいよ」
僕は苦笑して、彼の白髭を指摘する。
「ちょっと子供っぽい一面を見せた方が女にモテるんだぜ? 母性本能ってやつをくすぐるらしい」
「僕は女じゃないからな。わからない」
「おまえもいい加減その『僕』っていうのやめた方がいいぞ。先日のスピーチもそうだったけどよぉ。 なんかガキくせぇし、締まらねぇだろ」
「いいんだよ、どうせ顔もガキ臭いんだから。それに……『僕』は意外と母性本能をくすぐるらしいぞ」
「ふぅん。 ……じゃあ僕ちゃんも使ってみるかねぇ」
くだらない会話をしていると、後方から敵意を感じた。 ただそれが、自分に向けられたものではない事も分かった。
「おいオヤジぃ! 俺たちのテーブルが先に注文したのに、なんでこいつらの酒が出てんだ? さっきから待ってんだよこっちはよぉ!」
体毛の濃い、熊のような風体の大男だった。顔が紅潮しているのは怒りからなのか、酔っているのか。 まぁ両方だろう。 大男がこちらに視線を向けてきたので慌てて下を向いた。 彼は僕の肩を掴み、顔を覗き込んでくる。
「なぁ〜に見てやがん……あれ? うぇええええ!? もしかして……レイラルド様……ですか……? ですよね!? 間違いない! 自分、王都にあなたのスピーチを聞きに行ったんです! 」
バレてしまった。 元はと言えば道中に相棒が「どうしてもミルクが飲みたい」と騒いだのが原因だ。エールが飲みたくて酒場に入ったのは僕の責任だけど。
大男は即座に床へ跪き、おでこをゴツゴツ鳴らしながら何度も頭を下げてくる。
こういう事をされると、途端に自分の立場や肩書きが忌々しく思えてきてしまう。
「すみませんでしたぁ!お見苦しいところを!無礼なマネを! 」
「あ、いや全然いいですから。 顔をあげてください。 こちらこそ先に頂いてしまってすみません」
「とんでもございません! おい、みんな!! レイラルド様だ! レイラルド様が来ているぞ! ……あの、忙しいところ大変恐縮ですが握手を……あとサインを頂けないでしょうか?」
ずっと騒がしかった店内が一瞬にして静まり返る。
「おい……ヒック、お前さんよぉ。レイ様に憧れ過ぎて幻覚でも見てるんじゃあないれすかぁ〜っウィ、王国最強の大魔導師様がこんな辺境の薄汚ぇ酒場に来るわけねぇだろっての! ガハハ」
今度は口髭を携えた細身の男が、エールを煽りながら近付いてくる。 下を向いている僕の顔を覗き込んでじいっと見つめると、「ブフゥウ!」とエールを噴き出した。
僕が上体を逸らして躱してしまったので、口内なら飛び出したエールの霧は全て相棒にかかってしまったようだ。
「……お前ら、馬鹿野郎! レイラルド様はお忍びで来てらっしゃるんだ、静かにしろ! とっとと金を置いて俺の店から出て行けこのチンピラ共が! ……それとサインは俺が先だ」
店主がダミ声の早口で捲したてた。
「あーあー……だから仮面被れって言ったんだよ。 まったくよぉ、お前と居ると落ち着いてミルクも飲めねぇや」
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友人を殺してしまったあの日から、15年の歳月が過ぎていた。
当時、目的の為に世界を旅して廻る中で、僕らは各地の迷宮を片っ端から攻略した。
……そうすることでしか、生きられなかったからだ。
パーティに所属せず、奇形の魔物を連れて各地を転々とする旅の魔導師。 そんな胡散臭い人間が目的の為に信用を得るには「魔物退治」が一番手っ取り早い。 単独で迷宮に潜る事がほとんどで、時にはその土地で腕の立つ者達と組むこともあった。
無我夢中で目的に向かいながらも、歳を重ねるにつれて、あの日背負った幼馴染の十字架は重くなるばかりだった。
どこか孤独で虚しさが募る旅の中で、戦いに身を投じている時間だけが、僕に生きている実感を与えてくれた。
迷宮に巣食う凶悪な魔物の首を獲り、持ち帰る。 住人を悩ませている厄介な魔物を殺す。 それで飯も食えたし、多くの人が僕達を受け入れてくれた。
何年もの間、強力な魔法と魔物の首が僕の身分証明書だった。
当時人とコミュニケーションを取るのが苦手だった僕にとって、人懐っこくてよく喋る相棒の存在は本当に大きかったと思う。 精神的にも一番近くで支えてくれた存在だ。
そんな戦いの日々を過ごしている間に、いつしか僕の名は国王の耳に届くまでになった。
『 “迷宮の覇者” モコ=レイラルド』として。
厳しい旅の10年を経て、近隣大国から厳選招集される「魔王討伐隊」の選抜メンバーとして、国王の推薦を受ける事になる。 その時の相棒の喜びようと言ったら、今思い出しても笑いがこみ上げてきて、幸せな気分になってしまう。
各国から厳選された精鋭達が集まり、過去最強とまで謳われた当時の魔王討伐隊は、二ヶ月に渡る死闘の末に魔王を討ち取った。
魔王軍の恐怖から解放された民衆は歓喜に打ち震え、世界には平和が訪れるかのように思われた。……しかし。
魔王討伐から1年も経たないうちに、魔王軍の支配下にあった領土と資源を巡って、僕らの故郷である「シェリオン王国」を含む三大国が戦争状態に突入したのだ。
魔王討伐成功の折に争いが起きぬよう結ばれていた協定など、最初からなかったかのように反故にされ、三大国の中でも弱小国家と呼ばれていたシェリオン王国は真っ先に標的となった。 それは、国家規模を鑑みれば当然の事だったのかもしれない。
僕は政治になんかこれっぽっちも興味がなかったので呑気なものだったけど、相棒は最初からその流れを予測していたみたいだ。
王宮の命により、すぐに王宮直属の騎士団へ入団する事になった。 それが、4年前の事。 その頃から戦う相手は魔物から人間に代わり、僕は騎士団の一員として戦争に参加した。
——その戦争が終結するまでの約3年半の間が、一番辛かった。僕は戦争の最前線に立つ身でありながら、人を殺せなかったのだ。
この国が奇襲を受け、戦争が激化する端緒となった“サウス・サンドウォール事変” や、"ストラス海峡の魔術海戦"のような戦中最大規模の戦闘でも、僕は敵を……人を殺せなかった。
魔王討伐隊で知れ渡ったモコ=レイラルドの名に各国は警戒していたらしく、 必然的に僕の前には強者が当てられた。
そんな敵を圧倒して追い込んでも、最後の一撃が放てなかった。
味方達が殺した敵の数を競うようにして戦う中、僕は陽動やサポート、敵主戦力の拘束に徹した。
戦場で自分がトドメを刺していれば救われた筈の命がある。 僕が情けをかけてしまった敵に、殺された味方がいる。 僕が人を殺せないばかりに、長引いてしまった局地戦はいくつもあった。
そんな葛藤など御構い無しに、王宮は僕を「終戦を5年早めた英雄」として世間に祭り上げるようになる。
被弾しているところを誰も見たことがない。あらゆる攻撃を受け流して味方を守る。魔法で相手の虚をつき、自軍のポテンシャルを最大まで引き出して勝利に導く。
人々は僕を「シェリオン王国の守護神」と称えた。
その大仰で舌を噛みそうな呼び名が嫌いだった。 自分が敵を躊躇なく殺せれば、もっと被害を抑えられた事を自覚しているからだ。
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「出よう、相棒」
「サインくらいしてやれよ、英雄様」
僕たちは酒場を後にする。
エールを飲んでいる時間より、握手やサインをしている時間の方が長くなってしまった。
外套を纏い、フードを目深に被って街に出る。 暫く歩くと両サイドに露店が並ぶ市に差し掛かった。 この街は昔よりもずっと賑やかだ。行き交う人々の目には爛々と生気が満ち溢れ、聞こえてくる声には勢いと活力が感じられる。
「……この辺りがモコの故郷か。 その事実が知られてたら、もっと栄えるだろうな」
「いや、充分栄えたよ。 昔はもっと閑散としていて……汚い町だった」
「出自が国家レベルのトップシークレットってのも、少し寂しいものがあるな」
「両親どころか三親等まで王都に移されてるし、故郷自体にそれほど思い入れはないよ」
前方から、周囲でも一際貧しい格好をした女性が歩いてきた。杖をつき、左脚を引きずるようにしてトボトボと歩いている。
彼女が僕の脇を通り過ぎた時、「きゃっ!」という声を上げたので振り返ると、地面にうつ伏せになって倒れていた。 何かに躓いたのだろう。 僕は踵を返して歩み寄り、手を差し伸べる。
「大丈夫ですか? 手を」
「す、すみませぇん……足が悪いもので……ご迷惑を」
その女性の顔を見た瞬間、思わず息を呑んだ。僕が組んだ最初で最後のパーティメンバー、女僧侶のカンナだったのだ。
……それにしてもひどい風貌だ、髪は脂ぎっているし、洋服も、雑巾を継ぎ接ぎしたようにしか見えない。 職業は物乞いだと主張されても疑いなく受け入れられる程だ。
「足は……どうされたのですか」
「あぁ、若い時に……迷宮で魔物にやられちゃってぇ。 毒だったみたい」
「治癒魔法師には?」
「う〜ん、見せたけど、治せなかったの。5〜6人に依頼したんだけど……全滅。 王都にでも出て腕の良い治癒魔法師を探せばいいんだろうけどぉ、恥ずかしながら……費用がね」
「君の足を食い千切ろうとしたのは、グルジーラだね? 負傷した後、魔力を思うようにコントロールできないのでは?」
「え……どうしてそれを……?」
「なるほど。もう大丈夫です、歩いてごらん」
「え?」
会話の途中で左脚に診断を掛け、ズタズタになっていた筋繊維と、歪に折れ曲がった骨を修復していた。 ただ、原因はそれだけじゃない。
彼女の脚には寄生虫が侵入っていたのだ。
「グルジーラ」という四足歩行の魔物を媒体とする寄生虫で、人間の傷口から体内に侵入すると、魔力操作に関わる神経回路に損傷を与えてしまう。 更に治癒魔法による外傷の治療を阻害してしまうのが厄介な所だ。
この症状は長いあいだ原因不明の奇病として扱われてきた。 治療法は最近王都で確立したばかりだ。 この辺りにいる並の治癒魔法師では治療出来なかったのは、その為だろう。
「あれ、ウソ……痛くない。 張りも無くなった……ちゃんと動く! 足が動く!」
「よかった。 足の感覚が戻るまで、しばらくは激しく動かない方がいいよ。 転んでしまうから」
僕はすぐに立ち去ろうとした。
「お、お待ち下さい! 何かお礼を……といっても何もないや……あの、このご恩はいつか必ず……せめて名前を!」
外套を掴まれ、唐突に吹いた風によってフードがめくれ上がってしまった。 僕は慌ててそれを被り直す。
「あ!? もしかして……!」
僕らは人ゴミの中を縫うように駆け出す。
背後から「モコぉ! ……モコ待ってぇ!」という声を掛けられたが、僕は相棒の背中を押して、振り返らずに走り去る。
カンナを巻いたようだったのでスピード落とし、途中で花と果物、それからナッツとワインを購入した。
「なぁモコぉ、転移魔法使おうぜ。 なーんでいちいち歩いていくんだよ。 せっかく無理言って休み貰ったんだから、時間を有効に使おうぜぇ?」
「良いんだ。 いつもこうしてたから。 戦争中は忙しくて、どうしてもおざなりになってしまったから尚更だね。 それに、オフの日は魔法を使わないのがポリシーだ」
「さっき使ってたじゃねぇか。 ったく、魔力の安売りしやがってよぉ」
そうこうしているうちに、目的の迷宮に辿り着いた。 入り口から「オオオォオ」という低い音が聞こえてくる。 それと同時に、生温い風が吹き上がってきた。
「懐かしい匂いだ。 心地いいぜ」
相棒が目を細めて、そう呟く。
僕たちはゆっくりと一歩ずつ、迷宮の内部に潜っていった。
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迷宮の最深部で用を済ませて、僕たちは来た道を戻っていった。 今晩は街外れに行きつけの宿を取っている。 「王宮から連絡が入っている筈だから、きっとご馳走が用意されているぞ」と相棒は胸を躍らせているようだ。
「それにしても……あれから何度潜っても、奇形のゴブリンは居ないもんだな」
僕が冗談めかしてそう言うと、相棒はケタケタと笑いながら「ありゃ、千年に一度の突然変異種だからな」と肩を竦めた。
期待をしていた訳ではなかったが、そのこじんまりとした宿には、本当にご馳走が用意されていた。 この辺りでは手に入らないような高価な食材も散見される。
「レイラルド様、大変ご無沙汰しております。 ジルギース様、お初にお目にかかりまして、大変光栄に存じます。 本日は本当にお疲れ様でした。 ええ、もちろんこの宿にお泊りになられる事は口外しておりません」
「おじさん、そんなに固くならずに……こんなご馳走を用意して頂いて、恐縮です」
一通りの挨拶を交わした後、僕たちは食事にありついた。 今日は酒場でエールを舐めただけだったので、驚異的なスピードで皿が空にっていく。 相棒が宿屋の主人と奥様を席につかせて、他愛のない会話を交わす。食卓は酒場さながらの雰囲気に変わっていた。
「ジルギース様が、こんなに気さくな方だとは思いませんでした」
主人が顔を赤らめながら、陽気な声をあげた。 彼は先程から、相棒に注がれたワインを飲んでいる。 1〜2口飲むたびに注ぐので、グラスが乾く暇がないのだ。
……昔からこのおじさんが大好きだ。
僕の知名度が上がる前から腰が低くて、とてもよくしてくれた。 この宿を3回目に利用した時、僕のことを「レイ君」と呼んでくれたのがとても新鮮で嬉しくて、「供養」の折には絶対にこの宿を利用しよう、おじさんに会いに来よう、と心に決めたのを今でも覚えている。
だから、今は「レイラルド様」になってしまったのが、少しさみしくもある。
「なぁオヤジ。 俺ぁよ、人と喋るのが何よりも好きなんだ。女を抱くより、高価な料理を食べるより……おう、これがよっぽど面白れぇ」
「ほう、そういうものですか。 でも、こんな辺境の宿屋のオヤジと話しても面白くはないでしょう」
「そんな事はねぇさ。 王都には辺境の宿屋のオヤジはいねぇからな、新鮮でおもしれぇよ。 おっと、これは皮肉じゃないぜ?」
「おい、その小生意気な台詞回しどうにかしろよな」
「いえいえ!とんでもない!……ええ、こんなに楽しい夜はないです……レイラルド様、グラスが空になりますね。 何かお飲みになられますか? 」
「あぁ……えっと……ではワインを頂いても?」
「もちろんでございます。 最高のものを用意させましょう」
主人が席を立ち、調理室の方へ歩いていく。 扉を僅かに開けて顔だけを中に入れた。
「おい、サーン! 地下からワインを持ってきて貰えるか! 一番奥にある、銀のラベルが貼ってあるものを頼む! 」
自分の心音が聞こえてくるほど、周囲の音が遠くなる。
「おじさん、今、サーンと?」
「ええ。 ウチの給仕です。 3年前……でしたかね? うん。そうだ、ちょうどレイラルド様が騎士団長にご就任なされて……最後に立ち寄って下さった年です。 突然現れてね、なんでもやるから使ってくれと」
戦争が激化した年。 その年を最後に、僕はこの宿に立ち寄らなくなった。 自分の時間が全く取れなくなったからだ。 迷宮の最深部に直接転移して、ワインとナッツを供えたらすぐに王都へ戻る、という供養が三年間続いた。
「ウチも人を雇う余裕はなかったのですが……当時は実に見窄らしい姿でね。 なんでも、若い頃は冒険者だったそうですよ。 今日もお偉い方がいらっしゃるからと伝えたら、突然おめかししちゃって……よく働く良い娘です」
調理室のドアが開く。
メイド服の女性がワインを片手に持って、慎ましやかな動作で僕の隣に歩み寄った。
「モコ様、フータ様、大変御無沙汰しております。 ずっと、ずっと……お待ちしておりました」
サーンは涙ぐんだ瞳を隠すように、深々と頭を下げた。