第九話 市場
「あ~さっぱりした。」
風呂からあがった俺は次の工程について考えていた。
金色の糸を手に入れることは出来たが、こんなにネバネバしていたらとても糸としては使えないだろう。
糸の作り方なんて学んだ事が無いのでどうするのが正解かなんて分からない。
分からないのでやむなく糸を風呂へ・・・ではなく鍋に入れて煮る事にした。お風呂が使えなくなるのはやはり元日本人としては耐え難いしね。
色落ちが心配だが、他にネバネバを落とす方法が思いつかないので仕方ない。
早速煮ようかと思ったが、そのような大鍋は生憎我が家にはなかった。1人暮らしだから仕方ないだろう?
という訳で買いに行こうと思ったのだが、この村にそんな物を売っている店などあるはずがない。
やや離れた街へとワープして、市場へと向かう。狙うは中古の大鍋だ。新品は勿体無いし高そうだしね。
雑多な市場はまるでフリーマーケットの会場のようだ。
しかし考えてみると、こうして市場に来たのは初めてかもしれない。魔王討伐に夢中の頃は市場に何て用事はなかったし、討伐後はそんな余裕無かったからな。
思わず色々な店を冷やかして回りたくなる。いや、イカンイカン。
俺は目的の大鍋を入手すべく金物を扱っている店を探して回った。
家具屋や食品店、それに怪しげな道具屋に金物屋。
結局色々見て回ってしまったが、目的の金物屋を発見した。
いくつか鍋はあったが、目的のサイズの物はなかった。俺が欲しいのはタライ位の大きさある鍋なのだ。
ってそうか良く考えたら鍋じゃなくてタライで良いな。
タライが並んでる売り場で一番大きなタライを選んで店主に会計を頼む。
「このタライが欲しいのですが。」
「そいつは銀貨3枚だ。」
なぬ。3万円だと。いくら大きいとはいえ所詮はタライだぞ。確実にぼったくってきてるな。
困ったぞ。俺は人生で一度も値引き交渉等したことがない。だが流石にタライに銀貨3枚は出せない以上どうにかして値下げして貰わねばならない。
「それは高過ぎじゃないですか?銀貨1枚で売って下さい。」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。この大きさのタライをそんな値段で売れるかよ。値下げしてやっても銀貨2枚と銅貨5枚だ。」
タライの相場は分からないがいきなり銅貨5枚も安くなったぞ。まだ下げれるはずだ。
「でもこのタライ結構使い込まれてるじゃないですか。銀貨1枚と銅貨5枚で売って下さいよ。」
「ん~しかしだなぁ・・・。分かったよ銀貨2枚と銅貨2枚にしてやるよ。」
もう一押しいけそうだな。
「分かりました。キリ良く銀貨2枚でどうでしょうか?」
「全くお客さんにはかなわねぇな。分かったよ。銀貨2枚で売ってやる。」
俺は銀貨2枚を支払い、タライを受け取り店を後にした。
後日知ったのだがこの程度のタライなら銀貨1枚まで値切れるそうだ・・・・
家に帰った俺は早速タライにお湯を貯めてゴールデンキャタピラーの糸を煮込み始めた。
パスタを茹でるようにグルグルかき回しながらじっくりネバネバを落としていく。
お湯がベタベタになったので一度お湯を捨てて糸を確かめてみたが、まだネバネバしているのでもう一度同じ事をしていく。
心配していた色落ちはしないものの、ネバネバも中々落ちない。結局5回ほどタライのお湯を入れ替えただろうか。ようやくネバネバが無くなり金色の糸を手に入れることが出来た。