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ドラマ  作者: 織音りお
第4幕『Gleaming Friends』
21/53

第4幕 //第2話

 今日は散々な一日だったな、と憂鬱な気分に苛まれながら、俺は駅前の商店街を歩いていた。

 昼下がり、遅めのご飯を食べた後リビングでぼんやりしていたら、母さんに「暇しているならちょっと買い物に行ってきて」と使いに出されたのだ。


 あんな夢のせいで中途半端な時間に起き、寝不足で痛む頭を抱える俺に、日差しは容赦なく降り注ぐ。夏休みも終盤とはいえ、季節はまだまだ夏だ。高く登った太陽とアスファルトからの照り返しで、家に着く前に干からびるんじゃないだろうか。



 三時を過ぎるあたりから、商店街は夕飯の支度をする人々で混み始める。人の多い商店街は苦手だ。買うのにいつもより時間がかかるし、その分人の中に埋もれる時間が増える。大型スーパーみたいに冷房が効いてるわけでもないから、めちゃくちゃ暑い。暑苦しい。

 しかも問題は暑いだけじゃない。この街、前原南はこぢんまりとした街だから、商店街には俺の顔を知っている人も勿論居るわけで。母さんと仲の良い肉屋の夫婦はともかく、同じ高校の奴らやその親とか、とにかく俺の噂を知っている人には極力会いたくない。


 ––––––それを会っちまうあたり今日はツイてないんだよな……。


 使いで頼まれた鯵を買いに魚屋へ向かっていたら、高校の同級生––––しかも俺の事を良く思っていない連中の母親集団とすれ違ってしまった。この街では俺の家族はまだまだ新参者だから、良くない噂はすぐに広まるらしい。じろじろと無遠慮な、非友好的な視線がそれを物語っている。


 まあ、同中から来たやつと仲が良い連中の家では、俺は多分危険因子扱いだろう。我が子を心配する親からすれば、俺に目をつけて良く思わないのは当たり前だ。真実がどうであれ、向こうにとって大切なのは、あらかじめ体面が悪くなるような因子を排除することだから、な。


 俺だって、噂とそれを鵜呑みにするやつなんてどうでもいいとは思っているが、こう目の当たりにするとちょっと辛いものはある。

 一人でいいと決めつけて頑なに人を避けていた時はまだ良かった。けれど、友達という存在ができた今は少しだけ痛い。


 俺はため息を吐くと、両手に持った買い物袋を握りしめ坂を上った。




 ***




 商店街を抜け、赤屋根の家を通り過ぎた次の角を曲がる。ここまでくれば商店街の賑わいが遠のき、人通りも少なくなってくる。大人は買い物か夕飯の準備だろうし、この時間だと子どもたちは残り少ない夏休みを満喫しに遠くに遊びに出ていることが多い。



「おーらい!右右!」

「っしゃナイスパス!」


 ふいに楽し気な声が聞こえて、俺は声のする方に目をやった。


「けんとーっ!そのまま決めちゃえ!」

「させるかーっ」


 視線の先には、街で二番目くらいに大きい児童公園がある。そこでは数人の子どもたちが、ボールを蹴って遊んでいた。いがぐり頭に、あっちの子はキャップを被っている。半袖短パン、真っ黒に日焼けしていかにも元気いっぱいの小学生という感じだ。

 

 ––––––楽しそうだな。


 まだまだ夏は終わらない。日差しも残暑も厳しいというのに、彼らはそれを気に留めもせず全力でボールを追いかけている。汗をびっしょりかきながら、彼らに見えているものは唯一つのボールだ。


 ––––––俺にも、あんな頃はあった。


 公園を通り過ぎつつ、夕焼けに染まる空を見上げる。

 あの楽しさがたった一日にして奪われるなんて、あの頃の俺には知る余地もなかったが。



「かけるっ、パスパス!」

「おいっ!」

「おーらいっ……ってあああ!!」

 急に子供たちの楽し気な声が悲鳴のようなものに変わった。一体何事だ、と振り返って、硬直。––––避ける暇がないのは分かった。


 俺は軽く屈伸するように膝を曲げ、わずかに前方へと跳躍しながら頭頂部を()()()()()ボールに向ける。


「えっ!?」


 子どもたちの悲鳴が歓声の色と混じる瞬間、俺の頭はボールの球速を完全に殺し、


「よ、っと」


 軽く弾いたボールは、俺の胸元へすとんと落ちた。

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