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ドラマ  作者: 織音りお
第4幕『Gleaming Friends』
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第4幕 //第1話

 “おいテメェ、今何つった!?”


 薄暗く狭い部室の中。先輩は、声を荒げながら俺を睨んだ。

 “おぉい紫村テメェ、今のもっかい言ってみろ?”

 “……いや、ですから、一年生にそういうことをするのは止めた方がいいと思います”

努めて静かに、けれどハッキリと俺は言う。もう我慢がならなかった。入部したばかりの後輩たちが目の前のこの男に虐げられるのを、黙って見ていることはできなかった。


 “はァ?俺が何したってェ?”

 “ですから、先輩たちがしているのは必要以上のシゴキだと……”

 “うっせぇんだよッ!!”



 ゴン、と重い一撃が俺の頬を捉える。––––遅れて鈍い痛みがやってきて、目の前がぐらりと傾いた。



 “ッ、ああああ!!”

 部室の床に倒れ込んで、俺は殴られた頬を押さえた。骨の髄まで熱い痛みが広がっていく。切れた口の中に、じわりと血が滲んだ。


 “おい、世良、さすがにまずくねーか”

 “ッせーなてめェもこうなりてーのか!ア"ァ!?”

 “……っ”

 世良と呼ばれた三年の首領(ドン)が凄むと、部室の誰もがビビッて体を竦ませたのが分かった。


 “紫村ァ、もうダウンかよ?”

 世良が俺の髪を引っ掴んで、顔を覗き込んでくる。

 “世良……さん、”

 “あぁ?まだ何か言いてぇことあんのか?”


 ほとんど眉のない薄い顔が、醜く歪んだ。世良の取り巻きも俺を囲うように立つ。


 “ア"?おい紫村テメェ、言ってみろよ”

 土埃まみれの冷えた床に、腫れた頬が押し付けられる。

 “ッ……!!”

 “早く言えっつってんだろぉォ!!”

 堪りかねた世良が声を荒げた。その声に応えるように、取り巻きの一人であった堺が俺の横腹に蹴りを入れる。

 “ア"ッ……!”

 その痛みに思わず腹を折った。苦しさと痛みの中で、俺は必死に声を出す。

 “ゲホッ……ゴホッ、せ……らさ……ん、もう……や、め”

 “っせェテメェは見せしめだァ!俺のヤリ方に文句あるやつは全員ぶっつぶさなきゃだからなぁァア!”


 世良が狂ったように叫んだ。


 “二度と逆らえないようにしてやるよぉオ!”



 目がイっている。そんな目で狂ったように笑って、世良は遠巻きに見ている俺の同級生にまで目を付けた。ニヤリ、背筋が凍るような笑みが溢れる。


 “おい!てめェらも手伝え!”

 俺の同級生、そしてさっきまで世良の言いなりになってコキ使われていた一年生が、ビクンと竦んだように固まった。


 “はやくしろよォ!じゃねーとてめェらもこうだぜ”

 ゴンっと再び、頬に重たい一撃がくる。

 “ウ"ッ……ッ”

 取り巻きの三年が愉し気に笑った。



 ––––––コイツら、完全に狂ってやがるっ!



 “来いッつってんだよ!!”

 二度目の怒声とも喚き声ともつかぬ脅迫に、同級生たちは弾かれたようにこちらに向かってきた。ぼやけた視界に、彼らの怯えた顔が並ぶ。


 ––––––おまえら、まさか。


 “ははッ!紫村、残念だったなァ!!”

 勝ち誇ったその笑い声に、俺の中で感情の糸がプチンと切れる音がした。




 ***




「夢、か……」


 俺は体を起こすと、ふう、と息を吐く。あんな夢を見たからか、汗がひどい。寝間着のTシャツがべったりと背中に張り付いて気持ちが悪かった。

 俺は薄い掛布団をめくってベッドを下りた。


 ––––––またあの夢だ。


 忘れた頃にやって来ては強引に記憶を掘り起こし、俺の心を抉る夢だ。今では夢と言えるが、忘れもしないそれは三年前現実に起こったことで。俺が他人と関わることをやめ、一人で生きようと決意する引き金となった事実だった。



 冷蔵庫からミネラルウオーターを取り、ぐいと口に含む。乾ききった口内と喉に、冷たい水がゆっくりと染み渡った。ペットボトルに残る水位が下がるとともに、俺の身体の火照りも静まっていった。


 “紫村、ごめん……でも、仕方ないんだ”


 忘れたい。でも忘れられるわけがない。俺が他人に手を差し伸べようとして結果裏切られたことを。他人に関わるといい目を見ない現実を目の当たりにしてしまったことを。そしてあんなに大好きだったサッカーに悔恨を残してしまったことを。



 世良は、同じ中学サッカー部の一つ上の先輩だった。俺の代が入部した頃から世良とその取り巻きの素行は悪かったが、まだ世良たちの上の代がいたから俺たちに大きな被害はなかった。

 だが、一番上の代が卒業し新入部員が入ってくると、世良たちの悪行は目に余るようになった。新入生や俺の代の大人しい部員に対し、日々繰り返される暴言・度を超えたしごきの数々。被害にあったやつらの痛々しい姿に気付いていながら、誰も、顧問でさえも世良たちを止めることが出来なかった。

 

 幸い、俺は直接絡まれたことがなかった。めちゃくちゃサッカーが上手いわけではなかったからやっかまれはしないし、ビクビクしていなかったからかパシられもしなかった。


 でも。毎日怯えながら部活にくる後輩や同期の姿を見ていることに、我慢ができなくなった。何より、楽しくサッカーがしたかったのにそれが出来ない状態が嫌だった。

 きっと他の部員もそう思っている。世良たちが怖いから表立って言えないだけで、俺が矢面に立てばみんな味方くらいはしてくれるんじゃないか。そうすればきっとまた、楽しいサッカーができるようになる。だから、俺は……––––



 行動した結果は、夢の通りだ。

 助けるつもりが、裏切られた。

 ああなるなら初めからさっさと部活なんて辞めて、学外のクラブにでも入れば良かったんだ。



 希と出会えたおかげで、他人を避ける季節は過ぎ去った。大樹のおかげで、今俺の周りには友達と呼べる存在ができはした。けれど。


「進んでるように見えて、現実(ホント)の俺は何も変わっちゃいねーのかな」


 身体が小刻みに震えて、俺はぎゅっと拳を握りしめる。汗で湿ったその両拳は空気を掴むだけで、そこにはあたたかい掌なんて有りはしなかった。

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