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ドラマ  作者: 織音りお
第2幕『Rainy season, I met...』
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第2幕 //第4話

 さて、ここからどうするかな。

 窓際一番後ろの机に座って、俺は教室の様子を窺う。どうやら、彼女はまだ来ていない。


 いつ渡すのが正解なんだろうな、と考えながら頬杖をつく。やっぱ朝イチがいいのか。それとも、昼休みとか。何にしろ、人目が多い時は避けるべきなんだろう。



 教室では、登校してきたクラスメイトたちが会話を弾ませていた。大抵は昨日のテレビの話題だの、今日の放課後遊びにいく予定だの、好きな芸能人の話だの、そんなもんだ。

 前の席のやつが登校してくるや否や机に鞄を放り投げると、トモダチの輪に加わりに行った。俺の方には見向きもしない。俺ももちろん、何も言わないのだが。



 ––––––俺だけが、世界(ここ)にいないみたいだ。



 他人と関わらない。もう面倒ごとには首を突っ込まない。

 自分でも望んだその結果なのに、少しだけ胸が軋んだ。




 そして結局、朝イチで希にタオルを返すことは出来なかった。

 でも、それは俺の所為ではなく、彼女が始業開始ギリギリに教室に滑り込んできたのが原因だけれども。


 とりあえず、俺はさっさと昼飯をすませ、一人自分の席で考えていた。何とか昼休み中に返したいところだが、昼休みは一番人目につきそうな時間でもある。

 希はというと、クラスの女子数人とまだ昼飯を食べている。今までは特に注視もしなかったから知らなかった。彼女はどうやらトモダチが多いらしい。



 ––––––まずいな、全くもってタオルを返す隙がない。



 外は相変わらず雨が降っている。どんよりとした灰色の曇は、切れ目なく空全体を覆っていた。

 窓から見える校庭は、連日連夜の雨でもはや一面の水たまりだ。どこの学校も校庭はこんなもんなんだろうが、俺としてはもうちょっと水はけがいい作りにしてほしい。


 中学の頃、この時期の部活がひたすら屋内練習ばかりで憂鬱だったのは今でも覚えている。毎日毎日、筋トレ、掃除、筋トレ、掃除の繰り返し。筋トレが特別嫌いとかではないが(特に好きというわけでもない)、あの頃はとにかくボールが蹴りたかった。だだっ広い校庭で、砂埃にまみれながらもひたすらにボールを追いかけるのが、不思議と楽しかったから。



 ––––––それも、今は関係ねーけどな。



 とりあえず、机の上でタオルを広げては畳む作業を繰り返す。


 乾燥機付き洗濯機のおかげでふわふわになったタオルには、青色で“吉田写真館”の五文字。最初は単なるもらいもののタオルかと思った(ほら、何か業者さんから配られたりするやつだよ。修理とか引っ越しとかするとさ、電気屋さんとかに貰えるやつ)。

 でも、希の苗字が吉田だったことを思い出して合点がいった。家が写真館というのは中々に珍しい。そもそもこの街に写真館とかあったんだな。



 その時、ふいに背後から声がした。



「紫村くん、風邪はひいてない?」

 

 ––––––えっ、。


 ばっと振り向くと、そこには希が立っている。い、いつの間にここまで来たんだ……。



「ん?どうかした?」

 黙ったままの俺に希は不思議そうな顔をして、小首を傾げた。黒い瞳は丸くくりくりとしている。初めて希の顔をまじまじと見たが、大きい目してんのな……とついつい余計な感想が頭を過ぎった。


「紫村くん?」

「あ、いや、何でもねぇ」


 ––––––これ、とりあえずチャンスだろ。


 俺は、丁寧に畳み直したタオルを差し出した。

「これ、さんきゅ」

 希は俺の持ったタオルを見て、ああ、と合点した表情になった。ありがとう、と笑ってそれを受け取る。

「よかった、役に立って」

「いや、そんなの……」


 役に立ってよかった、なんてセリフを、しばらく俺は聞いたことがあっただろうか。


「あれ?これ、めっちゃふわふわになってる!しかもいい匂い!紫村くんすごい!!」

 希は、丸い瞳を更に丸くして歓声をあげた。

「あー、一応、乾燥機かけたから」

「そーなんだ!嬉しい、ありがとう!」

「お、おう……」

 頰にタオルをすりすりとよせ、希は幸せそうな顔をしている。


 女子って、こんなことですげぇ感動するんだな。いや、乾燥機付き洗濯機には俺もちょっと感動したけどさ。ふわふわって、確かにすげぇ気持ちいいけど。

 その顔は、ちょっと、反則な気がする。



「の……吉田さん、はさ」

 言いかけて、はっと、視線を感じた。

 教室を見渡すと、クラスの女子数人が、遠巻きに俺らを見つめている。

 

 ––––––これは、ちょっとヤベーかな。


「どうしたの?」

 希はタオルを頰に当てたまま、また不思議そうに小首を傾げた。



 ––––––何も知らないのか、天然なのか。



 俺のウワサがどこまでどう広がっているかは知らない。でも、流石に知らないなんてことはないだろ。ちょっと聞いたことはあるはずだ。天然……は、十二分にあり得るが、とりあえず、この状況は希にとって良くない。


「いや、何でもねぇ。俺、ちょっと用あるから」

 そう言って、俺は席を立った。そのまま希の顔を見ずに教室を出る。

「あ、うん。タオル、ありがとね!」

 少し後ろで、希の声が聞こえた。


 ––––––これ、やっぱ、マズいよな。


 また変なウワサが広まらなきゃいいけどな、と俺は溜息を吐く。

 俺はもうどーだっていいけど、希にとってはマズいだろう。トモダチも多いみたいだし、これから先の二年間を考えると、俺と関わる利点はない。



 廊下を歩くと、すれ違うやつは誰も俺と目を合わせようとはしない。でも、すれ違うやつはみんな少しだけ体を反らす。俺とぶつかるのが怖い、何されるか分からない、こいつとは関わりたくない。きっと、ただそれだけの理由だ。

 彼らの世界に、俺は必要ない。俺も、彼らは必要じゃない。



 ––––––希とも、もうこれっきり、関わるのはやめねーとな。



 俺はそう決めると、足早に廊下を歩いた。

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