第六話 おばあちゃんとの約束①
「我らは正義のヒーローだ
私がここにいる限り
悪は決して栄えない
困った時は私を呼べ
どこへも飛んでいこう
山の向こうも海の向こうも
この星の彼方までも
私はあなたを助けに行こう」
「どうしたんだい、イスカ?えらく上機嫌じゃないか」
祖母と買い物に行った帰り道、歌を歌っていたイスカに手を握った祖母が可笑しそうに尋ねる。
「この歌ね、この間町に来ていた劇団が唄っていた歌なの。ミーナちゃんとフェリシアちゃんとテッドくんとライナスくんと一緒に見に行ったんだよ」
「ああ、先週出かけていたね。楽しかったかい?」
イスカは頷いた。
「正義のヒーロー、ダリスがね、悪の組織を相手に戦うお話なの。一番好きなのは、助け出したお姫様に向かってこう言うシーン」
イスカは石畳の上で役者になりきってくるっとスカートを翻し、ヒーロー役の役者の声真似をした。
『美しき姫よ。私はどんな事があってもあなたを守りましょう。例えあなたがどこにいても、あなたが呼べば、私は必ず参ります』
「……お姫様は何て答えたんだい?」
「えっとね……『私はあなたを信じましょう。例えあなたが何者でも、私はあなたにどこまでもついていきます』……だったかな?」
祖母は柔らかく笑った。はしゃぎながら劇の内容を語るイスカを優しく見守っている。
「いいなー、私もお姫様になりたいなー」
「どうしてだい?」
「だってダリスみたいなかっこよくて素敵な人が守ってくれるんだよ」
年頃の女の子によくあるお姫様願望というやつだ。イスカもひそかに期待している、将来イスカを守ってくれるかっこよくて素敵な男の人が現れるのだと。ちなみにイスカの中にはその『かっこよくて素敵な人』であって欲しいなと思う子が一人いるのだが、さすがにそれは恥ずかしくて口には出さなかった。
すると祖母は立ち止まり、すっとイスカの前に屈みこんだ。同じ目線の高さにやってきた祖母の顔を見てイスカはきょとんとする。
「あんたはお姫様にならなくったって、ちゃんとあんたを守ってくれる人ができるわ」
「ホントに!?」
「本当だとも。イスカが大きくなって、一人でなんでもできるようになったら、きっとあんたの前に現れる」
確信を持って告げる祖母に対してイスカは眉を寄せた。
「それって、今まだ現れないって事?」
それは当時のイスカにとって少し不服だったのだが、祖母は満面の笑みで続けた。
「そうさ。だが大丈夫だよ、イスカ。ちゃんとあんたの前に現れる。あんたが自分の心の中にある真実だけを信じていれば、……きっとね」
祖母はその温かな手でイスカの頭を撫でた。祖母の言う事はよくわからなかったが、いつも正しかった。だからきっと本当なのだろう。
「わかった。私いい子にして待ってる」
「ああ、待ってておやり。……きっとあいつは―――」
祖母の言葉は最後まで聴こえなかった。けれどイスカは気にせず家路を歩く。
遠い日のイスカと祖母の思い出だ。




