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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

伝承シリーズ

サクラノ伝承

作者: 鈴生彩架

ホラー書いてみました。

学校に伝わる伝承、ということで書き直しました。

その他修正:段落分け

 月夜が映える校庭の隅で佇む美しきサクラ。

 そんなサクラに伝わる伝承。

 誰かが囁く。

 ーサクラの木下には、死体が眠ってる

 

 

 暗い森の片隅に、夜に煌めく薄紅の美しい花をつけそのサクラの木は世の風に吹かれている。

 サクラの木は時折その薄紅の花弁を我が手から離し、それはひらりひらりと踊るかのように舞い落ちる。

 今宵は15日目。満月が世を明るく照らしていた。

 黄色の光が舞う花びらを照らし、花びらはその光を反射させて薄紅にほんのり黄色をのせ、ひらりひらりと地に落ちる。

 今日という日がいつもと同じであったならば、嗚呼美しきことかなと心も満たす、金色の月。しかしそれが、いつまでも満ちていることは叶わなかった。

 闇は光を喰らう。正しくその通り。

 欠け始めた満月はいつかその身を紅く照らし、今世という時代自体を真っ赤に染め上げ始める。

 その、薄紅の花びらもー

 

 

 ーさあ、悲劇の始まりだよ…

 

 

 ザッ、ザッ…という音と共に小さな生き物の影は森を移動した。

 森の奥に迷い込んだ影ーショウジョは欠けた月を見上げ、それを不気味に思う。

 

 ー来るんじゃなかった。

 

 本当ならば、今日は金色の丸い月がこの森を明るく照らすはずなのに。

 その、自分を今にも喰らいにかかりそうな月に怯え、綺麗な顔を醜く歪めた。

 

 ーこわい、寒いよ…

 

 森の奥にはカノジョの家がある。

 そこで今日は満月と共にカノジョの誕生日を祝うはずなのに。

 今日は恐ろしい月が、闇に喰われた月が出ているではないか。

 満月の世に照らされれば咲くという、神の慈悲を表わすサクラ。

 この森の端に存在すると伝えられる御神木。

 その花を摘み、言霊を唱えれば一つだけ願いが叶うと言う。

 

 ー家族とずっと平和に暮らせますように。

 

 例え伝承でも、そう言って…一時でも良い。楽しい時間を過ごしたかった。

 その為に来たのに…何故?何故こんなに怖い夜なの?

 欠けゆく月に照らされた悍ましい時へと変わりゆく世に、恐怖の念は肥大してゆく。

 

 

 ーどこ?どこ?お母さん…‼︎家に帰りたいよぉ…‼︎

 

 誰も居ない、暗い森の恐ろしい夜。

 カノジョの心は次第に焦りを覚え、家に帰りたいと我を忘れて灯りを探した。

 来た道を戻れば、などという思考は恐怖によって塗り潰され、冷静な判断はできなかった。

 一つ、暗い視界で唯一明るく輝く、ほんのり黄色をのせた薄紅の光。

 カノジョを導くかのように明るく照らす大きな光。

 それは月に照らされて煌めくサクラの木。それが何故か灯りに見えて…

 そのサクラの温かい光に誘われ、カノジョは一歩、また一歩と歩みだした。

 

 

 ー神の怒る紅き夜の月の怒りは世に満ちて…

 ーさあショウジョよ…今宵はキミがこのハナシのシュジンコウだ…

 

 

 戯言は儚く恐ろしい今夜に響く。しかしその悪魔の囁きがカノジョの耳に届くことは無い。

 無我夢中でサクラへ歩む。

 只々、紅い花に導かれ…その一抹の光に縋るかのように。

 カノジョはその真っ赤な木に虚ろな目で歩み行く。

 不思議なことに、その目に感情は宿っていない。何か、廃人という言葉を感じさせる。

 カノジョが思うは唯一つ。

 掛け替えのない弟に、兄に、姉に、父に、母に…‼︎

 早く、早く会いたい‼︎‼︎

 焦りと恐怖は次第に歩調は早くし、ゆっくり歩く音を駆ける音へと変えてゆく。

 一筋の涙が月に照らされ輝いた。儚い水晶は地に落ちて砕け散る。

 ひとつ、ふたつ、みっつ…

 月から逃げるようにカノジョは駆ける。

 暗闇の中、月はそれを面白そうに眺めていた。そしてその口を酷く歪み微笑む。

 

 

 ーさあ、モノガタリのヤマバを始めよう…

 

 

 紗鑾しゃらん、と美しい鈴の音がした。

 その音と共に、雲の隙間より現れるは…一片の欠けも無い、紅く紅く燃え盛る月。

 サクラは紅い光に照らされて、己の身を燃やしてゆく。

 全てが紅く染まった時、血を欲するサクラノ木は紗鑾、と美しい鈴の音を上げ、悲劇の始まりを告げた。

 まだ未熟なその果実ーカノジョを貪り喰わんとその脚に細い枝を巻きつける。

 カノジョがその異変に気付いた時にはもう遅い。

 カノジョは必死に逃げようとするが、次々と木の枝はカノジョを追い、その身体を逃さんと拘束していく。

 次第に自由の利かなくなる身体に、四肢に、焦りを覚え、カノジョは腹の底より叫び乞う。

 

 

 ー嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だッ⁉︎死にたくないよ!まだっ…まだっ…

 

 

 森に響く一つの嘆き。

 それはカノジョの悲劇名詞。

 叫ぶ声はコダマすれど、そこに居るのは少女とサクラと…その出来事を喜劇名詞と言う、歪んだ紅い月。

 紅い月はその全てを天より見守る。

 それは血を貪る吸血の夜。

 一段と紅く輝くその月に、夜の世界は真っ赤に染まりー

 神の怒りは頂点に達し、紅い月は叫ぶかのように爛々と輝き世を照らす。それに呼応するかのように薄紅の花はカノジョの血を啜り始めた。

 その身体は血の気を無くし、赤から青へ、青から土色へと変色を遂げて…

 

 

 ーぁあ…帰して…帰してよ…お父さん…お母さん…

 ーいいえ、あなたはカエルノです…偉大なる母にの下へ…

 

 

 カノジョの嘆きは届かない。

 この紅い森に響くは紅き夜の女王ー紅く輝く薄紅のサクラノ木の声。

 その声は優しくも恐ろしく、暖かくも冷たい。

 全てを包み込む母の愛と全てを拒絶する人の憎が混じり合ったようなソレにカノジョは恐怖を隠さない。

 次第に気は遠くなり、視界は霞み、瞼は重みを増していく。

 だが、しかし、カノジョはここで諦めたくなかった。

 

 ーま、まだっ……妹……の…か……ぉ……見れて………無いじゃ…ない…‼︎

 

 もうすぐできる新たな家族に想いを馳せ、カノジョは気概だけでそこに生きていた。

 足掻け、足掻け、生き残れと。

 己に言い聞かせ生に縋る。

 無様でも良いと叫び上げる。

 今にも絶えそうな炎よ燃え上がれ。

 その小さな力で……

 

 もう一つの、人の影。

 それは見慣れたフボの影。

 その姿にカノジョは希望を見出す。

 

 ーお父さん‼︎お母さん‼︎ワタシはここだよ‼︎助けてよ‼︎

 

 その視線は、ショウジョと交差し、カノジョは歓喜を覚えた。

 

 〝現実は無慈悲なり〟

 

 希望は大きい程、絶望は大きくなる。

 絶対助けてくれると思っていた。

 また、楽しい時が過ごせると思っていた。

 ハハとチチは一瞬驚いたような顔をし…一目散に逃げた。

 絶望。

 脱力したその身体にトドメを刺すかのように、カノジョの胸部より一つの枝は咲いた。

 不思議と血は出ない。当たり前だ。血はもう全て、サクラノ木が奪っていったのだから。

 悔しそうに目を細め、歯軋りし、万斛の怨嗟を吐き捨てる。

 

 ー紅き月夜に呪いあれ

 ー紅きサクラに呪いあれ

 ー死ね、死ね、心の臓を貫かれて

 

 神と、サクラに呪詛を吐き、その世を心より恨む。

 自分だけ連れ去られる理不尽さを恨み、何億もの生命に呪詛を吐く。

 小さな生命には足掻くことすら許されないのかと。

 神は怒りに身を任せ人の子一人も助けないのかと。

 一生命とは、こんなにも安いものなのかと。

 そして何より…親とは…そんなにも子供より己が可愛いのかと。

 

 ー嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つきッッッ‼︎あのトキゼッタイにタスケルって言ったくせに‼︎

 ー騙された…シンジテタノニ…‼︎

 

 絶望の憤怒は複雑に混ざり合い、濃厚な邪悪の色に彼女を染める。

 それに抗うことはない。否、それこそが今の自分だとカノジョは受け入れた。

 

 ー生命に理不尽な死を、世に厄災を…‼︎

 

 それは最後の呪詛。万斛の怨嗟と共に死体は枝たちに連れられ、サクラノ木の下へと沈みゆく。

 恨みに染まったその顔を最後としてー

 そして木はその脈を流動させ、カノジョから奪い取った生命を駆けさせて…今はもう一つ散ったその花の生き血を糧として…美しい、薄紅の花を咲かす。

 

 ー真っ赤な血で染め上げたその花を。

 

 神の怒りが今世に滲み出る。その象徴である紅き月に導かれて今宵も悲劇は始まる。

 

 ー迷い込むは今宵は誰

 ーさあ、始めましょう

 ー生と死のサクラノ幻想曲

 ー喰うか喰われるかの神隠しゲーム

 ー生を喰らい生に縋るサクラノ木ニ宿ル鮮血ノ伝承

 ー極東の国に伝わりし、悲劇を…

 

 暗赤色の髪のショウジョは…金色の光に照らされて…

 透き通った体を浮かし…顔に歪な笑みを貼り付けて…

 欠けたることの無い、丸い月へと歩いていく…

 

 本日も始まる像愛の連鎖。

 悲劇の生む悲劇の歯車は回る。

 観客は月に唯一人。

 歪に笑うカノジョだけ。

 

 ーさあ、泣き叫べ‼︎喚き散らせ‼︎

 ー万斛の怨嗟を世に叫べッッッ‼︎

 ー神を恨めッッッ‼︎神を憎めッッッ‼︎

 ー生命を持って世に叫べッッッ‼︎

 

 狂った笑いは世に響く。

 悲しい嘆きを聴きながら。

 さあ、この希望に満ちた少年少女の居る学校(舞台)にて、絶望の連鎖を始めよう。

 喜劇と悲劇の不協和音…今宵の供物は……

 

 

 〝あなただよ?〟

 

 

 クスクスクス…

キャスト

▽カノジョ

今日が誕生日の少女

サクラに喰われ、万斛の怨嗟に身を堕とす

▽フボ

カノジョの父と母

▽サクラ

生き血を啜る神の使徒

神が怒る日、月食の日に人を喰らう

▽紅い月

天から地を見下ろす神の怒りの象徴

▽暗赤色の髪のショウジョ

怨嗟を叫ぶ亡者

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは ゾクゾクしてくる不気味なお話ですね ドキドキしながら読ませていただきました! ショウジョが森の奥に行くことになった理由について、軽く触れる程度に描写があるとより面白いんじゃな…
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