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魔法発動!

躓いた狼にめ付けられる。

「うっ、逃げられない」

いきなりすぎて頭が回らない。

一度オーバーヒートしてしまっている自分を落ち着かせる。時間はない。一秒でも無駄にすれば死ぬ。いや多分マジで。

この間合いでは逃げた所ですぐ追いつかれてしまう。下手に刺激すれば騒がれて向こうのむれに気づかれるだろう。となると方法は一つだ。

やるしかない。その上高速、一撃で、だ。


鈴は右手を前方に構え、全身の魔力を右手に集中する。


――やれるはずだ。私なら必ず。


「魔法発動の過程1、魔法陣展開」


鈴の腕に赤い円形の光が浮かび上がった。


「魔法発動の過程2…魔力解放」


鈴は眼を見開き、腕に秘められた『魔力』を解放する。



「魔法発動、【ファイアスピア】」



静かに詠唱を終え、鈴のてのひらから放たれた一筋の赤光が目の前の狼の側頭部に突き刺さり、貫通した。


***

初級焔系魔法【ファイアスピア

中学魔法教育にて、いの一番に教えられる『魔法』。発射音が少なく取り回しが良い。速度、貫通能力において優れている。魔方陣を一度展開すれば連射可能。


***


「やった」

狼は頭部に穴を開けそのまま崩れ落ちた。痛々しく10センチ大に空いた穴は焼け焦げている。

完璧、きた私マジ天才。音を殺し、敵を殺す。

鈴は勉強の方はイマイチだが魔法技能だけはそこそこ高い。これぐらい朝飯前だ。

「っといけない逃げよう。さあて家に帰って色々考えないと」

狼を倒せた優越感で焦燥は消え、落ち着きを取り戻しつつあった。一度ゆっくり考え直すのが得策。無闇に彷徨うろついてもまた襲われるだけだろう。

ゆっくりと死体に背を向け走り出そうとした、時だ。


背後から聴こえる。荒い息遣いが、殺気が。

「っ!」

周りを見回すと多数の狼が鈴を取り囲んでいた。

「ガゥルルルル…」

――音はほとんど発されていなかったのに…


死体になった狼をチラリと見る。炎の槍が貫通した側頭部がブスブスと焦げている。

「なるほどこの微妙に焦げた臭いか」

ここにいたら他の狼も死体の放つこの臭いに惹きつけられるかも。

これ以上増えられては困る。

「やばい……逃げっ」

とにかくこの場から離れなくてはならない。

鈴が狼と狼の間をすり抜けようと走り出そうとした直後、左腕に激痛が走った。

「ルガゥ!!」

「~~~~~~っぃぃい!?」

一匹の狼の鋭利な爪が鈴の左腕の表皮をえぐり取っていた。

激しい痛みで悲痛に顔をゆがめるが足だけは止めない。痛みでまともに考える力も残っていなかった。

集団から抜け出そうと試みる鈴だがすぐにみちを塞がれてしまう。

「くっそ、通してよっ!」

すかさず魔法を発動する。第一工程の魔方陣を狼の攻撃を避けながら展開する。

「【ファイアスピア】!!」

ドシュッと尾を引く火球が発射されるが、跳び回る狼に翻弄され狙いが定まらない。何発もの火球が空を切り、狼の爪が鈴の肌を服ごとかすめ取っていく。満身創痍ズタボロに成りつつも、ただひたすら発射する。

「定まらない!完全に見切られてる…それならもう一つの魔法で…え!?」

鈴の魔法は一種類だけではない。新たな魔法陣の展開をはかる鈴だが魔方陣が展開しない。それどころか【ファイアスピア】の連射も止まってしまった。

「魔力切れ…!?こんな…こんな時に」

「グググルルル…ウヴァウ!!!」

「ウガァ!!」

勝機を見た瞬間、狼の集団が鈴に喰らいついた。腕に脚に腹に背にありとあらゆる部位に激痛が走る。

視界がぼやけて世界が赤に侵食されてゆく。火傷やけどするようなアスファルトの熱はもう感じない。身体からだが痛み以外の感覚を許さない。


奈海…こころ…優梨…お母さんお父さん

誰か、たすけて……


喉笛のどぶえを噛み切ろうとする狼を見て鈴は死を悟る。


終わった。死ぬんだ私、こんな…所で


近づく死の感覚と薄れゆく意識の中、来ない筈の救いを願った。


ズドン!


凄まじい破壊音と共に眼前の狼が吹き飛ぶ。


なにが…起きたの?


鮮血を撒き散らし、次々身体中の狼が乱暴に引き剥がされていく。

「炎の魔法が花火みたいに宙を舞ってたから何事かと思えば…女の子を集団でいじめてる狼に出くわすとは…彼女を放して貰うよ!」


男の…人…なの?


かろうじて動いた顔だけを上げる。黒い髪の金属製バットを持った少年だ。だけど何か独特の雰囲気をまとっていた。


狂化アビリティ、発動」


嘶木いななき善華ぜんか推して参る!…なんてね」



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