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TとUの理不尽クイズ

difficultなダイイングメッセージ<問題編>

作者: フィーカス

 九月も中盤に入り、夏の暑さも少しずつ和らいできた。

 とはいえ、昼間はまだまだ半袖でも十分なほどの気温。サラリーマンのTもまた、スーツをクールビズに決めていつもの喫茶店に入った。

「……しかし、ここはいつもそうだが、クーラー効き過ぎなんだよな」

 ぶつぶつ言いながらも空いているテーブル席に座ると、ホットコーヒーを一杯注文した。

 午後五時。まだまだ暑いとはいえ、店内は突然冬が訪れたのかと思うほどに冷房が効いていた。一瞬、温度設定が十八度というのが見えたが、あえて気にしないことにした。

 注文したホットコーヒーが来て、スティックシュガーを一本入れた時、入り口からカラン、と客が入る音がした。

 Tが振り向くと、良く見知った男がこちらにやってくるのが見えた。

「やあT、今日も仕事帰りに一杯かい?」

「またお前か、U。まだ仕事途中でちょっとコーヒーを飲みに来ただけだ」

「あれ、お前サラリーマンだっけ?」

「まあ、あれだ、今はそういうことだ」

 そう言いながらTがコーヒーを口に運んでいると、通りかかった店員にUがアイスコーヒーを注文した。

「お前、こんな寒い店内でよくアイスなんか飲めるな」

「いや、のど渇いたから」

「だったらウーロン茶かお冷にすればいいのに」

「喫茶店に来たんだから、コーヒーを飲まなきゃ損だろ」

 一体何を損するのだ、と思いながらフレッシュミルクを入れ忘れていたのを思い出し、Tは飲みかけのコーヒーにフレッシュミルクを入れた。

「まあいいや。ここでお前と遭うということは、俺が問題を出す運命にあるということだ」

「何で俺が災害みたいになってるんだよ。別に問題出すのが義務でもないだろ」

「まあいいじゃないか、どうせ暇なんだろ?」

「……さっき、仕事中とか言って無かったか?」

 Uが言い終えたタイミングで、店員が注文のアイスコーヒーを持ってきた。Uはそれにガムシロップを、コーヒーがあふれるまで入れてストローでかきまわした。

「最近頭の体操が足りてないだろう? ということで、抜き打ち頭の体操だ」

「頭の体操って、抜き打ちでやるものなのか?」

「そういうな、お前の好きそうな、ダイイングメッセージの問題だ」

「ああ、そこのカウンターに書いてるメニューのことな」

 Uはそういうと、カウンターに書かれている食事メニューを指さした。

「……ダイニングメッセージ、なんてボケはもう古いぞ」

 Tがそういうと、Uは右手を後頭部に当てて舌を出した。


「日本に留学してかなり経つ留学生のエドワードが、自宅で殺害されていた。凶器はどこにでもあるナイフで、遺体のそばには『difficult』という血文字が残された。おそらく筆跡などから、エドワードが死ぬ間際に書いたものだと思われる。警察の調べで、動機やアリバイなどから、同じく留学生でエドワードの幼馴染にであるジェニファー、アンナ、クリストファー、ミッシェルの四人に絞られた」

「随分名前が適当だな。そんなのでいいのか?」

「別にいいだろ、そんなことは。で、四人はそれぞれアリバイもなく、動機もあるのだがまったく決め手がない。そこで、エドワードが残したダイイングメッセージがカギとなるという結論になった。果たして犯人は四人のうち、誰だろうか?」

 Tが言い終わると、いつの間にかUは白紙を準備してそこに概要を書き始めた。

「えっと、殺されたのがエドワードで、容疑者がジェニファー、アンナ……えっと、綴りはどうだっけ?」

「全員の綴りか?」

 そういうと、TはUが書いていた紙に、登場人物の名前の英語綴りを書き始めた。

「Edword、Jennifer、Anna、Christopher、Michelleだな」

「なるほど、ということはdifficultという綴りを並べ替えて……って、出来ないぞ」

「別に外国人の名前だからって、英語で考えることはないだろう。ちなみに被害者のエドワードは日本語が流暢で、漢字はもちろん、四字熟語や難しい熟語の意味も理解しているらしい。さらに音読み訓読みや難読漢字なんかも、そこらの日本人よりも詳しいらしいぞ」

「何だそれ、俺より頭いいんじゃないか」

「言葉を覚えるのに頭の良し悪しはあまり関係ないと思うがな。覚える気があるかどうかというのと、頻繁に使うかどうかってところだと思うぞ」

「なるほど、俺には覚える気がないということだな」

 自慢して言うことじゃないだろ、と思いながら、Tは何故か二本目のスティックシュガーをコーヒーに入れ、「あっ」と声をあげた。

「ところで『difficult』って、『難しい』っていう意味のほかに何かあったっけ?」

「そうだな、『苦しい』とか『扱いにくい』とか『やっかいな』とかいう意味はあるけど」

「なんだか、使えそうなものはないなぁ」

「ちなみに『difficult』は『知識が必要で難しい』とか『技術的に難しい』という意味で、『hard』は『肉体的に難しい』という意味らしい。『difficult』の方が主観的な感じかな」

「何で英語の授業みたいになってるんだよ」

「いやまあ、なんとなくだ」

 謎が解けず、イライラしているUを後目に、Tはスティックシュガーを入れ過ぎたコーヒーを口にした。苦みが殺されたのかと思うほど甘いコーヒーに、Tの顔が少しゆがむ。

「あ、そうそう。ちなみにこのダイイングメッセージ、わかりにくいように三段階に変換しなければ解けないようになっているから、結構面倒だぞ」

「三段階? そりゃ面倒だな」

「まあ、一段階一段階はそんなに難しいものではないんだがな」

「ダイイングメッセージじゃなくて動機からとか考えられないものなのか?」

「それを言い出したら問題の意味がないだろう。そうだな、四人とも被害者とはとても仲の良い幼馴染で、お互いに愛称で呼び合う仲だったらしい。それゆえに起きた悲劇なのかもな」

「なるほど。全然ヒントにならん」

「さあて、どうかねえ」

 気が付けばUのアイスコーヒーは、上部が透明に見えるほど氷が融けている。Tは残った甘いコーヒーを飲み干すと、ホットコーヒーのお替りを注文した。

「さて、俺もそろそろ時間なのだが、解けないなら解答編に移ろうか?」

「ぐぬぬ、全然わからん。くそ、降参だ」

 Uが諦めてボールペンを投げ出すと、Tは謎の笑みを浮かべた。


 さて、今回もUが解けなかった問題を、読者の皆さんに考えていただこう。

 日本語が流暢な留学生、エドワードは、「difficult」という血文字を残して死んでいた。

 容疑者は、被害者と幼馴染で、お互い愛称で呼ぶほど仲が良かった、ジェニファー、アンナ、クリストファー、ミッシェルの四人。

 この中に「difficult」が意味する人物がいるのだが、一体誰だろうか。

 このダイイングメッセージ、容疑者にわかりにくいように三段階に変換しなければ解けないようになっている。

 しかも、一段階目は実はすでに本文中で答えが出ているため、残りの二段階目、三段階目の変換について考えてもらいたい。

 一段階ごとの変換は、それほどひねくれたものではない。あんまり難しく考えると、かえって混乱してしまうだろう。

 いろいろなパターンを考えながら、犯人を導き出してほしい。

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