夏の思い出
また夏が来た。また思い出した。あの頃の彼。あの時の涙。
「パスパス!こっち!」
彼が最も大切にしているバスケの試合。あたしはそのバスケ部のマネージャーで、ベンチからずっと彼を見ていた。最後の大会。引退試合。彼はいつもより必死で、いつもより真剣だった。でも、イキイキしていて、楽しそうだった。スコアを見ればわかる。彼が一番得点している。スコアを記録しようとあたしは下を向いた。
ガタンッ
誰かか倒れる音。顔を上げたあたしの目には、倒れる彼が映った。一瞬何が起こったのかわからなかった。
何で倒れているの?
どうして彼なの?
彼と接触した選手が注意される。彼はぶつかったとき、右足をぐねっていた。やむを得ず、コートから立ち去ることになった。
他のメンバーに支えられて体育館を出る彼。その後姿はコート内とは全く違っていて雨に濡れた子犬のようだった。
彼が出て行ったあと、あたしは彼のいる控室に向かった。あとの試合や、スコアなんてどうでもよかった。
「大丈夫!?」
大丈夫じゃないのはわかってる。でも、そんな言葉しか出てこない。
「・・・マネージャー・・・。」
彼はあたしのことを部活では『マネージャー』と呼ぶ。普段は名前を読んでくれるクセに。
「大丈夫じゃないよ。俺の最後の試合だったのに。こんな怪我して最悪だよ。」
そして、彼は声を殺して泣き出した。子供みたいに、ずっと、ずっと。
あたしは何ができるんだろう。こんな彼に。綺麗な涙を流す彼に。
そっと彼をを抱きしめた。こんなことしかできない情けないあたし。でも彼は、そんなあたしを強く抱きしめた。何でそうしたかはわからない。彼は小さな声で言った。
「ありがとう。」
ピピーッ
試合の終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。
あたし達の学校は彼というチームの要を失って惨敗した。
このとき、彼は泣かなかった。あたしは、泣いた。試合に負けたことより、彼が怪我をして力を出しつくせなかったことが悲しくて、もう彼のプレーを見れないんだって思ったら涙が止まらなかった。
もうすぐ夏が終わる。
でも、あたしの想いは終わらない。
伝えよう。この想い。
「好きです。」
彼の答えは言わなくてもわかるはず。
彼の笑顔が告げる。
「俺も好きだよ。」




