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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第一章

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第4話 傭兵と魔竜2

「どうだ、うめーだろ?」

「信じられん。この世にこれほど旨いものがあったのか。長年生きているが、初めての味だ。これを感動的な味と言うのだろう」

「大げさだっつーの」


 旨いと言ってくれるのは嬉しい。

 しかし、サンドごときでこれほどまでに感動するのであれば、もっと旨いものを作ったら死ぬのではないだろうか。


「さてさて、メインのトウモロコシの前に、ジャガイモも食ってみろ。下手すりゃトウモロコシよりも旨いかもよ?」

「むっ、なんだと」

「ちょっと待てよ。ジャガイモはバターを乗せると旨いんだ」


 焼色がついたジャガイモの切れ目に、有塩バターを乗せると熱で溶けていく。


「皮ごと食えるぞ」

「分かった」

「熱いから気をつけろよ?」


 魔竜はジャガイモを手に取り、躊躇なくかぶりつく。

 すると突然、苦悶の表情を浮かべた。


「ぐおおおお! 熱いいいい!」

「気をつけろって言っただろ」


 焼きたてのジャガイモなんて、そりゃ熱いに決まっている。


「ってかよ、そんなに急いで食わなくても、誰も横取りしないって」

「そ、そうだな……」

「冷まして食えって」


 魔竜はジャガイモに息を吹きかけ、少し冷ましてから口に放り込んだ。


「旨い! ジャガイモの甘みとバターの塩気がなんとも言えんぞ。長年生きているが、やはり食に関しては人類よりも優れた種族はいないな」


 大げさな発言をする魔竜。

 それほど旨いということだろう。


「さあ、お待ちかねのトウモロコシだ。まずは素焼きを食ってみろよ」


 俺は網から一本取り出し、魔竜に渡した。

 今度はしっかりと冷ましてから、トウモロコシにかぶりつく魔竜。


「な、なんという甘さだ。これが野菜なのか?」


 昨日の俺と同じ感想だ。

 魔竜は両手でトウモロコシを回転させながら、一気に食らいつき完食した。


「これまでもトウモロコシを食ったことはあるが、これほど旨いものは初めてだ」

「そりゃ光栄だ。じゃあ、次はこっちを食ってみろ」

「ん? 普通のトウモロコシに見えるが?」

「これには塩を振ったんだ。うめーぞ」


 魔竜はトウモロコシを手に取り、少し冷ましてから口に運ぶ。


「これは!」


 無言で一本を食べ尽くした魔竜。


「塩なのに甘みが増したように感じるぞ」

「この塩が甘さを引き立てるんだよ」

「なるほど……。奥が深いな」


 奥が深いのかは分からんが、喜んでもらえて何よりだ。


「最後はバターだ。俺はこれが一番好きな味だな」

「ジャガイモと一緒だな」


 トウモロコシにバターを乗せた。

 熱で溶け出したバターが、粒の隙間に流れ込む。

 少し焦げ目がつくと、白煙とともに香ばしさが広がった。


「バターの香りがなんとも言えん」


 魔竜が熱そうにトウモロコシを頬張る。


「旨い、旨すぎる……。初めに塩気を感じて、バターの香ばしさとコクが広がる。そして最後に甘さが顔を出す。それにこのジューシーさ。もはや極上のスープだぞ」


 瞳を閉じて味を堪能している魔竜。

 それよりも、味の表現が上手くなっていることに、俺は危うく吹き出すところだった。


「どのトウモロコシも旨かったが、私もバターが気に入った。いや、旨いなんてものではない。貴様、いい仕事をしたな」

「そりゃどうも」


 人類の敵と言われる魔竜に褒められてしまった。

 というか人語を話すし、特に害はないように感じる。


 ***


 俺たちは、用意した十五本のトウモロコシを完食した。

 ほとんど魔竜が食ったのだが。


「食ったぞ! 大満足だ!」


 魔竜は手足を投げ出し、地面に仰向けになった。

 なんて自由なんだ。

 まあ魔竜にマナーも何もないだろう。


 魔竜は幸せ絶頂という表情を浮かべ、満足そうに寝転がっている。

 ここまできたら、食後のコーヒーも堪能させてやろう。


「お前、コーヒーは飲めるか?」

「うむ、問題ないぞ」


 まだ焚き火は消えていない。

 俺は水を入れたケトルを網の上に置く。


 コーヒー豆は街で購入したものだ。

 さすがに自分ではまだ栽培できない。

 だが、いつかはチャレンジしたいと思う。


 俺はテーブルの上で、焙煎済みの豆をコーヒーミルで挽く。

 そして、挽いた豆を布フィルターに入れて、熱湯を注いだ。


「ほら起きろ。コーヒーだ」

「うむ」


 魔竜は起き上がり、ゆっくりとベンチに腰を下ろす。

 熱さを警戒してか、慎重にカップを掴んでいた。


「ふむ、このコーヒーは酸味と苦みがあって旨いな」


 魔竜はコーヒーの味を知っているようだ。

 どこかで飲んだことがあるのだろう。


「ところで、ここはお前の縄張りなのか?」

「そうだ。私の土地だ」

「だけど、国ではないだろう?」

「国? 人間が誕生する前から私はこの地にいる。人間が作ったルールなぞつい最近だ。私には関係ない」


 つい最近と言うが、今の国家が乱立する世界は数千年の歴史がある。

 つまり、この魔竜はそれよりも前に誕生したということだ。


「私から人間の国を襲うことはないが、この地に侵略する者は殺す。貴様もそのつもりだった。しかし、貴様はどうも様子がおかしかった」

「どういうことだ?」

「貴様は一人だった」

「は?」

「この地を侵略するのは軍隊だ。大勢で私を討伐しようとする。とはいえ、私にとって人間なぞ塵と同じだ。何人いても変わらん」


 魔竜がもう一度コーヒーを口にすると、僅かに微笑みを浮かべた。


「だが、貴様は一人でこの地へ来て農作物を始めた。その様子が面白くてな。だから、しばらく待ってやろうと思ったのだ」

「なるほどね。で、ご満足いただけたかな?」

「うむ。気に入った。貴様がこの地に住むことを許そう」

「そりゃありがたいが……、何だか条件がありそうだな」


 どうせ野菜を食わせろとでも言うのだろう。


「わははは、分かるか! これからも野菜を食わせろ!」

「やっぱりか……」


 予想通り野菜の提供だった。

 しかし、そのためには色々と聞きたいことがある。


「野菜を作るのはいい。しかし、お前の食う量が分からん」

「人化している時にしか食わんからな。人間と同じ量だ。まあ旨いものであれば多めに食うが。わははは」

「じゃあ、量は俺と同じでいいのか?」

「うむ、そういうことになる」


 俺は自分の畑を見渡した。

 この広さでは足りないだろう。


「畑を拡大するがいいか?」

「構わん。全て許す」


 とはいえ、畑の拡大は重労働だ。


「お前もたまには手伝えよ?」

「私を働かせるのか?」

「旨い野菜を食いたいだろ?」

「むっ! 確かにそうだな……」


 魔竜は腕を組み、何やら考えている様子だ。


「おい貴様、今日の野菜はトウモロコシとジャガイモとレタスだったな」

「ああ、そうだ」

「もっとたくさんの種類の野菜を作れ」

「おいおい。簡単に言うがな――」

「安心しろ。私もここに住んで、貴様と野菜を作る」


 こいつ、今なんて言った……。


 ここに住む?

 俺と野菜を作る?


「待て待て待て待て! 何言ってんだよ!」

「だから野菜を作ると言っておるだろう」

「ふざけんな!」


 俺は人と関わりたくないから、この地へ移り住んだ。

 それなのに誰かと住むなんて考えられない。


「ここは私の土地だぞ?」

「お、横暴だ!」

「では出ていけ。さもなくば殺す」

「て、てめえ、言ったな……。もう一つの選択肢を与えてやるよ」


 俺はテーブルを叩き、立ち上がった。


「俺がてめえを殺す」

「ほう、人間ごときが私を殺すだと?」


 凄みながら俺を睨む魔竜が、突然満面の笑みを浮かべた。

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