第13話 草原のレストラン
レストランの建築を開始した。
俺は自分で書いた図面通り木を切り、組み立てていく。
テラムは当初、ノコギリや斧を使って素材を加工していた。
しかし、途中から素手で丸太を削っている。
「おいおい、素手かよ」
「効率よく働いているのだ。素手が一番速い。貴様だってできるだろう」
「人間は道具を使うから人間なんだよ」
「な、なんだと。貴様、私をバカにしてるのか?」
「いやいや、お前そもそも人間じゃねーし。魔竜だろーが」
先ほど魔竜について話を聞いた際、一緒に説明されたのだが、一部の種族には上位種族が存在するそうだ。
例えば獣は魔獣、人間は魔人といった具合に、能力の限界を超えると上位への進化によって上位種族へ進むという。
遥か昔『魔』という言葉には、存在を超えるという意味があったそうだ。
今ではその意味もなくなり、恐怖の言葉として使用される。
もちろん、そんな意味があったなんて知らなかった。
まあテラムの言うことだし、話半分で聞いておこう。
なお、この上位種族への進化に関して、魔竜だけは特別だそうだ。
魔竜は進化して魔竜になるのではなく、誕生した時から魔竜だという。
世界に十三柱しかいない魔竜は、世界と深い関わりがある。
それもそのはず、テラムは二十八億年という途方もない時を生きている。
まったくもって意味が分からない。
テラムが両手を腰に当て、胸を張っていた。
「今の私は魔竜の姿ではない。魔人化しておる」
「じゃあ、なおさら手を使えよ……」
「う、うるさい!」
「そもそも魔竜だからって、魔人化することが信じられねーんだよ……。めちゃくちゃ過ぎるだろ……」
理屈は分からんが、魔竜のテラムは人の姿に変化することが可能だ。
ただし、魔人化によって身体的能力は魔人レベルに落ちるという。
種族の強さで言うと人間が最も弱く、獣、魔人、魔獣、そして魔竜の順番になるそうだ。
人間は獣を狩猟するが、単純な身体能力では獣に敵わない。
いきなりそんなことを言われても、俺には「はあ、そうですか」としか言えない。
だから気にせず、いつも通り身体を鍛えて、旨い野菜を作るだけだ。
「おい、アレファス。この丸太はどうする?」
「それは壁だから、ここに積み重ねる」
「こっちの丸太は?」
「それは柱だ」
通常なら滑車で吊るして持ち上げるような木材も、テラムは簡単に持ち上げてしまう。
そのため、恐ろしいほど作業が捗る。
俺は傭兵時代に、戦地で城や砦を作ることもあった。
堅牢な城になると、数千人の軍隊で昼夜作業しても一週間以上はかかったものだ。
「魔人とはいえ、たった二人でこれほどのスピードで建築できるなんてな。マジで数日中に完成しちまうぜ」
シルヴァの重量を軽くする魔法を使う必要もない。
「もう形が見えてきたわ。凄いわね。ふふふ」
シルヴァは畑作業に専念していた。
★☆★☆★
ついにレストランが完成した。
二日目には建物自体が完成し、三日目は内装に取りかかり、四日目に完成だ。
信じられないほど早い建築作業だった。
俺たち三人は、完成したばかりのレストランを見上げる。
木の香りに包まれた、温もりのある洒落たログハウスだ。
「自分で言うのもなんだが、このデザインはマジで美しいだろ?」
「うむ、かっこいいレストランだな」
「ええ、可愛いレストランね」
三者三様とはこのことか。
まあ人のセンスはそれぞれだ。
全員が満足だったらそれでいい。
「さて、ルームツアーと行くか」
俺たちは入口の短い階段を上り、扉を開けた。
まずはパーティーができそうな広いホールだ。
いくつもの大きな窓から光が入ることで、室内はとても明るい。
そして、壁際にカウンターバーを設置している。
酒はまだないが、これから作っていくつもりだ。
ホールの先は、数十人分もの食事が一度に調理可能なキッチンが広がる。
その奥が冷蔵室、冷凍室、燻製室、倉庫だ。
「広いわねー」
「狭いキッチンだと凝った料理ができないからな。せっかく魔女が旨い料理を作ってくれるんだ。それに見合ったキッチンにしないとな。ははは」
「あら、嬉しいわ。腕が鳴るわね。ふふふ」
キッチンの装備もこだわり、魔石で稼働するグリルやオーブンも作った。
これで調理の幅が広がるはずだ。
正直、都会のレストランでもここまでの装備はないだろう。
「ねえ、アレファス。今日からもう使えるのかしら?」
「ああ、問題ないぞ」
「食材や食器を運んでもいい?」
「もちろんだ。俺も野菜を運ぶよ」
シルヴァがさっそく食材を運び込み、調理を開始した。
俺とテラムはホールにテーブルと椅子を並べる。
これも森から運んだ木材で作ったものだ。
「草原のレストランとして営業すれば、客が入りそうだな」
「この地に来る者などいないがな。わははは」
「お前のせいだっつーの……」
「ん? 何か言ったか?」
来るものがいないのではなく、入ることができない。
その原因はこの魔竜だ。
とはいえ、俺も人に来てほしいわけじゃない。
成り行きで三人で暮らしているが、元々一人で生きるためにこの地に来た。
「できたわよ」
シルヴァが大きなトレーで料理を運ぶ。
「こりゃ、豪華だな」
メニューは森豚の香草焼きと大鴨のロースト。
レタスとトウモロコシのサラダ。
ジャガイモのスープ。
そしてパンだ。
「今日はトマトとナスを植えたわ。まだ他にも作る予定よ。種の種類はまだあるもの。ハーブも育てたいわね」
「ハーブか。魔女らしいな。はは」
俺は森豚の香草焼きにナイフを入れ、フォークで口に運ぶ。
パン粉をまぶしたことで、噛むごとに細かくて小気味よい繊細な破砕感を感じる。
少し遅れてハーブの香りが鼻を抜け、最後に森豚の肉汁が口の中に溢れていく。
「くう、旨い。旨すぎる」
俺はこの地で一人で暮らし始めてから、本格的に料理を勉強した。
努力の結果、今では満足いく料理を作っているが、シルヴァには敵わない。
当然だ。
三百五十歳と四十三歳の経験の差があるのだから――。
「何? アレファス。何が言いたいの?」
シルヴァから、俺の命を奪う死神の鎌の如き殺意が放たれた。
「な、なんでもないよ。この香草焼きはマジで旨い。うん、旨い」
「嬉しいわ」
殺気は収まり、すぐに満足そうな笑顔を見せた。
正直、危なかった。
テラムに視線を向けると、すでに香草焼きを完食している。
「シルヴァ、おかわりはないのか?」
「あと数枚焼いています。お持ちしますね。ふふ」
遠慮というものを知らないテラム。
だが、シルヴァも嬉しそうだからいいだろう。
シルヴァが用意したおかわりも、早々に食べ尽くしたテラム。
「ねえ、アレファス。明日は狩りにいかない? 食材の消費が早くてね。それに森豚以外にも欲しい食材があるのよ」
「狩りか。そうだな。レストランは完成したし、明日の予定は特にない。畑を拡張しようと思ったが、明日は狩りにしよう」
サラダを食べるテラムの手が止まった。
俺に視線を向けている。
「狩りか。うむ、いいだろう」
食材が足りなくなる最大の原因なのに、清々しいほどの尊大な態度だ。
「お前のせいだっつーの」
「な、なんだと!」
「食い過ぎなんだよ」
「旨いのだから、仕方がないだろう」
「まあ、それはそう。その通りだ。それに異論はない」
「だろう? お前の料理も旨かったが、シルヴァの料理はもっと旨い。わははは」
食うだけなのに、最も偉そうに笑うテラムだった。




