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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第一章

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第12話 狙われた大地

 ◇◇◇


 魔竜テラムが支配する広大なテラム平原。

 魔竜領と呼ばれ、人間が立ち入ることは許されない肥沃な大地だ。


 テラム平原の外にはいくつもの国家が存在し、人間が生活している。

 この世で最も繁殖した種族である人間は、数に物を言わせ、歴史上何度もテラム平原へ侵攻を試みた。


 もちろん、人間の侵攻は一度たりとも成功したことはない。

 それどころか、ここ数十年は侵攻自体を取りやめている状態だった。

 理由は被害が大きいことと、テラムに勝てる見込みがないからだ。


 だが、ここへ来て不穏な空気が流れている。


 テラム平原の北東に隣接したルジェール王国の王都ルジェール。

 その中心地に建つ白亜の王城の国王執務室に、一人の男が呼び出された。


「来たか、バシュデル騎士団長」

「ハッ! 陛下!」


 騎士団長と呼ばれた純白の鎧を纏った男が、国王の前で跪く。


「バシュデル、これを見よ」

「ハッ!」


 バシュデルが立ち上がると、国王は机の上に一枚の大きな地図を広げた。

 ルジェール王国を中心とした周辺国の地図だ。

 その西側を指差す国王。


「バシュデル。テラム平原へ侵攻を開始する」

「テラム平原ですと!」

「昨今の人口増加と資源不足は深刻だ」


 近年、ルジェール王国は急速に発展していた。

 そのため、数年前にスクロア帝国へ侵攻を開始。

 領土を広げていたが、一年前に前線が崩壊し、元の国境まで押し戻されてしまった。

 現在は帝国と協定を結び、休戦している。


「帝国への侵攻も結果が出なかった」

「誠に申し訳ございません」

「傭兵団の崩壊と聞いておる。騎士団のせいではない」


 ちょうど一年前、帝国領地の奥深くで猛威を振るい、前線を押し上げ、めざましい戦果を挙げていた部隊があった。

 しかし、その部隊が全滅したことで、前線が崩れたという。


「それにな。今はどの国も状況は厳しい。帝国の資源も以前より乏しいと聞く。仮に他国の領土を奪い取っても、資源が増えるのは一時的だ。支配地を広げれば、その分国民の数は増えるのだからな」


 人間が住む土地を取り合っても意味がない。

 だからこそ、人間が進出していない、新たな土地を開拓する必要があると国王は考えていた。


「父王では叶わなかったテラム平原の支配を、余が実現させる」

「ハッ! 陛下なら必ずや」

「うむ。父王になくて余にあるものが分かるか?」

「先王になくて陛下にあるもの? い、いえ……」


 小さく首を振るバシュデル。


「貴殿だ、バシュデル騎士団長。ルゼロフ騎士団五百年の歴史で、最強と呼ばれるお主がいるからだ」

「も、もったいなきお言葉」


 主君の言葉に、バシュデルは深く頭を下げた。


「侵攻は一か月後だ」

「承知いたしました。この手で魔竜を討ち、必ずやテラム平原を手に入れてみせましょう」


 国王の前で大見得を切ったバシュデル。

 歴代最強の騎士団長らしく、凛々しく引き締まった表情を浮かべていた。


 国王の執務室を出たバシュデルは、すぐに側近を呼びつける。


「レーシェ将軍を呼べ」

「レーシェ将軍を!? かしこまりました!」

「それと傭兵団も使う」

「ハッ! かしこまりました!」


 廊下を小走りする側近の後ろ姿を眺めるバシュデル。


「魔竜領への侵攻か……。ついに……」


 小さく呟きながら団長室へ戻った。

 そして、高級な椅子に深く腰掛ける。


「願ってもない。あの大地を手に入れて、私が人類初の王となろう。くく、くくく……」


 その表情は卑しく、早くも魔竜討伐後の自分の姿を想像していた。


 ***


 ルジェール王国南部の都市グラゴース。

 この都市はルゼロフ騎士団の将軍レーシェの管轄地だ。

 一年前までは千騎長だったレーシェは、その活躍から将軍に昇格した。


 国境を守る堅牢な砦は、『グラゴースの赤壁』と呼ばれ、赤褐色の花崗岩で建てられている。

 この砦がレーシェ隊の駐屯地だ。


「失礼いたします。レーシェ将軍、王都の騎士団本部から魔法通信が入りました」


 一人の騎士がレーシェの執務室を訪れた。

 手には四角い魔石を抱えている。


「本部から? 内容はなんだ?」

「そ、それが……」

「はっきりと述べよ」

「ハッ! 『テラム平原へ侵攻する。レーシェ隊五千騎を編成せよ』とのことです」

「なんだと?」


 レーシェの美しい表情が一気に曇る。


「魔竜領だぞ? みすみす兵を死なせるのか?」


 レーシェの発言に、部下は返答できない。

 部下の額から滴る脂汗に気づくと、レーシェは右手を挙げた。


「お主に言っても仕方がないな。すまぬ」

「い、いえ……」

「分かった。詳細を確認する」

「ハッ!」


 部下が通信用の魔石を机に置き、一礼して退室した。

 扉が完全に閉じたことを確認したレーシェは、魔石に記録された通信内容を確認する。


 窓から入り込む風に、銀色のポーニーテールがなびく。

 レーシェは後頭部のリボンをほどき、髪を下ろした。

 そして、背もたれに背中を預け、天井を見つめる。


「ふう……。魔竜なんて、人間が敵うわけないじゃない」


 レーシェは物事を冷静に分析する。

 諦めているわけでも、無理だと決めつけているわけでもないが、人間ごときに魔竜を討伐できるとは思っていない。


「傭兵団も招集するということだけど、魔竜領の侵攻で彼らが集まるのかしら」


 レーシェは席を立ち、窓の外を眺めた。


 ルジェール王国は正規の騎士団とは別に、傭兵団を編成することで知られている。

 必要な時に招集することができるため、国家として軍事費の削減が可能だ。

 だが、金のために戦う傭兵たちは、命を落としかねない無謀な戦いを最も嫌う。


「それに、あの人はもういないのよね……」


 ルジェール王国周辺には、伝説の傭兵がいた。

 たった一人で戦況を変えるほどの武力を持ち、味方になれば希望となり、敵になれば絶望すると言われたほどの傭兵だ。

 しかし、その傭兵は一年前に事件を起こし、姿を消した。


 当時、千騎長だったレーシェは、グラゴース地方の傭兵部隊を管理しており、消えた傭兵の行方を追った。

 結局、行方は掴めず捜索を断念。

 全ての処理を傭兵団に一任した。


 噂では傭兵を引退したとも聞くが、真相は不明だ。


「魔神がいてくれたら、魔竜討伐の可能性はあったかもしれないのに……」


 それでもレーシェは騎士として、命令を忠実に実行する。

 部隊編成の命令書を書くためにペンを取った。


 ◇◇◇

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