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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第一章

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第10話 三人の集落2

「じゃあ、私は今からラードを作るわね」

「ああ、頼む。俺はこの肉をベーコン用に塩漬けするよ」


 シルヴァは庭のバーベキューコンロに火をつけ、網の上に大きな鍋を乗せた。

 そして、鍋に森豚の脂身を入れていく。

 これを煮込んで脂を抽出し、不純物を取り除きラードとする。


 俺は森豚の肉を適当な大きさに切り分けて、塩を用意した。


「あ、アレファス。塩はこっちを使ってみて」

「ん? これが塩?」


 シルヴァが差し出した塩はピンク色だ。

 しかも一つ一つの粒が大きい。


「それは岩塩よ。百年ほど前に、グラキャス氷河で採取したの」

「グラキャス氷河の岩塩か。それは貴重じゃないのか?」

「そうだけど、もう残りが少ないから、このベーコンで使い切っていいわよ」

「そうか、じゃあ遠慮なく使うよ。ありがとう。ん?」


 シルヴァの隣で、ラード作りを眺めていたテラムの動きが止まった。

 テラムの顔色が一瞬で真っ青になり、脂汗が吹き出している。


「グ、グラキャス氷河……」

「どうした、テラム?」

「い、いやなんでもないぞ。わは、わははは」


 なんでもないと言う割に、様子がおかしいテラム。

 まあどうせ寒くて辛かったとか、くだらないことなんだろう。


 俺は岩塩の粒を指で摘み、口に入れてみた。

 塩気の中に甘みとコクを感じる。


「うわっ、これは旨いな」

「そうでしょう? グラキャス氷河の岩塩は良質だもの。また採りに行かなくちゃ」

「これは街で売ってないのか?」

「ほとんど見かけないわね。もしあったとしても驚くほど高いわよ。黄金以上の価値だもの」

「黄金だと!」


 俺は手に持つ岩塩を眺めた。

 これが黄金よりも価値があるなら……。


「売りに行ってもいいけど、私たちの生活ではそんなにお金を使わないわよ?」

「そ、そうだよな。はは」

「この生活は、お金より物が大切よ?」

「わ、分かった」


 さすがは森で生活していたシルヴァだ。

 俺はまだここへ来て一年しか経っていないから、シルヴァのアドバイスは非常にありがたい。


「よし、ベーコンを作っていくか」

「このハーブも使ってみてね」

「いいね。じゃあ、二種類作って味を変えよう」


 俺は岩塩を肉にまぶしていく。

 そして、半分の肉にはハーブも使用した。


「塩漬けは十日ってとこだな」

「む? そんなに漬けるのか?」


 テラムが塩をまぶした肉を覗き込んでいる。


「ああ、もっと早くても大丈夫だが、俺はこれくらい時間をかけたものが好きだ」

「今朝のベーコンも同じか?」

「そうだ。あれも十日漬けたものだ」

「ふむ、では待とうではないか」


 仕込んだ肉は、シルヴァの冷蔵庫で保管させてもらうことにした。


 巨木の家に入り、壁沿いの階段を上がる。

 二階も一階と同じ円形だが、壁際に沿っていくつもの部屋があった。


「ここが冷蔵室よ」


 並ぶ部屋の一室に入ると、肉や野菜などの食材や、ガラス瓶に入った液体などが整理されて並べられていた。


「広いな」

「色々と使用するのよ。でも、これからは常に三人分でしょ? テラム様もいらっしゃるから、ここでも足りなくなるわ。新しく冷蔵専用の小屋を作ってもいいわね」

「確かにな。じゃあ、明日はさっそく小屋を作るか。材料は十分あるし」


 テラムの家造りのために持ってきた巨木がある。

 当面の建築材料になるだろう。


「魔石には私が魔法を込めるから、どんなに広くても大丈夫よ。ふふふ」

「さすがは森の魔女だな。冷凍室も作っていいか?」

「もちろんよ」

「じゃあ、小屋を二つ作ろう。共同の保冷室だ」

「いいわね」


 俺たちの隣でテラムが腕を組みながら、何やら得意げな表情を浮かべていた。


「おい、アレファス。それならば、共同の食堂やキッチンを作ったほうがいいだろう」

「共同の? それはもうレストランだろ?」

「いいじゃないか。我ら三人だけのレストランだ。わははは」

「なるほど、それもいいな」


 テラムの食に関するこだわりには感心する。

 確かに毎回誰かの家へ行くよりも、畑の隣に共同のレストランを作ったほうが、気兼ねなく飯が食えるだろう。


 ***


 シルヴァの自宅から外に出ると、夕日が沈みかけていた。

 熱した鉄のように真っ赤に染まった夕日が、水滴のように地平線に吸い込まれていく。


「わあ、凄い景色ね」

「森の中じゃ見られないからな」


 夕日が完全に沈むまで、シルヴァと地平線を眺めていた。


「さて、飯を作るか」


 庭のランプに火を灯し、夕飯作りに取りかかる。


 俺はさっき解体したばかりの森豚を小さく切り分けて串に刺す。

 その肉串とトウモロコシを、テラムが網で焼いていく。

 シルヴァは野菜スープを作っている。


 今日は庭で串焼きだ。


 テラムが網の串焼きに手を出そうとするたびに、俺は制止した。

 肉には最高のタイミングがある。


「おい! アレファス! まだか!」

「もう少しだ」


 狩ったばかりの新鮮な森豚から肉汁が滴る。

 脂が焚き火に落ちると、大きな炎が立つ。

 その炎に包まれたことで肉の表面が炙られ、焦げ目がつき始めた。


「よし! 今が最高のタイミングだ!」

「食うぞ!」


 テラムが両手で串を取っていく。

 卑しいにもほどがあるだろう。


 俺も串を取り、肉にかぶりついた。


「くぅぅ、旨え!」


 肉を頬張りながら空を見上げると、赤紫色で染まっていた。

 日の入りから夜へ変わる、ほんの一瞬だけ現れる空の色だ。

 俺は夕方とも夜とも言えないこの空が好きだった。


「ねえ、アレファス。うちにワインがあるわよ? 飲む?」

「なんだと! マジか!?」

「以前、森葡萄でお酒を作ってみたのよ。でも少ししかないわよ?」

「構わんよ。飲ませてもらえるか?」

「もちろんよ」


 この地に来てから酒は飲んでいない。

 だが、いつか作ろうとは思っていた。


 シルヴァがワインを注ぐと、真紅のマントを翻したような水流を作り、グラスを満たしていく。

 三杯のグラスに注ぎ終わると、三人で乾杯した。


「これは……」

「お味はどう?」

「旨いな……。いや、旨すぎるぞ」

「ありがとう。ふふ」


 想像以上にしっかりしたワインだ。

 フルーティーで酸味を感じながらも、適度な渋みが余韻として残る。

 高級ワインにも引けを取らない。

 さすがは森の魔女だ。


「大麦を作ればビールも作れるわね」

「小麦は作っているがな」

「小麦でもビールは作れるけど、大麦のほうが私は好きかな」

「俺もそうだな。おい、テラムはどっちのビールが好きだ?」


 俺はテラムに視線を向けた。

 一応、テラムの意見も聞いておこうと思ったからだ。


「え? 嘘でしょう? テラム様……」


 シルヴァが目を見開いて驚いている。


「お、お前……」


 テラムが今日の夕日のように顔を真っ赤に染め、大地に手足を投げ出し倒れていた。

 いびきをかいている。

 寝ているようだ。


「こいつ、酒に弱いのか……。しかもこれほどまでとは……」

「そういえば、テラム様はジュースしか飲まなかったわね」


 苦笑いを浮かべるシルヴァ。

 俺たちは魔竜が酒に弱いことを初めて知った。


「次回からテラムに酒は飲ませないようにしよう」

「ええ、そうね」


 俺とシルヴァは、地面に寝るテラムを挟むように座り、串焼きを堪能した。


「テラム様、起きないとなくなっちゃいますよ。ふふ」

「なんつー幸せそうな顔で寝てるんだ。魔竜のくせに」


 シルヴァが俺のグラスに葡萄酒を注いでくれた。


「ねえ、アレファス。あなたこの地に一人で住むなんて、理由があったのでしょう?」

「まあな。傭兵時代に裏切りにあってな。人間の醜いところを見て嫌気が差したんだ。もう一人で生きていこうってな」

「そうなのね。私も同じようなものよ」


 魔人になったとはいえ、数百年も一人で森に住んでいたシルヴァ。

 それなりの事情があるのだろう。

 

「シルヴァはあの森に住むことを、テラムに許されたんだろう?」

「そうよ。美味しいジュースを飲ませろってね」

「俺も旨い野菜を食わせろと言われた。もしかしたらテラムは、俺たちに事情があることを察して、魔竜領に住むことを許可したのか?」


 シルヴァが首を横に振った。


「そこまでは分からないわ。でも、テラム様は本当にお優しい方よ」


 俺はいびきをかくテラムの顔を眺めた。


「いや、そんなことはねーな。こいつは本当に野菜を食いたがっただけだ」

「そうかもね。ふふふ」


 シルヴァが笑いながらグラスの葡萄酒を飲み干した。


「楽しいなあ」


 吐息のような小さな声で呟くシルヴァ。

 だが、俺はしっかり聞き取った。


 シルヴァの美しい横顔に、焚き火のゆらめきが映る。

 俺は少しだけ見惚れてしまった。


 突然、俺に顔を向けるシルヴァ。


「アレファス、これからよろしくね」

「あ、ああ、こちらこそな」


 一人で住んでいたこの土地が、たった一日で三人の集落になった。

 俺は人間が嫌になり、この地に移り住んだ。

 一人で生きていきたかった。


 だが……悪くない。

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