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『余命三百六十四日の魔物です』

作者: くろめがね
掲載日:2026/02/04

この物語は、

連載を前提とした世界の、最初の一歩です。


ひとまず一話分として読める形にしていますが、

本当は、ここから先で試したいことがたくさんあります。


寿命が見える世界で、

生きることは、どんな意味を持つのか。

楽しむこと、迷うこと、誰かに関わることは、

時間を増やすのか、減らすのか。


答えは、まだ出ていません。

この話は、その実験の記録の始まりです。

――たぶん、世界でいちばん真面目に寿命を気にしています


 目が覚めた瞬間、俺は確信した。


 ――あ、これ、長生きできないやつだ。


 理由は三つある。

 一つ、体が小さい。

 二つ、牙が短い。

 三つ、頭の上に、見慣れない文字が浮かんでいる。


【種族:苔喰いモル】

【危険度:ほぼ無害】

【寿命:残り365日】


 寿命。


 よりによって、寿命。


 ステータスに載せる情報じゃないだろ、それ。

 せめて最後に書いてくれ。心の準備というものがある。


「……一年?」


 声を出したつもりだったが、

口から出たのは「キュル」という情けない音だった。

どうやら俺は、人間ですらない。


 苔喰いモル。

 名前からして弱い。

 苔を食う時点で、食物連鎖のだいぶ下の方だ。


 周囲を見渡す。

 洞窟。湿気。苔。

 敵はいない。代わりに希望もない。


 とりあえず、苔を食べてみた。


 ……うまくない。

 だが、空腹は満たされる。


【寿命:残り364日】


「減った!?」


 たった今、生きるために食べたのに、

寿命が一日減った。


 おい。

 生きる行為そのものが、寿命を削る仕様なのか。


 俺は冷静になろうとした。

 まず、状況整理だ。


 ・異世界転生

 ・雑魚モンスター

 ・余命一年

 ・生きてるだけでカウントダウン


 詰んでない?

 これ、最初から詰んでない?


 いや、待て。

 「一年」あるということは、

 「一年以内に何かをすればいい」ということだ。


 何を?

 知らん。


 だが、少なくとも

 このまま何もしなければ、確実に死ぬ。


 それだけは分かる。



 まず俺は、実験を始めた。


 魔法が使えそうな気がしたので、

 それっぽく手(前足)を振ってみる。


「キュル……」


 小さな火花が散った。


【魔法使用:寿命 −3日】

【寿命:残り361日】


「減りすぎだろ!!」


 三日。


 たった今、

 異世界ファンタジーの醍醐味を味わった代償が、三日。


 魔法、コスパ悪すぎないか?


 次に、走ってみた。


 洞窟の端から端まで、全力疾走。


【行動:特に意味なし】

【寿命:残り360日】


「意味ないなら減らすなよ!」


 生きるって、こんなに理不尽だったか?


 俺は苔の上に座り込んだ。

 いや、正確には座ったつもりだが、

 体が丸いので、転がった。


 ここで、一つの仮説が浮かぶ。


 寿命は、行動の「価値」ではなく、「消費」で減っている。


 つまり、

 ・魔法 → 消費が大きい

 ・無駄な行動 → 消費するだけ

 ・生きる → とにかく減る


 では逆に、

 減らない行動はないのか?



 次の日、俺は何もしなかった。


 苔も食べない。

 走らない。

 魔法も使わない。


 ただ、洞窟の天井を見ていた。


 ……暇だ。


 暇すぎる。


 だが、耐えた。


【寿命:残り360日】


「減ってない?」


 減ってない。

 確実に、昨日から変わっていない。


 俺は震えた。

 希望というやつで。


 つまり――

 何もしなければ、寿命は減らない。


 だが、何もしないと、

 苔喰いモルは餓死する。


 餓死は寿命以前の問題だ。


「……詰んでないけど、詰んでるな」


 その日、俺は苔を半分だけ食べた。


【寿命:残り359日】


 半分で一日減る。

 なるほど。

 寿命は量じゃなく、行為そのものに紐づいている。


 じゃあ、次の仮説だ。


 楽しいことは、寿命を減らすのか?



 俺は洞窟の外に出た。


 森は広かった。

 空は高かった。


 正直、少し感動した。


【感情変化:喜】

【寿命:残り359日】


「減らない?」


 喜んだのに、減らない。


 じゃあ、悲しんだら?


 無理だった。

 景色が綺麗すぎた。


 そのとき、人間の子どもを見た。

 森で迷っているらしい。


 普通なら逃げるところだが、

 俺は思った。


 関わったら、寿命が減るのでは?


 だが、関わらなければ、

 この子はたぶん、困る。


 俺は迷った。

 寿命一年の魔物が、

 余命フルの人間を助ける意味。


 考えた末、

 俺は鳴いた。


「キュル」


 子どもは俺を見て、笑った。


【感情変化:他者喜】

【寿命:残り360日】


「……増えた?」


 一日、増えた。


 俺は呆然とした。


 生きるための行動は寿命を削る。

 だが、誰かのための行動は、寿命を戻す。


 確定ではない。

 だが、可能性はある。


 俺はその夜、

 苔を食べながら考えた。


【寿命:残り359日】


 一日減ったが、悪くない。


 生き残る方法は、まだ分からない。

 でも――


 生きていていい理由は、

 少しだけ、分かり始めていた。


 頭上の数字は、まだ動いている。

 だが、俺は初めて、それを見上げて笑った。


「一年あれば、

 まあ、いろいろ試せるよな」


 苔喰いモルの余命一年は、

 こうして、実験の時間になった。

 まだまだ、死なない、死ねない、楽しめる。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


この作品は、

「強くなる」「勝ち残る」異世界転生ではなく、

どう生きるかを考え続ける連載のプロトタイプです。


寿命が増えたり減ったりする理由も、

最終的に延ばせるのかどうかも、

まだ確定していません。


主人公と一緒に、

失敗しながら、遠回りしながら、

生きる時間の意味を探していくつもりです。


もし、続きを読んでみたいと思っていただけたなら、

それだけで、この実験は成功です。


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