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わさ子の日常  作者: 水島素良


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2/2

わさ子の節分

 わさ子はいい年の中年、一人身である。なので、『豆まき』という文化が自分に関係があるとは思っていない。そういうことは大家族の、子どもがいる家だけやればよいと思っている。

 わさ子にとって節分は「いかピーを食べる日」でしかない。この時期になるとスーパーに豆菓子が大量発生するが、わさ子が好きな豆菓子はいかピーだけだからだ。

 だから、数日前からいかピーだけはしっかりと確保し、当日は節分のことなどすっかり忘れていた。

 朝のテレビで、

「今日のラッキーアイテムは寿司です」

 と自分の星座の時に言っていたので、今日は帰りにスーパーで寿司を買ってくることに決めた。

 その決断は、いつもなら何の問題もなかった。

 今日が節分でさえなければ。


 仕事が終わり、わさ子は近所のスーパーに向かった。1日の終わりをラッキーアイテムの寿司で締めくくりたい。

 いつもなら、安い寿司パックや500円くらいの海鮮丼が置いてあるはずであった。

 しかし、今日は節分である。

 いつの間にか『恵方巻』なるものが誕生し、売り場を埋め尽くしていた。弁当コーナーから寿司コーナーまで、全てが、謎の巻物一色になっている。

 しかも、高い。

 小さいものでも698円。あとは980円がメインだ。

 非正規貧困のわさ子には痛い値段である。

 わさ子はじっくりと恵方巻の列を眺め──事態を察して、慌てて普通の寿司を探した。しかし、

「な、ない!」

 わさ子は売り場を何度も往復しながら、心で叫んだ。

「普通の寿司が、一つもない!」

 それはわさ子には予想外どころか、理解不能な現象であった。実は、わさ子が若い頃には豆まきはあっても『恵方巻』は存在していなかったのである。『節分に恵方巻を食べる』というのは、けっこう最近になってできた習慣(?)で、昔はそんなものはなかったのである。

 なのに、いつの間にか現れた巻物が、こんなにも売り場を席巻している。普通の寿司を追いやるほどに。

 わさ子は怖くなった。新しい習慣(?)がいつの間にか、こんなにも定着していたとは。

 なぜだ、どうしてだ。

 わさ子は納得できなかった。

 いつから節分は、

『寿司が買えない日』になったのだ!?

 納得はできないが、夕飯は買わなくてはいけない。作るのはもうめんどくさい。しかし、恵方巻は買いたくない。今日のラッキーアイテムは寿司だ。なんとかせねば。

 多少なりとも寿司っぽいものはないかと考えた結果、『ネギトロ太巻』を買うことにした。

 理由:一番安いから(それでも498円もする!)。

 恵方巻は信じないが、朝のテレビの星占いは信じる。それがわさ子ワールドである。

 わさ子はとぼとぼ歩いてボロ家に帰り、暖房をつけてお茶を飲むためのお湯をわかした。寿司にはやはり緑茶がいい。ネギトロ巻だって寿司の一種だ。

 恵方巻は吉になる方向を向いて食べるが、わさ子はそんなことはしない。未だに新しい習慣(?)が身についていないというか、身につけるのを拒否すらしている。だって昔はそんなものなかったんだもん。節分は豆まきする日だったけど、恵方巻なんて聞いたことなかったもん……。

 暇つぶしに「恵方巻はいつから売り出されたか」をネットで調べると「1998年に某大手コンビニが全国で販促したのがきっかけ」で「それまでは関西のごく一部でしか行われていなかった」と書いてあった。

 つまり、わさ子が「昔はなかった」と思ったのは正しいのである。1998年には、わさ子もまだ若者だった。そして当時の節分には『豆まき』はあっても『恵方巻』はまだ普及していなかった。

 それが、わずか30年弱?で、いかにも昔からあるような習慣(?)として扱われている。

「クゥッ」

 わさ子は変な声を出した。今日自分が普通の寿司を買えなかったのは、コンビニのせいだったのか!

 コンビニの影響力、恐るべし。

 新しい習慣を作ってしまうとは。

 それ以上考えてもどうしようもなさそうなので、わさ子は恵方巻について考えるのをやめた。テレビを見ながらネギトロ巻にかぶりつき、茶をすすって、だらしなくいかピーをむさぼりながら節分の夜を過ごしたのだった。

 こんなわさ子に幸あれ。

 恵方巻に違和感を覚える全ての日本国民に幸あれ。





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