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追放された無能召喚士、最弱スライムの中に双子の魔王がいました  作者: 桜塚あお華


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第14話 魔王たちと召喚士

 洞窟から村への帰路は、行きとは比べものにならないほど静かだった。

 だがその静けさには、言いようのない緊張感が張りついている。

 先頭を歩くのはルージュ。

 その背を追うようにガルドが続き、ルーナはガルドのすぐ横にぴったりと寄り添っていた。

 まるで守るように。


「……なあ、ルージュ」


 ガルドが意を決して声をかけると、ルージュは歩みを止める。

 振り返らないまま、静かに立ち尽くしていた。


「お前さ、何か……俺に望むこととか、ないのか?たとえば、昔の魔王みたいに世界を支配したいとか……」


 ルージュは簡潔に答える。


「ございません」


 あまりにあっさりとした返答に、ガルドは思わず言葉を失った。

 続くルージュの声には、感情の起伏すらなかった。


「僕はガルド様の命に従うのみ。それが僕の行動原理です。世界を支配せよと仰せになれば従いますし、村を守れと命じられれば、それにも従います」


 それは機械のように淡々としていながらも、絶対的な忠誠を示す声だった。

 その言葉の重みが、ガルドの胸にじわじわと広がっていく。


 ――彼は本気で、自分の命令しか見ていないんだ。


 日が落ち、森の中は茜色に染まっていく。

 三人は木陰に焚き火を起こし、ひとときの休息を取っていた。


 パチパチと薪が弾ける音だけが、静かな空気を満たしている。


 火の番をするガルドの隣に、ルーナがいつものようにちょこんと座り込む。

 そして、遠慮もなく彼の腕に頭を預けた。


「ふふっ、あったかい……ご主人様の隣が、いちばん落ち着きます」

「……そうか」


 照れくさそうに笑いながら、ガルドはルーナの頭をそっと撫でる。

 その瞬間、ルージュが無言で近づいてきて反対側の隣に座った。

 音も気配もなく、影のように。


「……なにしてるの、お兄ちゃん」


 ルーナが不機嫌そうに睨む。


「ご主人様は、私の隣がいちばん落ち着くって、さっき言ってくれたばかりです」


 ルージュは焚き火をじっと見つめたまま、微動だにしない。


「……まさか、ご主人様と私だけの時間を邪魔する気じゃないでしょうね?」


 ルーナはガルドの腕をぎゅっと掴んで抗議の姿勢を見せる。


「無意味な行動は慎むべきです、ルーナ……ガルド様を護ることが、僕にとって最優先事項です。そして、この距離が最も効率的にそれを達成できると判断しました」


 即答するルージュの言葉は、いつも通り冷淡で理屈に満ちていた。


「無意味じゃない! これは、ご主人様と私の『癒しの時間』なんだから!」


 怒ったように言い返すルーナだったが――


「ルーナの魔力は不安定です。ご主人様を護るどころか無意識に傷つける可能性すらあります。その点、僕の魔力は完全に制御可能です」


 事実を突きつけるようなルージュの冷静な指摘に、ルーナはむくれたまま言い返せなくなる。


「……お兄ちゃん、意地悪。ご主人様だって私の方が好きに決まってるのに」


 甘えるようにすり寄るルーナにガルドは困ったような笑みを浮かべた。


「わかった、わかったから。ふたりとも、ケンカするなよ……俺にとっては、どっちも頼りになる仲間なんだ」


 その言葉に、ルーナの顔がぱっと明るくなる。

 そして、ルージュの無表情な顔にも、ほんのかすかに――安堵の色が差したように見えた。

 ガルドは、焚き火を見つめながら微笑む。

 勇者パーティーにいた頃、誰かをなだめたり、必要とされたことなんて一度もなかった。

 ただ任務をこなし、勝利のために動くだけの毎日。


 だが今――このふたりの魔王は、自分という存在を中心にして、感情をぶつけ合っている。


 それが、たまらなく嬉しかった。

 かつて『無能』と蔑まれ、誰からも必要とされなかった自分が、今は――


「……ありがとうな」


 その呟きは、焚き火の音にかき消されて誰にも届かなかったが、

 ガルドの胸の中には、確かな温かさが宿っていた。


 初めて、自分の『居場所』を見つけた気がしていた。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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