第8話 自由という名の檻
こんばんは。
物語はときに鏡のように、読んでくれる人の心を映し出します。
『鼓動の絆』の一節が、あなた自身の心にそっと重なりますように。
数日後の放課後。校門を出た瞬間、見慣れた顔ぶれが視界に入る。遼とその仲間たちだ。制服を着崩し、笑い声を響かせながら屯する彼らの姿は、教師や生徒の目を意識していない。
遼がこちらを見つけると、すぐに口元に薄い笑みを浮かべて声をかけてくる。
「よ、咲菊。また一人か?」
挑発めいた軽い調子。わたしはわざと眉を寄せ、少し冷たく返す。
「……そうだけど?」
言い返しながらも、心のどこかでそのやり取りを楽しんでいる自分に気づいてしまう。
「なら、またゲーセンでも寄ってかねえ?」
遼はさりげない口調で誘う。
ほんの一瞬、断ろうとした。でも、昨日の自分の笑顔や、彼らの中で味わった妙な自由を思い出す。
「……少しだけならね」
わざと迷ったふりを装って答えると、遼の顔がぱっと明るくなる。
「いいじゃん! 行こうぜ」
ゲーセン。眩しいネオンと騒がしい電子音が、外の世界を忘れさせる。
最初に挑戦したのはクレーンゲームだった。
「これ、どうせ仕組まれてるでしょ」
「いいからやってみろって」
遼に促され、わたしは渋々ハンドルを握る。最初は笑われるほど失敗したけれど、挑戦を重ねるうちに手つきが変わっていく。指先が自然と正確な位置を掴み、爪がぬいぐるみをしっかりと持ち上げる。
「そこだ!」
遼が思わず叫ぶ。
ついに大きなぬいぐるみが穴に落ちると、周囲から拍手と歓声が上がった。
「やったじゃん、咲菊!」
「お前、センスあるな。これでお前も常連だ」
笑顔と祝福に包まれ、胸の奥がふわりと温かくなる。――でも同時に、心の片隅で父の顔がよぎった。
(こんなことしてていいのかな……)
その声をすぐにかき消し、サイダーの冷たさを喉に流し込む。
夜。遼は次の提案を口にした。
「なあ、ゲーセンもいいけど、別のとこ行ってみねえ?」
「どこ?」
「カラオケとかさ。もっと楽しいとこ、あるだろ?」
迷いが胸に走る。けれど、みんなの視線がわたしに集まった瞬間、後には引けなくなった。
「……少しだけなら」
わたしたちは繁華街の外れにある安っぽいカラオケボックスに入った。薄暗い個室、安い照明。コンビニで買った菓子と飲み物を広げ、誰も本気で歌わず、ただ笑い合うだけ。
担任の愚痴、アイドルの話、流行りのダンス。どうでもいい会話なのに、なぜか心が軽くなる。
(こんなに自由でいいの?)
罪悪感と背徳感。その両方が入り混じり、妙な快感に変わっていく。
ふとスマホを見れば、もう九時を回っていた。
「やば……もう帰らなきゃ」
「送ってこうか?」遼が少し真剣な声で言う。
「大丈夫、ありがとう」
わたしは笑ってごまかし、一人で夜道を歩き始めた。
外に出ると、街は昼間の喧騒を失い、寂しいネオンだけが瞬いている。肌寒い風が頬を撫でるたび、心の奥でざわめきが広がった。
見上げた夜空には、丸い月が浮かんでいた。冷ややかに、けれどどこか優しくわたしを照らしている。
胸に芽生えた興奮と不安。その両方を抱きしめながら、わたしは足早に家へと向かった。
【予告】
「自由を手に入れたはずの咲菊。しかし、その代償として父との距離はますます広がっていく。
次回、リビングで交わされる言葉は、彼女の心にどんな棘を残すのか――。」
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