第7話 ネオンに染まる夜
ジュニ佳です。
今日も『鼓動の絆』の世界に足を運んでくださり、ありがとうございます。
ここで紡いだ言葉が、あなたの明日への小さな勇気になりますように。
ゲーセンは校舎から離れた繁華街の外れにあった。近づくにつれて、通りを染めるネオンがギラギラと点滅し、タバコの匂いと油っぽい屋台の匂いが入り混じる。耳障りな音楽が遠くからも響き、昼間の学校とはまるで別世界の空気が流れている。
「どうだ、結構イケてるだろ?」
男子生徒が得意げに笑い、振り返る。
「まあ……普通」
わざとそっけなく答えたけれど、胸の奥では、知らない世界に足を踏み入れる興奮と、不安のざわめきがせめぎ合っていた。
中に入った瞬間、さらに圧倒される。無数の電子音と甲高い叫び声が、心臓の鼓動と同じリズムで頭に響く。赤や青のライトが乱反射して視界を焼き、床は絶えず足音で揺れているように思えた。
息苦しいほどの熱気とタバコの煙がまとわりつき、体がじんわりと汗ばんでくる。
「これでもやってみろよ」
男子生徒が射的ゲームの銃を押しつける。
「わたし、こういうのは……」と一度は戸惑った。だが、無理やり握らされた銃の冷たい感触が、逆に好奇心を刺激する。
最初は的を外してばかりだったが、次第にコツを掴むと、弾が軽やかに的を弾き飛ばす。
「お、やるじゃん! 才能あるんじゃねえ?」
男子生徒が驚いたように笑い、隣の女子生徒も感心して頷く。胸の奥に、小さな快感がじわりと広がる。
レースゲームでは、ハンドルを握る手が汗で滑りそうになるほど力が入り、ゴール直前で一位を奪い取った。アクションゲームでは彼らと息を合わせ、画面の中の敵を次々と倒していく。その一体感に、思わず笑みがこぼれてしまう。
「お前、案外ノリいいじゃん」
男子生徒が缶サイダーを差し出す。
「これ、サービスな。今夜の戦友の乾杯だ」
「戦友って……」と呆れつつも、冷たい缶を受け取ると、喉を滑る炭酸が妙に心地よかった。
気づけば、時計はすでに九時を回っている。スマホの画面に浮かんだ数字を見て、胸がひやりと冷える。
「やばい、もうこんな時間」
「そろそろ帰るか」男子生徒も腕時計を見て言う。
「じゃあ、わたしはこれで」
軽く会釈して外に出る。
夜の街は昼間の喧噪が嘘のように静まり返っていた。ネオンの光がまばらに瞬き、どこか取り残された夢の残骸のように虚しく揺れている。冷たい夜風が頬を撫で、背筋をぞくりとさせた。
胸の奥には、初めて味わう開放感が渦巻いている。それは自由のようで、同時に背徳の苦味を伴っていた。
(これが……わたしの求めていたものなの?)
ふとそんな疑問が生まれる。背後から誰かに見られているような気がして、歩幅が自然と速まる。やがて、家の明かりが視界に入った瞬間、足は小走りに変わっていた。
その胸のざわめきが、次に訪れる闇の序章だとは、まだ知る由もなかった。
【予告】
「夜の街で初めて“自由”を味わった咲菊。
その興奮は甘く、そして危うい――。
次回、彼女はさらに深い夜の世界へと足を踏み入れていく。」
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