第1話 十七歳の反抗
こんばんは、ジュニ佳です。
今日も『鼓動の絆』を更新しました。
読んでくださるあなたがいるから、物語は生きています。
心のどこかに、やさしい灯りがともりますように。
玄関のドアが乱暴に閉じる音が、静まり返った家全体に響き渡る。
その音がやけに重たく感じるのは、わたしの心の中が荒れているからだろう。
「お帰り、咲菊。随分と遅かったな」
リビングから父の声が聞こえる。いつもの落ち着いた声なのに、今のわたしには針のように煩わしい。
返事をせず、肩から鞄を放り投げた。鈍い音が床に響き、背中に父の視線を感じる。それを無視して冷蔵庫を開けると、冷気が足元に流れ込む。頭が少し冷えるかと思ったが、むしろ苛立ちは募るばかりだった。
「ちょっと、話があるんだが」背後から声が飛ぶ。
「何?」わざと氷のような声で返した。
ペットボトルの水を取り出し、一口飲む。喉を通る冷たさが妙に重たく感じる。父の視線は、顕微鏡の下に置かれた標本を観察するように背中に突き刺さってくる。
「お小遣いのことだけど、もう全部使い切ったのか?」
手が止まる。振り返り、肩越しに父を睨む。
「使ったけど、それが何?」
投げつけるような声に、父の眉がわずかに動いた。
「先週渡したばかりじゃないか。もっと計画的に使いなさい」
「計画的?」鼻で笑う。
「お父さんみたいに節約ばっかりしてる人生なんて絶対イヤ」
その言葉に父の顔が一瞬硬直する。刺さったのだろうが、わたしは構わない。
「節約は悪いことじゃない」父は声を落ち着けようと努めている。
「お金はいつ必要になるか分からないんだ。だから貯めておくのは大事だ。お前も十七歳なんだから、自分の将来を考えて行動しなさい」
「将来? 考えてるよ」思わず声を荒らげる。
「ちゃんとオシャレして、ちゃんと自分を表現してる。それが、お父さんには分かんないんでしょ!」
真っ赤なベースボールジャケット、短いプリーツスカート、厚底ブーツ。鏡に映るたび、わたしは自分の存在を確かめていた。だけど父にはただの浪費にしか見えない。
「その服装だってどうなんだ?」父の目が服をなぞる。
「街で歩くのに派手すぎないか?」
「じゃあ、お父さんが私に何を着たらいいのか決めるの?」
「そうじゃない。少し控えめにしたらどうだって――」
「控えめ?」笑いながら言い返す。「これが私の個性なの! お父さんの時代遅れを押し付けないで」
父の表情が険しくなる。
「そんな服を買うためにお小遣いを浪費して、もっと大事なものに使え!」
「父さん、ファッションは私にとって自分を表現するのに重要なの。それが何か問題?」
「問題だ!」父の声に鋭さが宿る。
「ファッションばかりに金を使えば、将来困るのはお前だ!」
「将来、将来って、うるさい!」
感情が爆発し、近くのクッションを掴んで父の足元へ投げつける。自分でも驚いたが、もう止められなかった。
父は深く息を吐き、静かな声で言った。
「確かにお前の自由かもしれない。でも自由には責任が伴う」
「責任?」吐き捨てるように睨み返す。
「お父さんが毎日偉そうに文句を言うのが責任なの?」
「母さんがいないから、お前が間違った道に行かないように注意しているだけだ」
その瞬間、空気が変わった。
母の話題――名前を出しただけで、部屋の温度が一度下がったように感じる。
「わたしがやることは全部気に入らないんでしょ?」
「そうか……お前にはそう見えるのか」父の声は弱々しかった。
「お母さんがいないからって、それはただの言い訳じゃないの?」
父の目がわずかに揺れる。
「母さんの話はするな」
低い声が部屋を支配し、重たく響く。その声には怒りだけでなく、深い悲しみが滲んでいた。
「何で? 私だってお母さんの娘なのに。お母さんがいなくなったのは、私のせいじゃない!」
父はしばらく黙り、天井を仰ぐ。深く息を吐いた後、静かに言う。
「お前が生きている。それがどれだけ意味のあることか……わかってくれとは言わない。でもな、お前が生きているだけで十分なんだ。お父さんは、それ以上何も望まない」
胸が締めつけられる。けれど認めるのが怖くて、わたしは顔を背けた。
「お父さんなんて、何も分かってない!」
吐き捨ててリビングを飛び出し、ドアを乱暴に閉める。階段を駆け上がる足音が、怒りと混乱で揺れる心臓に重たく響いた。
【予告】
ここまで読んでくださってありがとうございます!
父と娘の激しいやり取りから始まりましたが、咲菊の反抗はまだ序章に過ぎません。次回は、現代ならではの「あるもの」が彼女と父の間に新たな火種を生みます。
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