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第15話 夜を裂くサイレン

深夜、静まり返った家。

時計の針が進む音だけが、現実を繋ぎ止めていた。

その沈黙を破った一本の電話。運命は、再び“鼓動”を打ち始める。


ブクマや評価をお待ちしてます!


 自宅の時計が深夜を指していた。

 リビングには、僕の呼吸と時計の針の音しかない。

 娘の帰宅を待ち続けるその沈黙を、突然、携帯の着信音が切り裂いた。

「秋ノ宮さんのお宅でしょうか?」

「はい、秋ノ宮ですが」

 電話の向こうの声には、かすかなためらいがあった。

「お嬢さんの件で、重要な進展がありました」

 その言葉に、血の気が一瞬で引く。

「娘は――咲菊は、大丈夫なんですか?」

「それがですね……」

 相手は言葉を飲み込み、低く続けた。

「とにかく倉庫街の現場へお越しください。詳細はそこで」

「咲菊に何があったんですか?」

「……覚悟をしてください」

 通話が途切れた。

 覚悟――その言葉の意味を考える前に、体が勝手に動いていた。

 震える手で車の鍵を掴み、夜の冷気を切って玄関を飛び出す。

 どれほどの速度で運転したのか覚えていない。

 気づけば、無数のパトカーの光が脈打つ倉庫街に立っていた。

 赤と青の閃光が夜気を裂き、遠くでサイレンが悲鳴のように揺らめいている。

「秋ノ宮さんですね?」

 警察官の低い声。

「こちらへどうぞ」

 その沈んだ声のトーンが、これから目にする現実の重さを物語っていた。

 倉庫の中は血と鉄の匂いで満ちていた。

 薄暗い蛍光灯の下、冷凍庫の巨大な扉が不気味に立っている。

 その前で、一人の刑事が青いクーラーを抱え、僕を待っていた。

「これが……お嬢さんか、ご確認ください」

 蓋がゆっくりと開かれた瞬間、世界が静止した。

 そこにあったのは、咲菊の――頭。

 血に濡れた髪、青ざめた唇。

 閉じられたまつげの下に、かつての笑顔の影が微かに残っていた。

「咲菊……」

 膝が崩れ、床が遠のく。

 喉の奥から絞り出すように声が漏れる。

「嘘だ……嘘だろう……!」

 何度も娘の名を叫ぶ。声が壁に跳ね返り、倉庫全体が悲鳴のように揺れた。

 そのとき――

 クーラーの中で、微かな動きがあった。

「……え?」

 覗き込むと、咲菊の胸の奥で何かが脈打っていた。

「生きている……!」

 僕の声が震える。

「まだ、咲菊は生きている!」

 心臓医としての本能が覚醒する。

 涙で滲む視界の奥で、冷静な判断が戻ってくる。

「大学病院へ運ぶ! 今すぐだ!」

 刑事に叫び、クーラーを抱えて走る。

「秋ノ宮さん! 護衛をつけます!」

 二台のパトカーがサイレンを鳴らし、夜を切り裂く。

 車に飛び乗り、助手席のクーラーを固定する。

 ハンドルを握る手は震えていたが、視線はまっすぐ前を見据えていた。

「待っていろ、咲菊……」

 僕は唇を震わせながら、何度も繰り返した。

「絶対にお前を救う。何があっても――この心臓を止めさせはしない」

 車のエンジン音が夜を貫き、闇を切り裂いて走り抜けていった。


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