第12話 閉ざされた倉庫の鼓動
倉庫の奥から響く低い声。
その瞬間、咲菊の世界は“放課後”から“悪夢”へと変わった。
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「おい、もう準備は出来たか?」
倉庫の奥から低く無骨な声が響く。鈍い蛍光灯が点滅し、暗がりから複数の影が浮かび上がった。黒い作業服を着た無表情な男たち。目だけが冷たい光を宿している。
「何……この人たち……?」
わたしは無意識に後退りした。
そのうちの一人が遼の肩に手を置き、顎でこちらを指す。
「これが例の子か?」
「ああ、約束通り。新鮮なもんだよ」遼は肩をすくめて笑う。
言葉の意味が理解できない。ただ、その態度と視線が、冷たい刃のようにわたしの体を撫でていく。
「ちょっと待って……何の話をしてるの?」
声が震えた瞬間、男たちは無言で歩み寄ってきた。
わたしは咄嗟に身を翻し、倉庫の隅へと逃げ込む。
「おいおい、お嬢ちゃん、どこへ行くんだよ?」
ひとりがあざ笑う。
足が古い家具にぶつかり、転びそうになる。無数のコンテナや鉄箱が積み上げられた迷路の中を、必死で駆け抜ける。
「やめて!」
叫び声は広い倉庫に吸い込まれ、かえって不気味な静けさを増幅させる。
「止まれ!」怒声が反響し、心臓を鷲掴みにする。
「近寄らないで!」叫んでも、男たちはゆっくりと距離を詰めてくる。
足元の木片に躓きながら、さらに奥へと走る。コンテナの隙間に滑り込み、息を殺した。
「おい、静かにしろ。この近くに隠れているはずだ」
爪先立ちで迫る足音。自分の鼓動だけがやけに大きく響く。
彼らが通り過ぎた瞬間、胸を撫で下ろす。だが次の瞬間、ボイラー脇のレンチを蹴ってしまい、甲高い金属音が床に跳ねた。
「あそこだ!」
わたしは出口を目指して突っ走る。しかし息が切れ、足がもつれる。背後には男たちの足音が迫ってくる。
「もう勘弁しろ!」
倉庫の隅に追い詰められたわたしは、最後の力を振り絞って棚を押し倒す。金属音が響き、男たちの足を一瞬止めるが、それも束の間だった。
黒い影が迫り、冷たい手がわたしの腕を掴む。
「くそっ……放せ、はなせーっ!」
最後の抵抗もむなしく、二人がかりで両腕を固定され、床に押さえつけられる。
「お嬢ちゃん、もうお遊びは終わったんだよ」
布が口元に押し当てられ、息苦しさがわたしを襲う。意識が遠のく。
薄れゆく視界の中で浮かんだのは、父の顔。口うるさく干渉してきた父。けれどその奥には、確かにわたしを守ろうとする優しさがあった。
(お父さん……)
声にならない声が喉で途切れ、わたしの意識は暗闇に沈んでいった。
父の警告を無視した咲菊は、ついに“闇”に呑まれていく。
次回――目覚めた彼女を待つのは、鉄と硝子の檻。
そこから始まるのは、ただの誘拐ではなく“鼓動”を賭けた戦いだった。
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