第11話 錆びた扉の向こう
錆びた鉄の扉の向こうで、彼女を待っていたのは「信頼」と「裏切り」の境界線だった。
誰かを信じることは時に、闇を開ける鍵になる――。
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「大丈夫だって言ってるだろ」
遼は笑いながら振り返り、片手をひらりと上げて合図した。
足を止めたのは、行き止まりに立つ錆びついた鉄扉の前だった。長い年月を経て赤茶色に変色し、塗料は所々剥がれ落ちている。触れるだけで皮膚に錆がこびりつきそうだ。
「……これ、何の建物?」
曇り空の下、月明かりすら届かない。倉庫はただ巨大な影の塊となって佇み、息を潜めているように見えた。
「俺の仲間が管理してる場所さ。秘密基地みたいなもんだよ」
遼はポケットから古びた鍵を取り出す。金属が触れ合う音がやけに冷たく響き、錆びた鍵穴に差し込まれた瞬間、「ガリッ」と嫌な音がした。
「カチャリ」と小さな解錠音がしたかと思うと、遼が肩で押し開ける。
扉の隙間から、ひやりとした空気が流れ出した。鉄の匂いと、長く閉ざされていた埃の匂いが混じり合い、鼻を突く。蛍光灯が数本だけ天井からぶら下がっていたが、光は弱々しくちらつき、倉庫の闇を追い払うには心許ない。
「ほら、入れよ」
遼が口元に笑みを浮かべ、扉を押さえたまま促す。
胸の奥に小さなざわめきを覚えながらも、わたしは一歩足を踏み入れた。床には埃が厚く積もり、足音が鈍く響く。古びた鉄箱や壊れた家具が無造作に置かれ、壁際には布で覆われた大きな物体がいくつも並んでいる。その布の隙間から、油のような臭いが漂ってきた。
「ここ……本当に仲間が管理してるの?」
不安を隠しきれずに尋ねる。
「まあな」
遼は曖昧に笑い、布で覆われた物体の前に立つ。両手をかけ、一気に布を引き剥がした。
現れたのは、古びたアーケードゲーム機だった。液晶はひび割れ、ボタンは黄ばんでいる。だが数台が並ぶ姿は、異様な存在感を放っていた。
「すごいだろ? これ、俺たちの隠れ家なんだ」
遼は満足げに言った。
「……でも、どうやってこんなの手に入れたの?」
思わず口に出すと、遼は一瞬だけ視線を逸らし、すぐに薄笑いを浮かべた。
「まあ、色々とな」
その曖昧な答えに胸がざわつく。けれど「お前だけに見せる」という言葉がまだ耳に残っていて、強く問いただす気にはなれなかった。
「触ってみろよ」
促されるまま、わたしは一歩近づく。指先が埃まみれのコントローラーに触れた瞬間――。
背後で「ガチャリ」と重い金属音が響いた。
慌てて振り返ると、扉の前に人影が立っている。錆びついた鉄扉がゆっくりと閉められ、鍵が掛けられる音が倉庫全体に不気味に反響した。
「……誰?」
声が震える。
けれど遼は振り返らなかった。代わりに、口元をわずかに歪め、不気味な笑みを浮かべた。
錆びた扉の奥で、笑顔は仮面へと変わる。
信じた相手が、最も深い闇へと導くとき――咲菊の運命は静かに軋みはじめる。
次回、倉庫が目を覚ます。その鼓動は、彼女自身のものとなる。
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