第10話 暗闇の招待状
今後は週2回(月曜・木曜の夜)に更新予定です。
次第に遼たちと過ごす時間が増えていく。ゲーセンやカラオケでの夜遊びは、わたしにとって退屈で何も起きない日常から抜け出す小さな反抗だった。意味なんてなくても、平凡な日々から抜け出せるだけで十分だった。
仲間の女の子たちはその場の楽しさだけを求めているように見えたけれど、遼だけは違う。ふとした瞬間に低い声で誰かと電話をし、短く何かを指示している。その横顔には、普段の軽さとは違う影がちらついていた。
「遼、何話してたの?」電話を切った後、気になって尋ねると、彼はすぐに無邪気な笑顔を返してくる。
「ただのバイトの話だよ。心配するなって」
その笑顔に、わたしはいつも拍子抜けする。追及しようと思っても、結局は信じてしまうのだ。
その夜、繁華街の雑踏を歩いていたとき、遼が不意に振り返って言った。
「そうだ、咲菊。今からちょっと面白い場所に行かないか?」
「面白い場所?」怪訝そうに聞き返す。
「ああ。他の奴には見せられないけど、特別にお前だけにな」
「特別に……?」
「ああ、ちょっとヤバいけど、絶対楽しめるって保証する」
遼の瞳が、街のネオンを映して妖しく光る。
一瞬ためらったけれど、「お前だけ」と言われた言葉に心が揺れた。誰かに特別扱いされることなんて、今までなかったから。
「……わかった。行ってみる」
「お、いいじゃん!」遼は満足げに笑い、仲間たちに声をかける。「悪い、今日はここで解散だ」
「えー、もう?」
「バイト入ったんだよ」
彼の言葉に疑いを持つ者はいなかった。みんな不満足そうに散っていき、残されたのはわたしと遼だけだった。
繁華街のネオンを背にして歩き出す。昼間は人で溢れていた通りも、夜になると雰囲気が一変する。表面だけを照らす眩しい光、その裏に広がる濃い影。人の声が遠のき、代わりに耳に入るのはどこかの店の換気扇の低い唸りと、風に転がる空き缶の金属音だった。
遼の歩みは迷いなく速い。けれど、わたしの胸の奥では次第に不安が広がっていく。
「遼、本当にこっちで合ってるの?」声が少し震える。
遼は振り返らずに片手をひらひらさせただけだった。
「大丈夫だって。すぐそこだから」
大通りを抜けると、辺りは急に静まり返った。海風が冷たく頬を撫で、潮と錆の匂いが鼻を突く。倉庫群のシルエットが闇に沈み、まるで巨大な怪物が並んでこちらを見下ろしているようだ。
足元には、誰が捨てたのか分からないガラス瓶が割れたまま転がっている。踏みしめればすぐに鋭い音を立てそうで、足取りを慎重にせざるを得なかった。
咲菊の心臓が高鳴る。父に叱られた時とは違う種類の鼓動。未知の場所に踏み込む怖さと、そこに惹かれてしまう期待。その相反する感情が渦を巻き、わたしを遼の背中へと突き動かす。
「……ここ、本当に大丈夫なの?」
もう一度問いかけた声は、海風に溶けて頼りなく響いた。
【予告】
「遼に導かれ、足を踏み入れた倉庫街。
そこで咲菊を待っていたのは――“特別な招待”の名の下に仕組まれた罠。
次回、錆びた扉の向こうで、彼女の運命が大きく揺らぎ始める。」
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