表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

第9話 閉ざされた扉の向こうで

第10話以降は週2回(月曜・木曜の夜)に更新予定です。

 いつものようにゲーセンやカラオケで過ごし、遅い時間に帰宅した夜。玄関のドアをそっと開けると、リビングから灯りが漏れている。普段ならとっくに寝ている時間だ。胸の奥に、ひやりと嫌な予感が広がった。

「咲菊、ちょっと来なさい」

 低く静かな声がリビングから響く。

 足が止まる。逃げ出したい気持ちを抑えながら靴を脱ぎ、鞄を置いてリビングへと進む。部屋に入ると、父がダイニングテーブルに座り、新聞をきっちりと畳んでこちらを見ていた。大きな手が強く組まれ、その指先がわずかに震えている。表情には不機嫌さと、押し殺した心配が混ざっていた。

「最近、帰りが遅いな」

 父はできるだけ穏やかに問いかけてくる。「どこに行ってるんだ?」

「別に、友達と遊んでるだけ」

 そっけなく答え、視線を合わせない。

「友達? 誰だ?」

 問いの鋭さが増す。

「ただのクラスメイトだよ。なんでそんなに気になるの?」

 冷静を装うが、父の眼差しはまるで顕微鏡の下に置かれた標本を覗き込むように、逃げ場を与えない。

「気になるさ」

 父の声が少し強くなる。「夜遅くまで遊ぶような連中がどんな奴か、父親として気にしないわけがない。それに今までは、部活が終わったら真っ直ぐ帰ってきただろう」

 胸の奥に小さな棘が刺さる。苛立ちがじわじわと膨らむ。

「お父さんには関係ないじゃん!」

 堰を切ったように声が荒くなる。

「関係ない?」

 父の眉間に深い皺が刻まれる。「お前の父親である以上、関係ないわけがない!」

 その言葉が胸に重く響き、怒りが一気に燃え上がった。

「うるさい! お父さんは何も分かんないくせに!」

 叫ぶと、父の顔に驚きと困惑が一瞬浮かぶ。目の奥に隠しきれない悲しみがにじむのを、わたしは見てしまった。

 居たたまれなくなり、リビングを飛び出す。

「咲菊! 戻って来なさい!」

 背中に父の声が鋭く突き刺さる。その怒り混じりの響きには、かすかな震えがあった。

 階段を駆け上がり、部屋のドアを勢いよく閉める。「バタン!」という音が家中に反響し、心臓が激しく脈打つ。

 暗闇の中でベッドに腰を下ろす。スマホの画面が青白く光り、指先に冷たさが残る。けれど、今日はチャットを開く気になれなかった。

「お父さんには何も分かんない」

 そう呟きながらも、胸の奥がざわつく。怒鳴り声と一緒に、あの一瞬の父の表情――悲しみが浮かんだ眼差し――が消えない。

 毛布を頭まで被り、目を閉じる。闇の中、なぜか母の笑顔が一瞬よぎった。まるで、父の顔の影と重なり合うように。

「……違う。そんなはずない」

 強く息を吐き出し、その像を打ち消すように目を固く閉じる。

「お父さんなんて、私のことなんか何も分かってないんだから」

 その言葉を自分に言い聞かせながら、いつしか眠りに落ちた。


【予告】


「父との衝突がますます深まり、家の中で居場所を失う咲菊。

そんな彼女に差し伸べられるのは――遼の手。

次回、彼の“特別な誘い”が、咲菊を取り返しのつかない夜へと導いていく。」


ここまでお読みいただきありがとうございます。ブクマや評価で応援してくれると励みになります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ