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守る華・守られる花  作者: ミシル
第二章 すずらん

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90.陽月国の皇帝と私の現代

年が明けまもなく、守華を心から喜んで迎え入れてくれた陛下が、病に倒れた。


その病は、あの無観が少しずつ仕込んでいた毒のせいだった。


陛下は必死に耐えた。けれど、その努力も虚しく、静かに息を引き取った。


陽月国は、深い悲しみに包まれた。街の空気は重く、民衆の嘆きが城壁の外まで響き渡るようだった。


盛大な葬儀が執り行われ、貴族も民衆も、誰もが涙を隠せなかった。


守華も胸が張り裂けるような悲しみに襲われ、涙を流した。しかし、蘭明の方がどれほど辛いかと思うと、そっと彼を抱きしめ、彼の肩越しに小さな声で慰めを告げた。


蘭明は守華の腕に身を委ね、深い悲しみと寂しさに沈みながらも、守華の温もりにかろうじて心を支えられていた。


3月1日。


蘭明 24歳

守華 22歳


そして、今日、蘭明が皇帝陛下の座についた。


宮廷の外には赤い絨毯が敷かれ、その上を白い漢服にマントを羽織った蘭明が、堂々と歩を進める。

その姿はまるで太陽の光を背負い、気高く輝く王そのものだった。守華は思わず息を飲む。——また、惚れ直してしまいそうだ、と胸が高鳴る。


守華も白い漢服に身を包み、後ろからその堂々たる姿を見守る。

階段を一段一段、確かな足取りで昇っていく蘭明。

その背中から放たれる威厳と優雅さに、守華はただ見惚れるしかなかった。


上まで登りきると、蘭明は堂々と体を向け、宮廷に集まる臣下たちや民衆に視線を巡らせる。

その瞬間、太陽の光が蘭明を照らし出し、まるで一つの光の柱のように煌びやかに輝いた。

宮廷に集まった全員の視線が蘭明に釘付けになり、その圧倒的な存在感に誰もが息をのむ。


守華はその姿を見つめながら、心の奥でそっと呟いた。

「みんなに愛されて、王として相応しいわ…蘭明」



何の問題もなく、式典は終盤を迎えていた。


その時だった——。


今まで晴れ渡っていた空が、徐々に暗く染まり始めた。


ざわめく群衆が空を見上げる。


太陽と月が、まるで重なろうとしているかのように輝きを交錯させていた。


「え…まさか…」


守華は、まだ階段の上に立つ蘭明を見つめながら、胸がざわつくのを感じた。

——もう、妖石はないはずなのに。


異変に気づいた蘭明も、一瞬で判断を下す。

階段を駆け降り、守華の元へ向かう。


周囲の人々が空を見上げている中、二人だけが互いに駆け寄ろうとしていた。

太陽と月が完全に重なる前に——。


空はさらに暗さを増し、周囲の景色が影に包まれていく。

時間が迫る。焦燥が胸を締め付ける。


「守華!」

「蘭明!」


二人の手が伸び、ようやく触れようとしたその瞬間——。

守華の元から、あの眩い光が一気に放たれた。


光は強烈で、目を開けることもできない。


やがて光が消え、周囲に再び明るさが戻った時——。


そこに守華の姿はもうなかった。


ただ、足首に付けていたアンクレットだけが、静かに残されていた。


蘭明はすぐにそれに気づき、そっと拾い上げた。

手の中で輝く小さなアンクレットに、守華の気配を確かに感じながら——。



目を開けると、見覚えのある守華の部屋だった。

寝ていたのだろうか。


涙が頬を伝っていることに気づく。

止まらない涙。

「蘭明…!」

思わず叫んでしまった。


周りを見渡す。

やっぱり自分の部屋、自分の洋服を着ている。

「なんで…!?なんで戻ってきてるの!?」


右手でTシャツの首元を少し下ろすと、胸の上にはあの傷はもうなかった。

「夢…だったの?」


携帯を手に取り、日付を確認する。3月1日、7時。


部屋から飛び出すと、キッチンではパパが朝ごはんを作っていた。

「おはよう!まだ着替えしていないのか?卒業式に遅れるぞ?」


卒業式……。

やっぱり、夢だったのかな。


でも、胸がこんなにも締めつけられるのは、どうしてだろう?


制服に着替えようとしたとき、右手首にミサンガがあることに気づく。

「このミサンガ…」


足のアンクレットは消え、腰のアザも跡形もなく消えていた。

夢じゃなかった、と確信する。


私は、蘭明を愛していた――いや、今でも愛している。

なぜ戻ってきたのかは分からない。


でもきっと、人を愛することを知り、蘭明を守ることができたから......

私の使命は終わったのね、ママ。


蘭明、私はこの世界で、あなたを愛しながら生きていく。

だから、蘭明も陽月国で元気に過ごして。

あなたなら、民を想い、素敵な陛下になれるはずだから。


カップルや親子連れで賑わう、夜景が一望できるこの場所。


蘭明、あなたもこの満月の月を見ていますか。


桜音亭から眺める月も美しかったけれど、ここ、この都会で、私が唯一「月が綺麗に見える場所」を見つけました。


隣にあなたがいてくれたら…と、つい想いを馳せてしまう。


でも、時は違えど同じ月を見上げているはず――そう信じている。


今はもう、泣くためではなく、蘭明を感じるために見上げている。


そして、今でも、どこにいても、あなたを想い続けている――蘭明。



4年の月日が流れた。

陽月国を去った歳と同じ、22歳になっていた。


大学を無事に卒業し、今日から社会人としての第一歩を踏み出す。

入社先は、花関係の会社——


“株式会社 サザンクロス”


その名前に、なんとなく惹かれた。

だって花言葉が


「願いを叶えて」「遠い思い出」


私と蘭明の物語に、まるでぴったりだと思ったから。

そんな理由で受けた入社試験だったのに、なんと受かってしまった。しかも社長面接なしで。かなりラッキーだった。


「ただいまより、株式会社サザンクロス入社式を行います」


ホテルの広間が一瞬で静まり返る。前列には新入社員が十人程度、後方には在籍社員がぎっしり。決して巨大な会社ではないけれど、空気は公式で、心臓が高鳴る。


「それではここで、株式会社サザンクロス 代表取締役社長 中村 れんより、ご挨拶を申し上げます。皆さま、どうぞご清聴ください」


“中村…” その名前が耳に入る瞬間、胸の片隅がざわついた。どこかで見覚えのある響き──蘭明が嘘で使った名前と同じだ。

思わず下を向いて、微かに笑みがこぼれる。


少し高くなったステージに、足音が響く。


「あの人が社長?かっこよくない?」


周囲の女子たちも騒ぎ始める。

社長面接がなかったのは私だけじゃなかったみたい。

一瞬、喜びを独り占めした気分になっていた自分が恥ずかしくなる。


「かっこいい!しかも若い!」


守華も顔を上げ、ステージを見た瞬間——


「らん、めい?」


社長と目が合い、時間が止まったように二人は見つめ合う。

周りの声も、騒ぎも、何も耳に入らなかった。


「蘭明……」


社長がニッコリ微笑む。

守華も自然と笑顔を返した。






——【第三章へ続く】

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