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守る華・守られる花  作者: ミシル
第二章 すずらん

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88/113

88.二つの想いを抱いて

「季昭!」

すずらんは笑顔を作り、手を振って季昭に駆け寄った。


「蘭皇は?」

「うん、もう大丈夫そう。季昭、ありがとうね」

「いや、俺は何もしてねーし」


「咲公主は?」

「星皇と一緒にいる」

「そっか……星曜なら、きっと幸せにしてくれるわね」


「会わなくていいのか?」

「会いたいけど、きっと会ったら別れが悲しくなるから……いいの」


歩き出す二人の間に、ほんの少しの沈黙。

「腕の怪我は大丈夫か?」

「うん!大丈夫よ。それより、早めに彩国に帰りましょう」


すずらんの笑顔は明るく見えた。けれど季昭には、無理に作った微笑みにしか見えなかった。

その笑顔の裏にある切なさ、必死で隠そうとしている痛みが、季昭の胸をぎゅっと締めつける。


少し前を歩くすずらんを、季昭が後ろからそっと抱きしめた。


「季昭?どうしたの?」

「ほんの少しだけ……」


いつもの冗談っぽい季昭とは違う、その声の奥に、守る者としての強さと、秘めた想いが混じっていた。


「なあ、すずらん。もし、俺が蘭皇より先に会っていたら……すずらんの心は俺ひとりのものになっていたか?」

「それは……」


守華は、答えを言葉にできずにいた。季昭は静かに、守華の肩に手を置き、そしてそっと離す。


「すずらんは、公主を守るために刺客に襲われて……死んだ」

「えっ?」


守華が目を見開く。

「どういうこと?」

季昭の瞳は揺らがない。


「お前は守華として、ここに残れ。咲公主にも話してある。陛下にバレることはない」

「季昭、何を言……」

「守華、本当のお前の姿を引き出せるのは、俺じゃなかった。蘭皇のところへ戻れ」


言葉に詰まり、守華の胸は押し潰されそうになる。

「……必ず幸せになれ」


季昭は優しく微笑み、守華の頭をぽんぽんと撫でた。

「じゃあな」


守華は立ち尽くし、視界が滲む。季昭はそのまま通り過ぎる。


「季昭……あなたはどこまで……いつも……」


涙が止まらず、守華は振り返り、夜風に乗せて季昭に叫んだ。

「季昭……もしあなたがいなかったら、私は今ここにいられなかった。本当に、本当にありがとう!あなたのおかげで、負けずに生きてこれた。あなたは……最高の人よ!」


季昭が振り返り、笑顔を守華に向ける。

「いつでも拐いにきてやるからな!」


守華も力なく笑みを返す。季昭は再び歩き出し、背中を見せながら手を振っていた。


季昭との出会いから今日までのすべてが、走馬灯のように守華の胸に流れる。


あなたを利用してしまったこと……

最低な選択をしたこと……

自分の気持ちに素直になれず、傷つけてしまったこと……


それでも、いつも味方でいてくれた……

最後まで、こんな私のことを思ってくれた……


「季昭に素敵な人が現れますように……」

季昭の私への思い、決して無駄にはしない。

必ず幸せになるわ、ありがとう……





守華は、蘭明の屋敷へ走った。

桜音亭で見た月明かりの下の木々の景色が、蘭明の横顔と重なり、胸が締めつけられる。


「蘭明」

「守華……季昭のところに戻ったんじゃ…」


守華は迷いなく歩み寄り、彼の袖を掴む。

「私が本当に彩国に戻ってもいいの?」

「それは……もちろんだ」


蘭明が歩き出すと、守華はすぐに立ちはだかり、静かに、でも強く言った。

「私と季昭は一線を越えてない。だから……私を引き止めないと、その口ちょん切るわよ」


蘭明は一瞬、守華の瞳を見つめ、そして低く囁いた。

「行くな!どこにも行くんじゃない!」


その言葉に守華は胸が熱くなり、涙を浮かべながらも微笑む。

「私は……もうあなたから離れない」


守華は蘭明の手を握り、胸に当てたまま見つめる。

蘭明は守華の言葉に微笑み、そっと抱き寄せた。

そのまま優しくお姫様抱きにして、二人は屋敷の中へと運ばれる。


部屋の明かりは月明かりだけ。

窓から差し込む柔らかな光が、二人の姿を静かに包む。

抱きしめられた守華は安心と温もりで胸がいっぱいになり、自然と涙が零れた。


蘭明は守華の髪を撫でながら囁く。

「もう離さない……ずっとそばにいる」

守華も小さく頷き、蘭明の胸に顔を埋めた。


夜が深まる中、二人は互いの鼓動を感じながら寄り添い、静かに時間を重ねる。

外の世界の喧騒も、危険も、過去の痛みもすべて忘れられる――

今、この瞬間だけが二人のものだった。



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