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守る華・守られる花  作者: ミシル
第二章 すずらん

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86/113

86.別れの中の約束

咲公主が陽月国へ嫁ぐ日。

蘭明と八軒、そしてすずらんと季昭も共にいた。護衛や侍女たちも引き連れ、列は賑やかに進む。


公主は馬車の中に座っていた。すずらんも本来なら馬車に乗るはずだったが、酔いやすいと嘘をつきフリーダムに乗って出発した。途中、休憩を挟むたびに、公主の話し相手となるのもすずらんの役目だった。


すずらんと季昭は並んで進む。蘭明とはまだ一言も交わしていないし、目も合わせてもらえなかった。


彩国から陽月国へ向かう途中、東泉村を通りかかる。


「蘭明にいちゃん!」

声の方を見ると、そこには蒼介が立っていた。


「おお、蒼介!」

すずらんと季昭の馬も自然と止まる。


「この子は……東泉村の?」

「そうよ、蒼介。知らない間に蘭明と仲良くなったみたいね」

「そうか」


すずらんは蒼介の方へ歩み寄る。

「蒼介、どうしたの?」

「あっ、すずらんもいたのか!?蘭明にいちゃんが今日、帰るって聞いたから……」

「お見送りに?」

蒼介は大きく頷いた。


そのとき、止まっていることに気づいた咲公主が馬車から顔を出す。


「少し時間いいですか?仲良くしていた子供が蘭皇のお見送りに来ていて……」

「分かったわ。私も疲れたから、少し外に出るわ」


「咲公主は俺が見てるよ」

気を利かせた季昭は、公主の方へ歩み寄った。


「蒼介、馬に乗ったことはあるか?」


問いかけに、蒼介は小さく横に首を振った。


「そうか。じゃあ、少しだけ乗ってみるか?」


「うん!」


ぱっと顔を輝かせる。その無邪気な笑顔に、蘭明は思わず口元を緩め、自分の馬へと蒼介を抱き上げた。


「わぁ……馬の上って、こんなに高いんだ!」


「怖いか?」


「ううん、全然!」


「さすがだな、蒼介!」


胸を張るように笑う蒼介の姿を見て、そばにいたすずらんの心も自然とほころんだ。


「いいか、蒼介。馬に乗ると見える景色が広くなる。その広がりは、いいものにも、悪いものにも映る。それを決めるのは蒼介自身なんだ」


「うん!僕は、いい景色が見えるようにがんばる!」


「そうか。じゃあ、そのときは私を後ろに乗せてくれよ」


「うん!」


そのやりとりを見守りながら、すずらんはふと想像する。

――もし蘭明に子どもができたら、きっとこうして不器用に、でも誰よりも大切に可愛がるのだろう。


なんとも微笑ましい光景だった。


「僕、大きくなったら八軒にいちゃんみたいに蘭明にいちゃんを守るんだ!」


「おぉ、よく言った!そのためには八軒のように強くならないとな」


「うん!あれから毎日、木刀で練習してるんだよ!」


「そうか、そうか」


蘭明は目を細め、誇らしげに笑った。


「蒼介、私も待ってるからな」


隣に並んでいる八軒が穏やかに言葉を添えると、蒼介は「うん!」と力強く返事をし、満面の笑みを向けた。


そして――蒼介は胸を張り、ちょっと照れたように宣言する。

「それで僕が強くなったら……すずらんをお嫁さんにもらうんだ!」


その瞬間、蘭明と蒼介が同時に後ろを振り向き、少し後ろにいたすずらんを見つめる。

不意を突かれたすずらんは、思わず立ち止まってしまった。


――えっ、今、私のこと……?


そして、今日初めて。蘭明のまっすぐな視線が、すずらんと重なった。

胸の奥がどきりと鳴り、頬がじんわり熱を帯びる。


「……それはダメだな」


低く響く声に、はっと我に返る。


「えぇー、なんで?」


「いいのか?蒼介が強くなる頃には、すずらんはシワシワのおばあちゃんだぞ」


「えっ……それはちょっと……」


「ちょっと!聞こえてるんですけど!」


思わず強い口調で言い返すが、鼓動の速さまでは隠せない。

そんなすずらんの反応に、蘭明と蒼介は顔を見合わせ、楽しそうにケラケラと笑っていた。


「蘭皇、そろそろお戻りの時間です」


声をかけられ、蘭明は小さくうなずくと、馬上の蒼介をそっと下ろした。


「蘭明にいちゃん、ありがとう!また会いに来てね!」


蒼介の瞳は期待に輝いていたが、蘭明は少し言いにくそうに目を伏せる。


「……また会えるのは、少し先になるかもしれない」


「え……そうなんだ……」


肩を落とす蒼介の姿に、蘭明は一瞬考え、腰から小さな剣を取り出した。

銀の刃が陽の光を受けてきらりと光る。


「これをやる」


差し出された剣に、蒼介の目が大きく見開かれる。


「大きくなったら、私を守るんだろう? そのとき、この剣を持って陽月国に返しに来い。私も八軒も、そのときは必ずお前を出迎えてやる」


「……うん!!」


蒼介は両手で大切そうに剣を受け取った。

そして、蘭明たちの姿が遠くに小さくなるまで、力いっぱい手を振り続けていた。

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