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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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67.離れる決意

年が明けた陽月国は、お祝いムードに包まれ、人々の笑い声や喧騒で賑わっていた。


その様子を、屋敷の塀に腰かけてじっと眺める守華。

八軒と話をしてからというもの、少しずつ外に出るようになっていた。

まだ以前のように心から楽しめるわけではないが、琉璃がいたころの穏やかな日常を少しずつ取り戻しつつあった。


今日は蘭明が宮廷に年明けの挨拶に出かけており、守華は屋敷に残っている。

本来なら守華も同行すべきなのだろうが、蘭明が「守華は屋敷でゆっくりしていていい」と気遣い、留守番を任せてくれたのだった。


「守華さまー」


塀の下から、白鋭の元気な声が響く。


「どうしたの?」


「一緒にシャボン玉やりましょう!」


「分かったわ」


守華は塀を降り、白鋭のもとへ向かう。

白鋭は守華に教わったシャボン玉の技をすっかりものにしており、今では守華を超える名人になっていた。

大小さまざまなシャボン玉を自在に作り出し、空高く舞い上がらせる。


小心や他の仕えている者たちも加わり、みんなで笑いながらシャボン玉を飛ばした。

光を受けて虹色に輝くシャボン玉は、ふわりふわりと空へと舞う。


「このシャボン玉も、琉璃に届くといいな」

守華はそっとつぶやき、目を細めて空を見上げた。



年が明けて5日経っても、蘭明は相変わらず忙しくしていた。

守華とゆっくり話す時間など、まったく取れそうにない。

今日も八軒を連れて宮廷に向かっている。


何もすることがない守華は、フリーダムの世話に手をかけていた。


「フリーダムも、走りたくなるよね。こんな狭い場所にずっといるなんて、我慢できないはず。走りに行こうか!」


守華はフリーダムを外に出し、自ら跨ると、フリーダムは嬉しそうに駆け出した。


向かった先は、大きな鳥居と立派な神木のある、蘭明の母の故郷だった。

守華自身も、なぜここに来てしまったのか、理由はよく分からなかった。

ただ、何となく足が向いてしまったのだ。


せっかく訪れたのだから、と呂布お爺さまに挨拶でもしていこうと思い、守華は鳥居をくぐった。


「呂布お爺さま、いる?」


守華は返事を待たず、勝手に家の中に入っていった。


「おお、守華か」


呂布お爺さまはそれでも嬉しそうに迎えてくれる。


「明けましておめでとうございます、呂布お爺さま!」


「ああ、明けましたな。おめでとう。今日は蘭明は一緒ではないのか?」


「蘭明は宮廷で年明けの挨拶に忙しいの。今日は私一人よ。蘭明がいなくちゃダメだった?」


「いやいや、守華だけでも十分嬉しいわい」


守華は思わず笑顔になる。


「妖石がもう無くなっておるな」


「えっ!?すごい、呂布お爺さま、なんで分かるの?」


「私を誰だと思っておるのだ。この村の長じゃ。妖石の力はすぐ分かるものよ」


「なるほど!だから、私たちの足首についていたのもすぐに分かったのね」


「無くなったということは、願いを言ったのだな」


「うん、私が言ったの」


「そうか。それでな、妖石には続きの話があるのじゃ」


「続き?」


「ああ。ただ、今まで妖石に願いを言った者はおらん。だから本当かどうかも分からんがな」


「それって、どんな続き?」


「妖石に願いを託した者。その身代わりとして、そばにいる最も愛する者が命を落とす」


「え……?」


守華は思わず固まる。


琉璃の死も関係しているの?

そばにいる、一番愛する者……蘭明!?


「呂布お爺さま、どうしてもっと早く言ってくれなかったの!?」


「いやいや、わしもそなたらが帰ったあとに思い出してのう……」


蘭明が……死ぬ?

また、私のせいで……?


「そばにいる者が、私と離れていれば助かるってことよね?」


「多分じゃがな」


蘭明を……いや、蘭明を死なせるわけにはいかない。


「でも、回避する方法は……」


守華がそう言いかけた瞬間には、もうその場にはいなかった。


「まだ話は途中なのにな……まぁ、また近いうちに来るだろう。その時にでも話してやればいいか」


呂布お爺さまは、のんびりとそんなことを思った。


フリーダムの背に跨り、全力で駆け出す。


蘭明が……死んでしまう……?

そんなの、絶対にいや。


どうしよう、どうしたら避けられるの……?

私が……愛さなければいいの?


いや、無理……もう、心の奥底まで愛してしまっている。


じゃあ、どうすれば……?

私のせいで琉璃も失い、蘭明まで……?


胸が押し潰されそうになり、頭の中がぐるぐると回る。

ダメだ、絶対にダメだ。


蘭明は、絶対に死なせない。

どんなことをしても、私は蘭明を守る――。


フリーダムを厩舎に戻し、守華は下を向いて足早に歩く。頭の中は焦燥と決意でいっぱいだった。


_____ドン


思い切り誰かにぶつかった。


「ごめんなさい……」


顔をあげると、見覚えのある顔――季昭が立っていた。


「季昭!?」


「こんなところで会えるとは、久しぶりだな、守華」


「なんで、あなたがここに?」


「守華、お前が彩国と和平共和を結んだんだろ。年明けの挨拶を兼ねて、正式な印を押しに来たんだ。まあ、彩国も他国との戦で遅れたがな」


「そう……これで、陽月国と彩国の争いも終わるのね」


「そうだな。でも……今日の顔、なんだか暗いな。蘭皇と何かあったのか?」


「別に、何もないわよ」


「そうか?まあ、ならいいんだけど。じゃあ、陛下のところに行って、守華の要望に同意してくる」


「うん」


季昭が守華の横を通り過ぎようとした瞬間、守華は迷いなくその腕を掴んだ。


季昭は立ち止まり、驚きながらも守華の顔を見た。


守華は真っ直ぐ前を見据える。胸の奥で、決断はもう揺るがない。


「あなた……前に私を奪いにいくって言ったわよね?」


「あ……ああ」


守華の真剣な表情に、普段は冗談ばかりの季昭も言葉を失った。


守華は下を向き、目を閉じて歯を食いしばる。頭の中で、琉璃のこと、蘭明のこと、そして自分の胸の奥の感情を整理する。


深く息を吸い、目を開ける。瞳には決意と覚悟が宿る。


「私を奪うなら……今、奪って!!」


「お、おまえ……何を言って……」


季昭の声は震えた。守華の瞳の奥に、揺るぎない覚悟見えた瞬間、季昭は言葉を失う。


その瞬間、守華の心の奥で何かが切り替わった。


——これ以上、愛する者を守るために悩むのはやめる。悩むのではなく守るだけだ。


守華は初めて、自分の決断に震えることなく、真っ直ぐ前を向けた。


これでいいんだ……これで……


ベッドの前を、腕を組みながら行ったり来たりする。


蘭明には、絶対に言えない。


私がそばを離れれば、蘭明は死なずにすむ。

それしか、方法はない。


「一緒にいる」って言ったけれど……

私たちが一緒にいることは、許されないみたい。


離れていても、蘭明が生きていてくれるなら、それで十分。


——一刻も早く、蘭明から離れなければ。

私の命よりも、蘭明の命が大事なんだから。


次の日、蘭明の目を盗んで、守華は朝早く屋敷を出た。


——陛下に会うために。


朝早いにもかかわらず、陛下は守華を迎えてくれた。


「陛下、こんなに早朝にお呼びして申し訳ございません」

「気にするな。それより、話とは何か?」


守華は深く一礼した。

「はい。陛下、私は守華として蘭皇と認めていただきましたが、蘭皇との結婚を辞退いたします」


「……ん?それはどういうことだ?そなたたちは一緒になりたかったのではないか?」


「私は今、役目を果たしました。妖石を消し去り、彩国との和平共和を結びました。楽士国との関係も安泰です。これから数十年、陽月国には戦のない平和が訪れるでしょう。勝利の女神としての務めは、これで終わりました。そして、失っていた記憶も戻り、自分の帰るべき場所が分かりました」


「記憶が?帰るべき場所とはどこだ?」

「ここより、もっと東に位置する国です」


「帰るべき場所に帰りたく、陛下の許しをいただきに参りました」

「そなたは陽月国のために何度も危機を救った。そなたが帰るべき場所があるのなら、帰るがよい。だが、蘭皇のことはどうする?」


「はい。蘭皇は、私がいなくとも民や周囲に愛され、陛下の力となるでしょう」


「そうか……そなたがそれで良いと言うのなら、好きにせよ」


「陛下。何もかも分からない私を疑わず、この陽月国に置いてくださったこと、心より感謝いたします」


守華は片膝をつき、深く頭を下げた。

「守華よ、朕はいつでもそなたを受け入れる。また、いつか、そなたの美しい舞を見せに参れ」

「有り難きお言葉。これにて失礼いたします」


守華は最後に一礼し、陛下に別れを告げた。



冷たい風が吹く川沿いを、守華は歩く。


ここに来たばかりの頃は、日本に比べて暑いと思ったのに、慣れると少しの涼風も肌に冷たく感じられる。


——これでいいんだ。私の選択は間違っていない。


人を愛するって……

その人に幸せになってほしい、そう心から思うことなのね。


例え、自分ではなくても構わない。

相手が生き、笑っていてくれるなら、それで十分。


——そう、生きていてくれれば……

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