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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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64.妖石と真実の出会い

翌日、守華と蘭明は陛下に教えてもらった蘭明の母の故郷へと向かった。


普段なら八軒や琉璃も一緒だが、今回は二人だけの旅だ。

村の入り口には大きな鳥居が立ち、遠くからでも村の中心にそびえる巨大な神木が見える。


鳥居をくぐると、村は活気に満ち、元気な声があふれていた。

馬を結び歩き出す守華と蘭明の横を、巫女の姿をした村人たちがすれ違う。

「きっと、母もあんな姿だったのだろう」と蘭明は心の中で思った。


二人は神木の前まで進み、見上げる。

枝葉が空高く広がるその神木は、想像以上に威厳を放っていた。


「か……えで?」


守華が見上げた目を下ろすと、そこには一人の老人が立っていた。

老人はゆっくりと守華に近づき、じっと顔を覗き込むように見つめる。


「か……えで、なのか?」


守華と蘭明は互いの顔を見合わせた。

沈黙の中、時間が少し止まったかのようだった。


「おじいさま、私は守華と言います」


「しゅ…か……?」

老人の目が一瞬、大きく見開かれる。


「待て、楓と言ったな。私の母の名前が楓だ」


その言葉に、守華と蘭明は顔を見合わせ、同時に声をあげた。


「「お爺さま!!??」」


老人は守華から目を離し、次に蘭明の方へゆっくりと歩み寄る。


「まさか、蘭明か……?」


「はい、蘭明です」


老人の目に、うっすらと涙が光った。

「こんなに立派になって……。赤ん坊のとき、一度だけ会いにきてくれたが、それっきりだったな。そうか……そうか、こんなに立派になって」


そう言いながら、老人は蘭明に抱きついた。

蘭明も照れくさそうにしつつ、しかし心から喜んでいる様子だった。


守華もその場に立ち、温かい空気に包まれながら二人のやり取りを見守る。

祖父と孫の再会――その瞬間、長い時を越えた絆が、静かに、しかし確かに蘇っていた。


呂布の家に案内された守華と蘭明。

中に入ると、古い木の香りと温かい空気が漂っていた。


「何か聞きたいことがあってここに来たのだろう?」

呂布はお茶を差し出しながら、すでに二人の目的を見抜いているかのようだった。


「はい。妖石と母の力についてです」

蘭明は真剣な眼差しで問いかける。


「妖石か……妖石の何を知りたいのだ?」


「妖石は、どこにあるのでしょうか?」

守華も緊張した面持ちで呂布を見つめる。


呂布はゆっくりと二人を交互に見た。

「なんだ、そんなことも分からずに付けておるのか?」


守華と蘭明は思わず顔を見合わせ、首をかしげる。


「妖石は、そこにあるぞ」

呂布は静かに両手を伸ばし、守華と蘭明の足首に向かって人差し指を差した。


二人は目を丸くし、その指先を見つめた。

静まり返った室内に、まるで空気が凍ったかのような緊張が漂う。


二人は互いに足首を見下ろした。


「……あっ!」


同時に、守華も蘭明も気づき、履いていた靴下をそっと脱ぐ。


そこには――守華も蘭明も、母から贈られたアンクレットがあった。


「同じもの……」

守華は驚きのあまり、しばし固まる。


二人の足首に輝くアンクレットは、まったく同じ形。

この時代では、靴下や履き物を常に身に着けていたため、足首を見る機会がほとんどなかった。

だから、これまでその存在に気づくことはなかったのだ。


ただ一つ違うのは――守華のアンクレットには月のチャーム、蘭明のには太陽のチャームがついていたこと。


「太陽から月が生まれた日、アザを持つ者が現る。妖石とアザを持つ者の力により、どんな願いも叶えられようぞ。それが、この村に代々伝わる妖石の伝説だ。しかし、噂が広まるにつれ、妖石を狙う者たちも現れた。蘭明の母、楓は生まれながら特別な力を持っていた。だから楓は、アザを持つ者が現れるその日まで妖石を封印し、守り続けたのだ」


二人は黙って聞き入る。


「その頃、蘭明の父である陛下がたまたまこの村を通り、楓に一目惚れした。私は宮廷に入って妖石を守る方が安全だと考え、二人の結婚に反対しなかった。しかし、それが裏目に出て、楓は亡くなったのだ」


守華と蘭明は言葉を失い、ただ黙って頷く。


「守華といったな?そなたには、もしやアザがあるのか?」

守華は小さく頷いた。


「なるほど……。今から言うことは推測に過ぎんが――。かつてひとつであった妖石を、楓が二つに分けた。そしてひとつは蘭明に、もうひとつはアザを持つ守華に託したのではないか。二つの妖石は、二人が揃わねば力を発揮しない」


守華が眉をひそめる。

「でも、無観に連れ去られたとき、満月だったのに、私も蘭明も一緒にいたのに何も起こらなかったわ」


呂布は静かに首を振る。

「満月は関係ない。妖石の力が発揮されるのは、太陽と月が重なるときのみだ」


守華の瞳が大きく開く。

「あっ! たしかに……私が蘭明のところに落ちたとき、太陽と月が重なっていた。そこには私と蘭明がいて、すると突然、光が差し込み風が吹いた」


「それが妖石の力だろう。誰かを守ろうとする際にも光ると聞いたことがある」


守華はさらに思い出す。

「じゃあ……満月のとき、私が放った矢が光っていたのも?」


「矢が光ったのか?」


守華が頷いた。


「楓も満月の日に矢を放つと光っていたな。もしかすると、守華も楓と同じような力を持っているのかもしれない」


守華の声は震え、瞳には驚きと戸惑いが混じる。

「私に、特別な力が……?」


「お爺さま、次に太陽と月が重なる日は、いつか分かるのですか?」

蘭明が静かに尋ねた。


「ああ、分かるさ。ちょうど一月後だ」

呂布の声には穏やかな確信があった。


「――一月後!?」

「そんなに、早くに……」

守華は小さく、呟くように嘆いた。


心の奥で、守華は考えていた。

きっと、私が日本に帰るときに、妖石を持ち帰れば、この時代で妖石を巡る争いはもう起こらないだろう。

日本で妖石の存在を理解できる者はいない。

だから、持ち帰っても安全なはず……。


――ママは、このことを私に託したのだろうか。

妖石を持ち帰れと……。


守華の胸に、ふと温かくも切ない想いが広がる。

もしかして、ママは――私にこれを託すために......


その後は、村の静けさの中でたわいもない会話に花が咲いた。

今まで会えなかったぶん、蘭明と呂布はお互いに思い出や出来事を語り合い、時折笑い声が村に響いた。


「今度はいつでも訪れるがよい」

「はい」

二人は馬に乗り、ゆっくりと村を後にした。


守華はふと、蘭明に小声で話しかける。

「ねぇ、蘭明も気づいたかもしれないけど……」

「ああ、あ〜」

「私がお爺さまが間違えるほど蘭明のお母さんに似ていること、満月の夜に矢を光らせられること、私と蘭明が母からもらったアンクレットのこと、蘭明の簪や子守歌まで、私の母が知っていたこと……」


守華はゴクンと唾を飲み込む。

「たぶんだけど、蘭明のお母さんの生まれ変わりが、私の母なのかもしれない」


「それは、俺も考えていた……まさか、そんなことが……」

「でも、きっとあり得る。じゃなきゃ、私が今ここにいる意味がないもの」


守華は真っ直ぐ蘭明を見つめた。

「蘭明のお母さんは特別な力を持っていたでしょ?その力をうまく使って私の母になったんだと思う。そして、私が生まれたら陽月国にアザがあった。きっと、亡くなった後も幼い蘭明のことを心配していて、生まれ変わって私に“蘭明を見つけて”と託したんだと思う」


「母が……」

「それに、妖石を日本に持ち帰らせ、陽月国で妖石を巡る争いをなくすこと。そして、蘭の簪を身につける蘭明を守ること――これが私が母から託された使命なんだと思う。」


「私を守る?」


「蘭明のお母さんは蘭明を守れなかったこと、きっと悔やんでたんだと思う。だから、生まれ変わって娘の私に託したのかも、って」


「母上が……それが、一月後か……」


「うん……」


「私と守華は、出会ったときからペアルックだったんだな」


「そうだね!ずっと同じものをつけていたんだね」


二人は笑い合った。

どこかぎこちなく、無理に笑っているようにも見えたが、それが精一杯だった。


「このミサンガも、切れることはないのか……」


守華からもらった右手首のミサンガを見つめる蘭明。

“守華とずっと一緒にいられますように”

その願いを込めたミサンガだった。


「逆に、切れなくていい」


「どうして?」


「ずっと、守華を近くで感じられるから」


その言葉に守華の胸は熱くなる。

込み上げる涙を必死に堪え、必死に笑顔を作る。


「そうね!私がそこから見張ってるわ」


涙をこらえるため、冗談めかして蘭明に向かって言った。

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