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守る華・守られる花  作者: ミシル
第一章 蘭

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63.本当の私

外は静まり返る桜音亭。

中も同じく、重苦しい空気に包まれていた。


守華、蘭明、八軒、瑠璃、小心、白鋭――

床に正座した全員の視線は下に落ち、言葉は凍りついている。


桜音亭の木の香りさえも、張りつめた空気の中でかすかに漂う。

誰一人として口を開かず、沈黙だけが支配していた。


「……この沈黙は、何ですか?」


ぽつりと口を開いた白鋭。

空気を読めないその一言が、逆に全員の視線を引き寄せる。


「そんな……みんな、怖い顔してるじゃないですかー」


白鋭が指をさすと、鋭い視線が一斉に突き刺さる。

慌てて指を下ろし、顔を伏せる白鋭。


「……よし!」


守華が立ち上がった瞬間、静寂がさらに濃くなる。

その瞳は強く光り、空気を切り裂くような存在感を放っていた。


「今日、ここにみんなを呼んだのは――私のことを話すためよ」


八軒が小さく声をかける。


「守華さま……思い出したのですか?」


守華は首を横に振る。

その表情には揺るぎない覚悟が宿っていた。


「思い出したんじゃない。

最初から……ずっと、覚えてるの」


その言葉は桜音亭の静寂の中で、まるで雷鳴のように響き渡った。

一瞬、全員の胸がざわめく。

空気が、守華の覚悟を受け止めるかのように、重く、静かに、凍りついたままだった。


守華に視線が一斉に集まる。

彼女の瞳には、迷いのない強い光が宿っていた。


「私にとって、ここにいるみんなは、とても大切な人たちよ。

今から話すことを信じるかどうかは、あなたたち次第。

でも、私は嘘偽りなく、全てを話す――最初は私自身も信じられなかったけど」


小心や白鋭は思わず唾を飲み込み、緊張で肩を小さく震わせる。


「私は、“日本”というところから来たの」


その言葉に、誰もが不思議そうな顔を向ける。


「ここには存在しない国よ。

きっと、違う時間軸――未来のずっと先の国から来たの。

なぜ突然、この陽月国に来たのか……正直、私にも分からなかった」


守華の真剣な表情に、周囲は静かに耳を傾ける。


「母が亡くなる前、私に言ったの。

『蘭の模様の簪をしている人を探しなさい。その人のそばに、光る石がある』――と」


「だから、私の簪に興味を持ったのか」


「そう。今まで見てきた蘭の簪とは、何かが違うと感じたの。

だから、蘭明のそばに母の言っていた光る石があるんじゃないかと思った」


「その光る石――妖石か?」


「たぶん……」


「でも、私は妖石を持っていない」


「うん、それも分かってる。

無観は私が妖石を持っていると勘違いしていたけど、持っていない。

でも、伝説や蘭明のお母様の特別な力が、何か関係しているのかもしれない。

私がこの陽月国に来た理由も、その妖石に関わることなのかもしれない」


「なら、妖石について調べないとだな。

父上が言っていた通り、近々母の故郷に行ってみよう」


「うん」


「つまり、私が今ここにいる理由はそういうことなの。

遠い未来、別の次元の国――“日本”から来たなんて、信じられないわよね」


守華はくすりと笑った。

その笑顔を見て、小心が立ち上がり、守華の手をぎゅっと握る。


「守華さま……私は、守華さまの言葉を信じます。

確かに想像しにくいですけど、最初から守華さまについてきた私は分かります!

服を切って短くしたり、たまに意味が分からないことを言ったり、私たちには理解できない行動をしていたのも……全部つながります。だから、守華さまを信じます!」


守華の言葉に、八軒も瑠璃も白鋭も立ち上がり、次々と頷く。

誰一人として、守華から離れる者はいなかった。


だが……


「でも、守華さま……」


小心の声は、今にも泣き出しそうだった。


「その、“日本”という国から来たのであれば、いずれここを離れることになるのでは……?」


その言葉に、みんながハッと息を呑む。

蘭明も、胸がざわついた。


守華は少し俯き、静かに語る。


「そうね……やらなきゃいけないことが終わったら、帰らなきゃいけないかもしれない。

日本には家族や友達がいる。今ごろ、私がいなくて心配しているかもしれないし……。

どうやって帰るかも分からないけど、たぶん妖石の願いで帰ることになるんじゃないかしら」


「そうですよね……守華さまの故郷にも、大切な家族や友達がいるなら……」


小心は堪えきれず、ぽろぽろと涙を零す。

白鋭もそれにつられて鼻をすすった。


「もう、泣き虫なんだから!

まだ、帰れるかどうかも分からないでしょ!

ほら、今は妖石のことを調べるのが先!

すぐに帰るわけじゃないんだから!」


守華と瑠璃は、小心に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。

小心は涙を拭いながら、うんうんと頷いた。


その瞬間、守華の目線の先に、外に出ていく蘭明の姿が見えた。


泣きじゃくる小心を琉璃に任せ、守華はそっと蘭明の後を追った。


「あれ?ここは私の許可がないと入れないんだけどな……」


振り向いた蘭明の前に、笑顔の守華が立っていた。

そして静かに、蘭明の隣に腰を下ろす。

二人が座るのは、桜音亭の屋根の上――守華が泣きたいときに訪れる、静かな場所だった。


「蘭明も、泣きたくなったの?」


「守華……」


「ん?」


「考えていなかった。守華は、ここにいる人間じゃないって薄々分かっていたけど……帰らなきゃいけないってことを」


「……」


「ずっと一緒にいられると思っていたのに……守華は、自分の故郷に帰ったほうがいい」


「蘭明……」


「妖石のことも、守華を故郷に帰す方法も、俺がちゃんと調べる。だから安心して」


守華は小さく頷き、空を見上げる。

夜空には三日月が柔らかく輝き、淡い光が二人を包んでいた。

「今日の月は三日月ね。でも、どんな形の月も、ここから見る月はいつも綺麗。

私の故郷だと、こんなに優しく光ってくれない。でも、もし日本に帰ったら、月が綺麗に見える場所を探すわ。

そして、私が見る月は、蘭明も同じ月を見ていると信じて」


守華はそっと蘭明の肩に寄りかかる。

蘭明は何も言わず、彼女を抱きしめる。

冷たい夜風が吹くたび、二人の間を静かに通り過ぎる。

言葉にはしなくても、互いの心はしっかりと繋がっていた。


それでも、二人はそれ以上何も言わなかった。

これ以上言葉を重ねれば、互いの胸をさらに締め付けてしまうことを、二人は知っていたから――

ただ、静かに寄り添い、月明かりの下で時間がゆっくりと流れていった。


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